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偽善の体現者  作者: パオパオ
第五章
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第四十三話

どうも、パオパオです。

今回、少し文が雑になってしまった気がします。要反省です。

それと、先に言っておきます。ヒロインは一人だけです。






 ――勇者とは、失う者である――











 先に動いたのは、緑の熊の方だった。緊張から動けなくなっているボクたちの前で、緑の熊は徐に近寄ってきた。それは生物の好奇心からの行動などではなく、ただの、捕食者としての行動だった。

 荒い息を吐き、両目をギラギラと輝かせていた。こちらを見る視線に友好的なものは微塵も感じられず、舌なめずりをする姿には怖じ気しか覚えなかった。

 緑の熊は、その巨大な身の丈にそぐわぬ知性の深さを持っていた。近付いてきた熊がとったのは、突進でもなければ雄叫びでもなかった。魔術行使。それが、魔物たる緑の熊がとった第一手だった。

 緑の熊の全身が、目に痛い程の緑色に発光した。何が起きているかわからないボクは、ネビアさんが熊から視線を逸らさないまま叫んだ言葉で理解した。


「魔術っ!早速か、魔物めっ!」


 魔術。初めて見るものだった。どんな効果を発揮するかはわからないので、敵の動きへの警戒を強めた。けれど、そんなことに意味はなかった。

 ボクが緑の熊に注意を向けた瞬間、そこには何も居なくなっていた。ボクは一秒も視線を外していなかったはずだった。理解できない状況に、ボクの頭は混乱の極みにあった。


「っ!後ろへ跳べっ!」


 突然かけられた言葉に、考える前に体が従った。次の瞬間、先程まで自分が居た場所に、風を引き裂くような音が生まれた。本能がガンガンと警鐘を鳴らし、ここで止まっているのは危険だと判断させられた。

 風が起きた場所から離れるように動いた。その間、何度も自分が居た位置に風と音が生まれた。それらは何故か、とても危険なものに思えて仕方なかった。


「な、何なんですか、あれ!っていうか、あの熊はどこに行ったんですか!?」


「多分、目に見えなくなってるんだと思う。それがあの熊の魔術みたいだね、って厄介すぎるでしょ!ああ、もう、どうしろっていうの!?」


 ネビアさんも落ち着いてはいられないようだった。それも当然か。ネビアさんの言う通り、あの熊が見えなくなっているのだとしたら、ボクたちはどうやって戦えばいいのだろうか。

 闇雲に剣を振り回しても、当たるとは思わなかった。寧ろ、隙が増えてより危険になっただろう。どうしたものかと、小走りしながら考えていた。

 ふと気が付くと、ボクを追って発生していた風と音は止んでいた。なんとなく危険がボクから遠ざかったと感じ、そのことをネビアさんに伝えようかとそちらを向いた。

 そして、ゆらり、とネビアさんの背後の空間が揺れたような気がした。


「ネビアさんっ!」


「何――」


 振り返ろうとしたネビアさんの体は、回転しながら吹き飛ばされていった。いくつもの骨が砕けた音が周囲に響き、ネビアさんの体は何度も地面を跳ねながら遠ざかっていった。近くの木に衝突し、そのまま動かなかった。


「あっ……。そん、な……」


 ネビアさんが吹き飛ばされた場所に、緑の熊が現れた。姿が消せるのには時間制限があったのだろう。けれど、今のボクはそんなことに気を向けていられなかった。

 崩れ落ち、膝立ちになった。体を震わせながら、見つめる先にあるのは、動かないネビアさん。人間の体の構造的に不可能な体勢をとっている彼女は、もう、生きてはいなかった。


「……ぁあああぁぁぁああぁぁっ!!」


 その姿勢から立ち上がり、再び体を発光させている熊に向かって駆け出した。剣にはかつてない大きさの炎がまとわりついていた。感情の急激な昴りのために、過剰な精神力供給でもしたのだろう。

 熊が姿を消す直前、ボクは全力で剣を降り下ろした。何の抵抗もなく、剣は地面に突き刺さった。避けられた。

 振れば当たると剣を引き抜いたボクに、味わったことのない程の鈍痛が走った。剣を握りしめたまま宙を飛ぶボクの体は、一撃で戦闘不能に追い込まれていた。

 左上半身がを中心に痛みが広がり、動かせるのは右手の指と足ぐらいだった。これでは何もすることができなかった。

 自分の無力さを悔やみながら、出血によって意識が薄れていった。最後に聞いたのは、緑の熊の勝利の遠吠えらしき咆哮だった。


読んでくれてありがとうございました。

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