第二十八話
――勇者とは、知を得る者である――
「それじゃあ加護についてだが……その前に、君は人間がどうやって魔法を発動させているか知っているか?」
「えーっと、意思の力……とかでしょうか」
ボクがそう答えると、黒い男の人は人差し指を立て、左右に振った。
「考える方向からして全然違う。先に答えを言うと、人間はどうやっても自分じゃ魔法は使えない」
「……え?いや、使えるでしょう。ボクだって使えますし」
「いいや、違うよ。人間に使える可能性があるのは、現在では魔術だけだ。これに関しては統計的なものがあるから、いつか魔法を扱う人間が現れることもあるかもしれないけど……」
「……?」
正直、何を言っているのかわからなかった。人に魔法が使えないのなら、ボクが使っている炎や、世間に存在する魔法使いは何を使っていたというのだろうか。
「いいか、私たちが使っている魔法とは、厳密には私たちが使っているんじゃないんだ。私たちは精神力を消費して、魔法を行使している。じゃあ、その発動のために必要なものは?」
ボクが魔法を使う時に必要なもの?そんなものは一つしかなかった。
「もしかして……加護の込められたもの、ですか?」
「その通り。それが巷に存在する魔法使いたちの正体であり、私みたいな加護を利用する人間の実態だ。尤も、そんなことぐらいは誰だって少し調べればわかることだが。別に隠されているわけでもない」
なるほど、とボクは感心した。ボクは傍から見れば剣士にしか見えないだろうけど、魔法使いでもあるらしかった。だからといって、何かがあるわけではなかったが。
そしてボクは、ふと思いついた疑問を黒い男の人にぶつけた。
「結局、加護って何なんですか?」
「うん?その名の通り、上位存在による加護のことだ。天使然り、悪魔然りな。そういった存在から加護の込もった品を受け取ることによってのみ、人は魔法を使えるようになる。歴史の中では神様や魔神なんてものから加護を受けた人間が存在したらしいが、今じゃお伽噺だよ、流石に」
そう言って笑い声を上げる黒い男の人に、ボクは苦笑いを返すことしかできなかった。思っていた以上に、ボクの肩にかかる負担は大きかったようだ。
「それで、次は魔術の説明に入る。こちらは魔法とは違い、人間が自身で使用できる異能力だ。と言っても、使える人間はかなり少ないし、使えるかどうかも生まれた瞬間に決まるから、努力でどうにかなる物じゃないんだが」
「あれ……そういえば、魔術使いなんて人のことを聞いたことはないんですけど、どうしてなんでしょう?」
「ふむ、魔術師を名乗らない理由か……。一般人が魔法使いと混同してるってこともあるが、一番は襲われないようにするためかな?魔術は才能が全てだ。どこがどうなれば魔術が使えるようになるのか、才能のない人間なら知りたくなるとは思わないか?」
「それって……」
嫌な想像が脳裏を過ぎた。
「多分、想像した通りだ。誘拐されて解体されたり、実験動物になったりするんだろうよ」
そう言いつつも、黒い男の人は声音も変わっていなかった。そういった行為に慣れていたのか、それとも、他人だから関係ないと割り切っていったんだろうか。
「それから、次は魔法を使えるものについてだ」
「はい?あの、人に魔法は使えないはずじゃ」
「人以外なんだよ。とは言っても有名だから、君も知っているはずだ。私たちは人間種以外で魔法を使う存在のことを、魔法生物、縮めて魔物と呼ぶ」
それは、聞き覚えがあるし、見覚えもあった。魔物はそれぞれ特異な力を使っていた。魔法。それがその能力の正体。
「奴らは他の生き物を糧として、日々戦闘と魔法の技術を成長させていく。魔物なんて特異種、当然ながら強くならないと生きていけないからな。あらゆる生物から標的にされてるから」
異端は排除される。ましてやそれが、命を脅かしかねない危険な存在なら、尚更に。殺すが故に殺され、殺されないように殺す。ひどい悪循環だが、それもまた自然だった。
「……こんなものか?ああ、固有名称について話してなかったか。まあこれは言ってみれば、与えた側が決めた、加護のこもった品の正式名称だな。私のものに切開具という名が付いているように、どの品にも何かしらの名が存在している。以上だな」
少し疲れた、と言って部屋を退出する黒い男の人を後目に、ボクは与えられた知識を吸収していった。ネビアさんに聞いていた頃には様々な知識が簡単に頭に入っていたのに、などとずれたことを考えている自分に気付き、ぶんぶんと頭を振った。
長話は思っていたより疲れたのだろう。間も開けずに襲ってきた眠気に抗わず、ボクは横になった。
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