第三十七話
――勇者とは、選ぶ者である――
黒い男の人の家で、ボクはまたしても暇を持て余していた。本を読むために残っていた少女に聞いたところ、武器が保管してある場所はここではないようだった。やることがないと告げたボクに少女は本を渡したが、やはり理解はできそうもなかった。
「薬草学のすすめ:応用編」と書かれたそれを開いた。最初から応用と言われても、わかるわけがないとわかっていた。けれど、あまりにも暇だったので手慰みに弄っていたのだった。
パラパラとめくっているうちに、いくつか見覚えのある単語を見つけた。村にいた頃の教育の一つに、ほんの僅かだが薬草学もあった。そういったまだ知っている単語を見つけると、その周辺の記述を読んでいった。
この本は流石に応用編らしく、ボクの知らない薬草の効果や使い方が載っていた。しかしながら、知らないのはそれだけではなかった。調合に必要な道具、一緒に使うと効果が上がる薬草など、知らない名前のものが多すぎた。
いつかは役に立つかもしれないと記憶していくうちに、黒い男の人が帰ってきた。出迎えた少女に労いの言葉をかけると、ボクのことを呼んだ。今から武器を選びに行くのだろう。少しだけ興奮しながら、その黒い背中を追った。
黒い男の人に連れられた先には、二人の若い男が武器を持って立っていた。その後ろには小さな建物があり、二人が守っているのだと傍目に理解させられた。
黒い男の人を見ると、二人は大声で挨拶した。それを軽く受け流し、黒い男の人は中に入っていった。二人の間を通る時に頭を下げながら、ボクもそれに続いた。
並べられた武器たちは、あまりいい状態とは言えなかった。剣は総じて刃が欠けたり半ばで折れていた。いくつかある弓も、所々が焦げてしまっており、すぐに壊れてしまいそうだった。
自分のせいでこうなったのだと、一目で理解できた。炎をまとった剣で防御ごと切り捨てていったために、剣は折れ、持ち物は焼け焦げてしまったのだろう。ある意味自業自得な結果に、小さくため息を吐いた。
少しでもいいものがないかと念を入れて探した。すると、剣と剣の間に隠れるように、破損のない石弓を見つけた。手に持ってみると、ボクでも問題なく使えそうな程軽く、これをとりあえずもらおうと黒い男の人の方に振り向いた。何故か黒い男の人は苦笑していた。
その後、使うのに支障がなさそうな短剣を三本選んで渡した。できることなら値ビア山陽に長剣の一本でもほしかったが、剣はどれも質が悪すぎた。
黒い男の人は受け取った四品を布で包むと、建物の前にいた人の片方に手渡した。その際に何かを囁いていたが、ボクには聞き取れなかった。
黒い男の人の家に戻って、一緒に昼食を食べた。少女からまた別の本を借りて、日が沈むまで読みふけった。夕食を摂った後、程なくしてボクは布団に向かい、そのまま眠りに就いた。
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