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偽善の体現者  作者: パオパオ
第六章
59/72

第五十九話

どうも、パオパオです。

今回、こんな展開にするつもりはありませんでした。

というかそもそも、プロットもなしに、その日その日思い付いた内容を書いているだけなんですけど。

寧ろ、毎度適当に投げながら今日まで続いてきたこと自体が驚きです。

多分、ラストも見え始めてきたので、最後までお付き合い頂けると幸いです。

……ラスト、年内には書けると思いますので。






 ――勇者とは、窮地に陥る者である――











 体が揺さぶられる感覚に、ボクの意識は浮上していった。開いた目にはマドレという女性の姿が映り、周りの暗さを見て夜になったことを理解した。体を起こして節々を解しながら、空き家を出る準備を進めた。


 音を立てないよう細心の注意を払って、扉の鍵を慎重に開けた。キィ、と扉が軋む音が微かに鳴りながら、唯一の出入り口が開け放たれた。数秒待って、外で動くものがないことを確認し、静かに空き家を出発した。


 道程は順調だった。昼間絡まれていたのが馬鹿らしく感じる程、外には人が居なかった。まるで、街から人が消えてしまったのではないかと思う程、人の気配が存在しなかった。


 違和感に気付いたのは偶然だった。月が雲に隠されたため、行くべき道を一本外れ、ボクたちは貧民街へと入ってしまった。しかしそこにさえ、生きている人を見かけることはなかった。


「何……コレ……?」


 見かける人影は、どれも元の姿を留めていなかった。月明かりを浴びたそれらは、体中に食いちぎられた跡が残る、ただの肉に成り下がっていた。

 辺りに散らばるゴミの正体を理解した途端、女性たちが揃って耳を劈くような悲鳴を上げた。そしてすぐに三人とも口を押さえ、内一人は道の脇に移動して嘔吐していた。その下で人の眼球が転がっていたが、言わない方がいいだろうと自重した。

 ボクは転がっている肉片の一つを手に取ると、月明かりに照らしてみた。まだ人間の一部分だったことが理解できる程に、腐敗は進んでいなかった。つまり、この辺りに転がる肉片とは、死んだ後それ程経っていない物だった。

 不自然に人の見当たらない現状と、死後、あまり時間の経っていない人だった物。それらが意味することを推測すると、脳が危険信号を鳴らした。警戒を強めた瞬間、それが遅かったことを理解してしまった。

 気が付けば、ボクたちは囲まれていた。グルルル、と唸り声が聞こえると、女性たちも気付いたようだった。いつの間にかボクたちは、死地に飛び込んでしまっていたということに。


 ボクたちを囲んでいるのは、大小様々な獣だった。それだけなら、ボクが死力を尽くせばまだどうにかなるかもしれないと楽観できた。魔法という絶対的な力なら、数の優位を覆すことくらい可能だった。

 問題なのは獣のほとんどが魔物だということだった。信じられないことだったが、青白く体毛を光らせている金色の虎や、見覚えのある橙色の狼もどきを集団の中で見つけてしまえば、他の変な色の獣も魔物だと認めるしかなかった。

 しかし、一体どういうことだったのだろうか。魔物というのは元来、群れることのできない生物のはずだった。見かけたら互いに殺し合って強くなろうとする魔物が集まっているなど、実際に見ている今でさえ目を疑うような状況だった。

 ゴクリ、と唾を飲み下した。魔法の集中砲火でも浴びせかけられれば、塵一つ残さずボクたちは消滅しただろう。神様の加護が今程信じられない時はなかった。

 いつ戦闘という名の一方的な蹂躙が開始されるのかと、ボクたちの緊張が極限まで高まっていた。魔物の発する多種多様な鳴き声と重圧に、ボクは知らぬ間に滝のような冷や汗を流していた。

 その時、遠くから声が聞こえた。


「黙りなさい」


 その一言が発せられた瞬間、一帯の空間が静寂に包まれた。カツ、カツ、と聞こえてくる誰かの足音が、この場を完全に支配していた。その誰かは魔物たちに道を空けさせながら、悠々とこちらに近付いているようだった。

 気が付くと、流れていたはずの大量の冷や汗は乾ききっていた。魔物の注意がボクから離れたのかと思ったが、そんなことはなかった。相変わらずボクと、ボクたちに近付く誰かに、魔物の注意は二分されていた。


 カツ、カツ、カツン。最後の一歩が地面を踏みしめるのと同時に、その存在の姿が明らかになった。それを見て、ボクは混乱せずにはいられなかった。

 それは、ここに居るはずのない誰かだった。それは、ボクのよく知る誰かだった。それは、ボクが知っていたはずの誰かだった。


「……どうして?どうして、ここに居るの」


 月の光に照らされて、長い金髪が輝きを放っていた。

 鍛えられ、無駄のない肢体が吹き荒ぶ風で見え隠れしていた。

 その背丈より遥かに大きな両手剣を、軽々と片手だけで肩に担いでいた。

 見る者を魅了する魔性の笑みをボクに向けながら、拗ねたように、知己である少女はボクに言った。


 久し振り、と。


読んでくれてありがとうございました。

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