第六十話
どうも、パオパオです。
なんか、今までと文体が違う気がします。
……何故でしょうか。いつも通り書いたはずなんですけど。
ヒロインをようやく登場させたはずなのに、どうしてこうなったんでしょうか。
書いた本人なのにわかりません。
……よくありますよね?こういうことって。多分。
――勇者とは、再会する物である――
「ネミ……コ……?本当に……ネミコ、なの?」
ボクの口から漏れ出るようにして出た問いに、少女は律儀に答えた。
「ええ、そうよ、ラマ。あなたの幼馴染にして唯一の友人の、ネミコ・ムロ・ディストルジオン。あなたの初めてのキスを貰った相手でもあるわ。まだ信じられないかしら?」
笑みを浮かべてボクを見る少女、いや、ネミコ。ネミコしか知らないはずの情報をこうも並べられれば、ボクとしては信じる外なかった。
「いや、信じる。信じるけどさ……ネミコはどうしてここに居るの?」
「あら。そんなことを言うなんて、つれないのね、ラマ」
ネミコは楽しげにそう言った。楽しげにしている理由が、ボクにはわからなかった。
「ねえ、ラマ。私はね、少し怒ってるの」
ネミコの唐突な物言いに、ボクは首を傾げた。怒っているとは言うが、そんな雰囲気は微塵も感じられなかった。そんなボクの様子を感じ取ったのか、ネミコは付け加えるように言葉を重ねた。
「わからないのね。それはそれでイラっとすることではあるけど、今は関係ないからいいわ。私が怒っているのはね、あなたがどこの売女とも知れない雌豚どもを引き連れて悦に入っていることよ」
――。頭が理解を放棄しようとするのを、理性を総動員して阻止した。ネミコの口から出たのだと信じられない過激な内容に、ボクは驚きを隠せなかった。
ニヤリ、と。ネミコがその口角を吊り上げるのを見て、急激に背筋が寒くなるのを感じた。それまでの暖かみを全く感じさせない冷たい視線が、ボクの傍で腰を抜かしていた女性たちに向けられた。
何故かそれがとても危険なものに見え、ボクは女性たちに注意を促そうとした。だがしかし、それはまたしても、遅過ぎた。
「雌豚どもを駆逐しなさい」
戯れのように、嘲るように告げられた言葉が耳に届いた直後。魔法が、降り注いだ。それは正しくボクが危惧していた、魔法の集中砲火だった。それが、ボクの傍で固まっていた女性たちが居たはずの場所に、雨のように浴びせかけられた。
爆発が、起きた。
業火が、稲妻が、氷刃が、水泡が、疾風が、光線が。ありとあらゆる衝撃が一点に集約され、互いに干渉し合い、一つの爆発を生み出した。時間にして一秒も続かなかったはずのそれが、ボクには永久に続くように思えてならなかった。
ネミコはその光景を見て、心底楽しそうに笑って見せた。その笑みが歪んで見えるのは、ボクの目が悪くなったからだろうか。
そして爆発が終わると、そこには何もなくなっていた。何かが存在していたという痕跡すら、その場に残ることを許されなかった。
絶句した。直前まで人が居たということを疑う程に、その場には何もなくなっていた。ふらふらと誘われるように近付いて、やはり何もないことを確認した。
涙は流れなかった。悔しい思いはあるが、そもそも赤の他人を殺されただけだった。ボクは今更そんなことで涙を流していいような、殊勝な人間ではなかった。その悔しさでさえ、失敗という結果が生み出されたことに対する、単なる諦念でしかなかった。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったわ。……あら?ラマ、あなたどうしたの?単に雌豚が消滅しただけじゃない」
きょとんとした顔でネミコはそう言い切った。その口振りには罪悪感の欠片もなく、その顔には疑問以外の感情は浮かんでいなかった。ネミコにとって、さっきのことは特別気にかけるようなことではないようだった。
ボクは逆に、これからどうしようかと迷いがあった。行動の指針を突然奪われてしまったので、やらなければならないことも、やりたいと思うことも今はなかった。
……ネミコの次の言葉を聞くまでは。
「こんな片田舎の街で始めてしまうのは風情に掛けると思うけれど。丁度いいから始めてしまいましょうか」
何を、とボクが訊ねる前に、ネミコは両腕を横に突き出して、大仰に言い放った。
「世界の命運を決める、勇者と魔王の戦いを!」
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