第五十四話
――勇者とは、絡まれる者である――
万屋から出た後、ボクは何か面白そうな店はないかと街の中を練り歩いていた。そうしていると、突如として鎧を着た男たちに剣を抜かれた。いきなりの対応に硬直してしまったボクに、鎧を着た男たちは嘲りが込められた声音で話しかけてきた。
「てめぇがデーボレとラードゥロを殺ったっていうガキだな?まったく、ようやく見つけたぜ」
「ほんと、街中を捜す羽目になっちまったしな。にしてもよ、お前。この街で衛兵を殺すなんざ、思い切った真似してくれるじゃねえか。あぁ?」
デーボレ、ラードゥロという名前に聞き覚えはないが、目の前の男たちからすると、おそらく昨夜の男たちのことだろう。それにしても、何故この男たちはボクを捜していたのだろうか。
「……何の用ですか。ボクには人に追いかけられるような、後ろめたい真似をした覚えはないんですが」
そう告げると、片割れの男がいきなり激昂した。
「ふざけてんじゃねぇぞ、てめぇ!俺らの同僚殺しといて、後ろめたいことはない、だと?馬鹿にしてんのか、おらぁっ!」
「いえ?そんなつもりはありませんが、そもそもあれは襲われたから返り討ちに」
ボクの弁解の言葉は、剣を弄っていたもう片方の男に遮られた。片割れ程ではないにしろ、この男もどうしてか怒っているようだった。
「言い訳はいいんだよ、人殺し。どうであれ、この街の中で衛兵を殺した奴は死刑なんだよ。つーわけで、死ね、ガキ」
そう言葉を吐き捨てると、その男はボクに斬りかかってきた。とっさに抜いた剣で防ぐも、体重の乗った一撃は容易に防げるものではなかった。突然のことで炎を出す余裕もなかったため、地力と体格の差でボクは押されていた。
「うっしゃあ!そのまま止めとけよ!俺が止めさすからよぉっ!」
「ちっ、お前、手柄横取りする気かっ!」
片割れの男が剣を手に持って近づいてきた。もう片方の男はボクと鍔迫り合いをしているというのに、余裕の現れなのか、首を後ろに向けて男と口論をしていた。
ニヤリ、と口元を歪めた。今が好機。そう感じたボクは、一瞬力を抜いて相手の剣から離れると、炎を発生させるために精神を集中させた。
隙を生んでしまったことでこちらに意識を戻した男は、対峙しているボクが目を閉じて剣を向けてきていなかったことに安堵した。そしてすぐに自身の剣を握り直した。男の後ろからは、片割れの男が走り寄ってきていた。
その片割れの男は、剣を向けようとしている相手が目を閉じたことを、死を覚悟したのだと解釈したのだろう。ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、無駄に高く剣を振り上げた。
二人の男が同時に斬れる距離に入った瞬間、ボクは剣を薙ぎ払った。無論、剣に爆炎をまとわせながら。二人の人間の体をバターのように両断しながら、剣は地面に刺さって止まった。
男たちは何が起きたのかわからっていない様子だった。男たちにとってみれば、剣を振ろうとした瞬間に、文字通りの体に焼けるような痛みが走ったのだ。炎をまとったボクの剣は、男たちには理解できなかっただろう。
男たちの体が完全に焼け焦げたのを見届けると、ボクは剣の炎を消した。これでは戦利品は何も得られないだろうが、仕方ないと割り切った。
元々、鉄を焼き切る炎という反則的なまでの力を持っているのだ。それを扱う弊害として、それくらいは受け入れなければならなかった。というより、昨夜の相手から戦利品が得られたのは、あの男たちが上手く焼けたからだっただけで、普通はまともに何かが残ることはなかった。それこそ、食料になる野生動物相手でもない限りは。
ボクは汚れ一つない剣を鞘に仕舞うと、再び歩き始めた。当て所もなく、ただぶらぶらと。
人間を殺すことに何も感じない自分という生き物は、どこか壊れているかもしれない。そう感じながら。
読んでくれてありがとうございました。
意見、感想、評価などをもらえると嬉しいです。