第四十八話
――勇者とは、指針を持つ者である――
目を覚ましたボクは、無心で体を解していった。何かを考えようとしても、何から考えていいのかわからなかったのだ。とりあえずボクは体を動かしながら、これからの指針をまとめていった。
ネビアさんが亡くなってしまった今、ボクがやらなければいけないことも、やろうとしていることもなくなっていた。勇者としてのボクの役割の一つに困っている人を助けるというものがあったので、当面はそれをやっていこうと思った。
かつて聞いた物語の中に、勇者と名乗る存在が出てくるものはいくつもあった。どの話の中でも、勇者は仲間とともに魔王を倒し、世界を平和にしていた。話によっては相討ちになっていたが、それでも魔王は倒していた。
ボクに求められているのは、つまりはそういうことだろう。旅の結末として、魔王と戦い、倒すこと。それが勇者としての、ボクがしなくてはならないことだった。
それを達成するために、ボクは神様から加護の込められた品をもらえたのだと想像がついた。ボクのようなただの村人だった人間に魔王を倒させるには、それ位しないと途中で死ぬのは明らかだった。というか、加護があってもボクは死にかけた。
そう考えると、あのベスティアという狼もどきは、神様からの使いなのだろうか。死にかけていたボクを救い、治療までしてくれたあの魔物には、感謝してもしきれなかった。
もう少し、身近なことに思考を移した。これから、ボクがどうするべきか。困っている人を助けたりしながら、実力の向上を目指さないといけないのはわかっているが、もう少し具体的な案がほしかった。
現状、ただの魔物にも後れをとっているようでは、魔王と戦っても一秒ともたずに死んでしまうだろう。あの狼もどきとまでは言わないが、せめて緑の熊くらいの魔物は倒せるようにならなければ、旅の途中で死んでしまう可能性は高かった。
物語の勇者たちのように、仲間を集めようとは思わなかった。魔王が現れたという話も聞いていないし、ボクみたいな子供が勇者だと名乗っても相手にされないだろう。勇者だと証明する手段もなかったのだから。
それ以前の問題として、ボクは自分の身も守れないのに他の人と一緒にいるつもりはなかった。他人に自分の命を預ける、なんてことをするつもりはなかった。
まずボクがすべきなのは、実力の向上。つまり、戦闘などのあらゆる技術の修得、またその経験を得ること。旅の途中で命を危険に晒さないためにも、生き残るための能力は必須だった。
どうやって磨いて行くのかと聞かれると、実戦の中でとしか答えられないのが残念すぎた。けれど、大人たちから教わることができず、またする気もない以上、手段がそれしかないのも事実だった。
それにしても、一度死にかけたせいなのか、ものの考え方が以前とは違う気がした。勇者としての責務など、これまでは考えもしていないことだった。成長したのか甚だ疑問ながらも、とりあえず悪いことではないので、気にしないようにした。
考えているだけでは何も始まるわけがなかった。とりあえず今までに考えたことは心の片隅に置き、ボクは出発しようとした。
周囲を見回して、完全に人の気配がないことを確認した。それで、どちらに行けば街があるんだろうか?
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