第六十五話
――勇者とは、捕まえ続ける者である――
どこからか飛来した火球がボクに迫ってきた。距離もあったので足捌きだけで軽く避けた。火球を躱しながら、周囲を見回して魔物の姿を探した。
火球を撃ったであろう、紺色の狐がボクの近くでその小柄な体躯を晒していた。避けられたことに驚いているのか、硬直しているその体を蹴り飛ばした。骨を折るような感触がした直後、狐の姿は掻き消えた。
これで二体目。達成感はあるが、立ち止まってその感動を噛みしめることはできなかった。視界の端でいくつもの発光体が、こちらを向いているのが見えた。立ち止まったが最後、ボク目掛けて魔法の集中砲火が来ることは明白だった。
ボクは注意深く周囲を観察しながら、魔物の攻撃を避け続けていた。ボクに触れると退場になるため、その爪牙で攻撃してくる個体が滅多にいなくて助かった。様々な距離から不規則に飛んでくる多種多様な魔法を避けながら、魔物の身体能力の高さを生かした近接戦闘なんてボクにできるわけがなかった。
それに避けると言っても、完全に避けられているわけではなかった。体力の消耗を押さえるために最小限の動きで躱しているせいか、時折避けきれない魔法もあった。また魔法の余波で発生した石飛石楽や土煙のせいで、徐々に細かい傷が増えていった。
十二体目を捕まえた。石弓が邪魔になったので適当な場所に投げ捨てた。後で回収すればいいと考えていたが、投げた場所に飛んできた鉄塊が直撃して押し潰された。
もったいないと思いつつも、すぐに意識を切り替えた。なくなってしまった物はどうしようもなかった。体力はまだまだ残っていた。
二十一体目を捕まえた。このころになると、剣を持つのが難しくなっていた。いくら剣が軽く感じてもずっと振り回していれば、子供の細腕では疲れるのは当然だった。捨てて石弓のように壊されるのは避けなければならないし、多分体から離せば加護も消えるだろうと思ったので、再び背負うことにした。
三十五体目を捕まえた。背負っている軽いはずの剣がずっしりと重く感じてきた。避けきれなくて体を掠める魔法が増え、体中に小さくない傷をいくつも作っていった。まだ、足はボクの意志通り自由に動かせていた。
四十四体目を捕まえた。足がうまく動かなくなってきた。躱そうとして足がもつれて転んだり、避けられる魔法が数えられるほどに減ってきた。体は鉛のように重く、動くことが億劫だった。
五十体目を捕まえた。立っていることがやっとになり、吐く息も荒々しかった。ほとんど自らの血だけで赤く染まった体を見下ろした。それでもまだ、何十体という魔物がボク一人を取り囲んでいた。
そして、遂に、ネミコの声が街中に響き渡った。
「終了!いやぁ、ラマ、思ってたよりやるわね。五十体捕まえたら終わりにするって言い忘れてたけど、ちゃんと五十体捕まえたわね。よくやった!偉いぞラマ!本音を言えば、鬼ごっこらしくなかったっていうのが不満だけど」
そんな弾んだネミコの声が聞こえ、一気に襲ってきた安堵感で意識を手放しかけた。
「あっと、ラマ、そろそろ落ちそうね。いや、確かに致命傷って言う怪我は負ってないけど、それでも攻撃を受け過ぎよ。しょうがないわね……メタスタシス、トランクィランテ、よろしくね」
二種類の獣の遠吠えが街を震わせた。その直後、ボクは浮遊感に襲われ、気が付くとネミコの前でボロ切れのように転がっていた。血で汚れた体に、一切の傷のない姿で。
「……ありがと、ネミコ」
「構わないわ。だってそれ、ゲームクリアのご褒美だもの。それじゃあ、傷も治ったことだから、始めましょうか、ラマ?」
ネミコは担いだ大剣を軽々と振り回しながら、遊びにでも誘うかのような気軽さでそう言った。
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