第三十八話
――勇者とは、新天地を求める者である――
翌朝、朝食を終えた後に、黒い男の人と一緒にネビアさんのいる建物へ向かった。旅の用意が準備できたので、ネビアさんに問題がなければ今日にでもこの街を出るつもりだった。
例の建物に到着し、二人で中に入った。相変わらず、数多くある寝台の上には漏れなく怪我人がいた。あまり視線を合わせないようにしながら、建物の奥へ入っていった。
ネビアさんもまた、昨日と変わらなかった。中空をぼんやりと見つめ、何もしようとはしていなかった。そんなネビアさんに、ボクは声をかけた。
「ネビアさん、別の街に行ってみませんか?」
「……」
「旅の準備もできてますから、いつでも出られますよ」
「……」
「ネビアさん……」
何とも言わないネビアさんだったが、小さく頷いたように見えた。
「行きましょう」
そう言って伸ばした手をネビアさんは取らず、自らの力で静かに寝台を降りた。その行動に少し悲しくなりながらも、ネビアさんの少し前に立ち、前に進んだ。横や後ろでは、はっきりと嫌がったから。
黒い男の人に礼を言って別れた後、ネビアさんを連れて武器を取りに行った。黒い男の人が付いてこなかった理由は、純粋に治療が必要な相手が残っていたからだ。必要以上に連れ回すべきではないと思った。
到着したボクたちを昨日と同じ二人が迎えた。すぐに片方から布に包まれた武器が渡された。確認の意味を込めて包みを開くと、間違いなく石弓と三本の短剣がそこにあった。
二人に礼を言ってその場から離れ、向かっているのはこの街の出入口だった。会話もなくただ歩き、目線を向けることもなかっボクとネビアさんの間には、この街に入る前の倍の距離が空いていた。
ネビアさんは、男性恐怖症という病気にかかったと黒い男の人から聞いた。ボクを含め、男性に対してネビアさんは近付こうとはしていなかった。ボクが武器を受け取った時も、ネビアさんは離れた位置で見ていた。
原因はわかっていた。ネビアさんが誘拐されてから、助け出すまでに時間をかかりすぎたせいだった。その間、ずっとというわけではないだろうが、かなりの時間をなぶられていたのだろう。ネビアさんが味わった苦痛は計り知れなかった。
出入口に着き、入る時にはいなかった門番と話した。感謝の言葉を告げられた後、すぐに街の外に出してくれた。黒い男の人が事前に伝えていたおかげで、面倒な手続きなしで出られるのだそうだった。
振り返って一度頭を下げた後、ボクたちはルバートを後にした。
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