第四十三話
どうも、パオパオです。
今回、少し文が雑になってしまった気がします。要反省です。
それと、先に言っておきます。ヒロインは一人だけです。
――勇者とは、失う者である――
先に動いたのは、緑の熊の方だった。緊張から動けなくなっているボクたちの前で、緑の熊は徐に近寄ってきた。それは生物の好奇心からの行動などではなく、ただの、捕食者としての行動だった。
荒い息を吐き、両目をギラギラと輝かせていた。こちらを見る視線に友好的なものは微塵も感じられず、舌なめずりをする姿には怖じ気しか覚えなかった。
緑の熊は、その巨大な身の丈にそぐわぬ知性の深さを持っていた。近付いてきた熊がとったのは、突進でもなければ雄叫びでもなかった。魔術行使。それが、魔物たる緑の熊がとった第一手だった。
緑の熊の全身が、目に痛い程の緑色に発光した。何が起きているかわからないボクは、ネビアさんが熊から視線を逸らさないまま叫んだ言葉で理解した。
「魔術っ!早速か、魔物めっ!」
魔術。初めて見るものだった。どんな効果を発揮するかはわからないので、敵の動きへの警戒を強めた。けれど、そんなことに意味はなかった。
ボクが緑の熊に注意を向けた瞬間、そこには何も居なくなっていた。ボクは一秒も視線を外していなかったはずだった。理解できない状況に、ボクの頭は混乱の極みにあった。
「っ!後ろへ跳べっ!」
突然かけられた言葉に、考える前に体が従った。次の瞬間、先程まで自分が居た場所に、風を引き裂くような音が生まれた。本能がガンガンと警鐘を鳴らし、ここで止まっているのは危険だと判断させられた。
風が起きた場所から離れるように動いた。その間、何度も自分が居た位置に風と音が生まれた。それらは何故か、とても危険なものに思えて仕方なかった。
「な、何なんですか、あれ!っていうか、あの熊はどこに行ったんですか!?」
「多分、目に見えなくなってるんだと思う。それがあの熊の魔術みたいだね、って厄介すぎるでしょ!ああ、もう、どうしろっていうの!?」
ネビアさんも落ち着いてはいられないようだった。それも当然か。ネビアさんの言う通り、あの熊が見えなくなっているのだとしたら、ボクたちはどうやって戦えばいいのだろうか。
闇雲に剣を振り回しても、当たるとは思わなかった。寧ろ、隙が増えてより危険になっただろう。どうしたものかと、小走りしながら考えていた。
ふと気が付くと、ボクを追って発生していた風と音は止んでいた。なんとなく危険がボクから遠ざかったと感じ、そのことをネビアさんに伝えようかとそちらを向いた。
そして、ゆらり、とネビアさんの背後の空間が揺れたような気がした。
「ネビアさんっ!」
「何――」
振り返ろうとしたネビアさんの体は、回転しながら吹き飛ばされていった。いくつもの骨が砕けた音が周囲に響き、ネビアさんの体は何度も地面を跳ねながら遠ざかっていった。近くの木に衝突し、そのまま動かなかった。
「あっ……。そん、な……」
ネビアさんが吹き飛ばされた場所に、緑の熊が現れた。姿が消せるのには時間制限があったのだろう。けれど、今のボクはそんなことに気を向けていられなかった。
崩れ落ち、膝立ちになった。体を震わせながら、見つめる先にあるのは、動かないネビアさん。人間の体の構造的に不可能な体勢をとっている彼女は、もう、生きてはいなかった。
「……ぁあああぁぁぁああぁぁっ!!」
その姿勢から立ち上がり、再び体を発光させている熊に向かって駆け出した。剣にはかつてない大きさの炎がまとわりついていた。感情の急激な昴りのために、過剰な精神力供給でもしたのだろう。
熊が姿を消す直前、ボクは全力で剣を降り下ろした。何の抵抗もなく、剣は地面に突き刺さった。避けられた。
振れば当たると剣を引き抜いたボクに、味わったことのない程の鈍痛が走った。剣を握りしめたまま宙を飛ぶボクの体は、一撃で戦闘不能に追い込まれていた。
左上半身がを中心に痛みが広がり、動かせるのは右手の指と足ぐらいだった。これでは何もすることができなかった。
自分の無力さを悔やみながら、出血によって意識が薄れていった。最後に聞いたのは、緑の熊の勝利の遠吠えらしき咆哮だった。
読んでくれてありがとうございました。
意見、感想、評価などをもらえると嬉しいです。