第四十話
――勇者とは、処理する者である――
朝の陽射しを浴びながら、ボクは大きく伸びをした。凝った体がバキバキと音を立てて鳴り、心地よい快感を感じた。時間を贅沢に使い、体の隅々まで解していった。
さっぱりとした気分になるも、鼻を突く異臭に顔をしかめた。臭いの発生元へと視線を送れば、そこには三つの死体があった。昨夜、そのまま放置していたことを思い出して、少し憂鬱になった。
ネビアさんが寝ているのを横目で確認しながら、転がっている死体に近寄っていった。傷口自体は焼けてしまっているものの、判別できない程ではなかった。だからこそ、昨夜の襲撃者が誰だったのかを理解できてしまった。
死体は二種類だった。二つは、見覚えもないみすぼらしい男。この二つはそれなりに質のいい長剣を持っていた。それらは状態もよく、もらっておこうと思った。
残る一つは、見覚えのある顔をしていた。黒い男の人の家にいた、ボクよりは年上なだけの少女。彼女がボクらを襲った主犯格のようだった。
知り合いを手にかけたことに若干の嫌悪感は覚えたものの、すぐに思考を切り替えた。殺らなければ、殺られていた。昨夜の会話からも明らかなことだった。
一瞬ためらいながらも、死体の懐に手を突っ込んだ。炎は体を斬っただけなので、何か使えそうなものが残っているんじゃないかと思ったからだった。男二つから少しの携帯食料を、少女だった物からは無事だった瓶二本と、ここ周辺の地図を手に入れた。
ちなみに、瓶の中身は捨てた。中身が毒薬か回復薬かわからなかったからだ。下手に使って自分たちが窮地にでも陥ったら笑えなかった。安全第一。
めぼしい物もなくなったので、三つの死体は未だに眠り続けているネビアさんから遠ざけることにした。流石に人一人分の重量は重く、運ぶのにかなり苦労しつつも、近くの森の中に運び込んだ。
これで野生動物たちがあれらを自分の糧にするだろう。運動後の心地よい疲労を感じながら、かいた汗を袖で拭った。引きずった跡が地面に残ったが、気にすることではなかった。
ネビアさんが起きたのは、なんと昼前だった。今のネビアさんに男のボクが近付いたらまずいと思い、起こさなかったのが災いした。一度起こさないと決めたから、意地を張って起こさなかったという所もあったが。
ルバートに入る前は、ボクよりもネビアさんの方が早起きだった。どうしてこんな時間に起きたのかと訊ねると、その答えは簡潔だった。
「眠れなかったの。いや、眠れてはいたんだけど、すぐに起きちゃって。だから今も、結構眠たかったりするんだけど」
片手で目を擦り、もう片方の手で欠伸を抑えるネビアさんの姿に、ボクは少しの罪悪感を感じた。もう少しでも早く夕べの襲撃者たちを倒していれば、そんなことはなかっただろう。
気落ちしたボクに気づき、ネビアさんはあわてて取り繕った。
「い、いや、君のせいじゃないよ。むしろ昨日の奴らが襲ってくる前の話だから。どっちかって言うと、奴らが死んだ後の方がぐっすり眠れてたからさ。ありがとね、ラマ」
感謝の言葉を告げられ、少し顔が赤くなったボクは、ネビアさんから顔を背けた。そんなボクを見てネビアさんは笑い、ボクとの間に少しばかりの信頼が生まれたように感じられた。
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