第五十話
――勇者とは、再訪する者である――
門の前に立つと、横から声をかけられた。どこか聞き覚えのある声だった。
「おい坊主、こんなところで何やってんだ。って、あん?お前、どっかで見たことあるような……」
声の方に顔を向けると、そこにはくすんだ銀色の鎧に身を包んだ一人の男がいた。男はボクの姿を見て、何かを考えているようだった。
けれど、ボクはそれを待つつもりはなかった。柔らかな布団がボクを待っているのかと思うと、一刻も早く街の中の宿へ向かいたかった。
「街の中に入りたいのですが、門を開けてくれませんか」
「ん、あ~。ちょっと待ちな。街に入るんなら、あっちでちょいと書いてもらうもんがあるからよ」
「……そうなんですか。そういったものを書くのは初めてです」
「いや、普通書くだろう。え、お前書いたことねえの?旅人っぽいのに、胡散臭い感じだな」
「はあ、そういうものですか」
男に連れられて、門の脇にある小さな詰所の中に入った。そこにあった椅子に座ると、羊皮紙を一枚差し出された。
「内容読んで、同意するなら下の空いてるところに名前を書きな。そうすりゃ門を開けてやるから」
男は別の羊皮紙に何かを書き込みながらそう告げた。言われた通り、羊皮紙の内容に目を通した。街の中でしてはいけないことや、犯罪を起こした際の罰則などが書かれていた。特に自分に害はなさそうなので、ためらいなく自分の名前を空欄に書き込んだ。
「……よし、これで大丈夫だ。じゃあ門を開けるぞ。外出てろ」
男は名前が書いてあることを確認すると、自身が書いていた羊皮紙の上にそれを重ねて棚の中に仕舞った。そしてボクを詰所の中から追い出した。
外に出たボクは、門が開き始めているのを見てそちらへ寄っていった。人が二人通れそうな程開いたところで、門の動きが停止した。ボクは早歩き気味に門の間を潜り抜けた。
既視感を覚える街並みが、ボクの目の前に広がっていた。けれど、何となく活気がないように感じた。貧民街らしき格好の人間が、昼間だというのに堂々と歩き回っているからだろうか。
ボクがこの街に入ったときから、貧相な姿の人間が視界からいなくなることはなかった。誰かがボクを追っていたわけでも、ボクが誰かを追っていたわけでもなかった。単純に、貧民街の人間が多数出歩いているのだった。
逆に、普通の服装の人間は見当たらなかった。ボクも旅をしていたために、着ている物はボロボロだった。それがボクを助けていたと知るのは、もう少し後のことだった。
少し寂れている街並みを抜け、街の中心にある広場へやってきた。そこには、首を傾げるような光景があった。
広場にある店は、目測で二~三十くらいになるだろう。しかし、その内で開店していたのは半分程度だった。
開いている店には、それぞれに一人か二人の鎧を着た人間がついていた。用心棒のようなものだろうか。
開いている店の一つに、宿屋という看板を掲げている建物があった。それを見つけた瞬間、ボクは他の店を全て無視してボクはその宿屋に向かった。
そんなボクの姿を見ている、鎧を着た男たちの視線に気付かないまま。
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