表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽善の体現者  作者: パオパオ
第四章
24/72

第二十四話

どうも、パオパオです。

今回も長めです。

やはり説明的な文になると、長くなってしまうようです。






 ――勇者とは、知る者である――











 門番らしき人物がいない門を通り、街の中へと入っていった。入る前から少し感じていたことだが、このルバートと言う街は、前の街に比べて汚かった。道端にゴミが捨てられていたり、虚ろな目をした人間が座り込んでいたりした。それはあたかも、前の街で言うところの貧民街が、街全体に広がっているようだった。

 そういえば、とネビアさんに訊ねてみた。貧民街とはどういったものなのか、と。ネビアさんは少し困ったような顔をしながらも、ちゃんと説明してくれた。


「貧民街って言うのはさ、まあ文字通り金のない奴らが集まって出来るからそう呼ばれるんだよね。その理由はそれこそ何でもあるから説明は省くけど、正直に言うと、どの街でもその存在は、疎ましくも不可欠なんだよ」


「それって、どういうことですか?邪魔なら排除すればいいんじゃないですか?」


「やけに過激な思考してるね、キミ。じゃあ聞くけど、どうやって排除すればいいと思う?片っ端から殺して家畜の餌にする?街の外へ放り出す?」


 自分でも少し考えてみたけれど、特に良案は浮かばなかった。


「……それじゃあ、殺すとして、何が問題なんですか?」


「まずは殺す人間。誰だって、数日前まで親しくしていた人間を殺したいとは思わないでしょ。街って言うのは閉鎖的な空間だから、結構な数の人と顔見知り位にはなるしね。次に、殺す手段。これを綿密に考えておかないと、下手すると街が滅ぶ」


 いきなり出た不穏な言葉に、ボクは目を見開いた。


「はい?滅ぶんですか?どうして?」


「そりゃあねぇ。貧民街の人間を殺すとして、一度に殺しきらないと危険だよ?彼らだって死にたいわけじゃなんだから。殺される危険があったら、殺されないように対処するのは当然でしょ。今よりももっと過激な犯罪をするようになるだろうし、一般人を襲う貧度も増えるだろうね」


「貧民街の人は、一般人を襲ってるんですね」


「勿論襲うよ。彼らは日々の糧を得る手段が一般人から奪うしかないからね。それで捕まったら、問答無用で極刑になるんだけど。それでも、彼らはやらざるを得ない。生きるために」


「……そうやって、危険の種を少しずつ減らしていってるわけですか」


 捕まえた犯罪者を殺すことで、街の膿を絞り出していくかのように。その言葉はボクの内心に留めておいた。当人たちを目の前にして、そんな言葉が言える程ボクは命知らずではなかった。


「うん。でも、貧民街の人間っていうのは、大抵が元一般人だから。彼らの犯罪のせいで生活が破綻して、彼らの一員になるしかなくなるんだ。酷い悪循環だよ、全く」


 ネビアさんは大きく溜息を吐いた。


「それでも、やらないよりは大分マシなんだ。犯罪者を放置しておけば、犯罪に慣れた人間がより凶悪な事件を起こす。その芽を摘んでおくことは、決して無駄じゃない。そうさ、無駄じゃないんだ」


 最後は自分に問いかけるように言葉を発して、ネビアさんは説明を終えた。苛立った表情を見せるネビアさんを見て、ボクは何も言わず、その横に立った。荒れている街並みが、ひどく寂しく感じた。


 普段通りのネビアさんに連れられて、ボクたちは街の中を散策していた。とは言っても、目的がないわけではなかった。ネビサんの記憶にある街並みと、げんさいのものとを摺り合わせていたのだった。ネビアさんがこの街を去ったという十年前とは、やはり大きく違っているようだった。

 十年前は各地に隠れるようにしながらも点在していた商店の類は、余さず全てがもぬけの空だった。別の場所で商売を続けているのか、それとももうこの街に残っている商人がいないのかはわからなかった。

 今は、ネビアさんの昔の知人を捜している最中だった。残念ながら、結果は芳しくなかった。見るからに治安の悪いこの街で、簡単に所在が割れるような人間は、まず生き残ることが出来なかっただろう。故に、この状況は当然だった。


 結局何の成果も得られないまま、時間だけを浪費していった。日も暮れてきたため、ボクたちはかつてネビアさんが住んでいたという家に向かった。街の中心に近い場所にあるらしく、荒ら屋の間を奥へ奥へと進んでいった。

 それに伴って、治安も悪くなっているらしい。時折打撃音らしき鈍い音や、女性の嬌声が耳に届いていた。ボクは努めて気にしないよう心がけた。

 変わり果てた故郷を見て、ネビアさんは悲しそうにしていた。ネビアさんが住んでいた頃は、もっとまともな街だったのだろ。唇を噛み、拳をきつく握りしめているその姿からは容易に想像することが出来た。

 なんとなく視線を逸らしたボクは、遠くで何かが一瞬光るのを目にした。それが何なのかを確認しようと集中した瞬間、それは恐るべき速度でボクに近付いてきた。

 甲高い飛翔音とともに近付く、鈍く輝いているそれを、ボクは避けもせずに観察してしまった。結果、ボクの右脇腹をそれは貫通し、最近味わったばかりの激痛が体を走った。込み上げてきた血を吐きながら、ボクは声を張り上げた。


「ガフッ、ネビアさん!敵ですっ!」


「っ!大丈夫か!?いや、後で聞く!」


 ネビアさんはハッとした後、すぐさま腰に提げていた剣を抜き、警戒態勢をとった。だが、それは少しばかり遅かった。

 背後から近付いてきていた人影が、手に持っていた剣でネビアさんの後頭部を殴った。突然の衝撃に抗うすべなどあるはずもなく、ネビアさんは前のめりに倒れた。頭から血が流れていないようなので、鞘ごと殴ったのだろうと推測できた。


「邪魔だ、クソガキッ!」


 いつの間にか現れていた男が、ボクを蹴り飛ばした。不意打ちを受けた体は浮かびあがり、積み上がったゴミの中に突っ込んだ。ゴミが緩衝材になって、大きな怪我にはならなかったようだが、貫かれた脇腹から流れる血の量は見過ごせる程ではなかった。

 家と家の間から、何人もの男たちが姿を現した。下卑た笑い声を上げている者や、鼻息が荒くなっている者、狂ったように言葉を吐きだしている者もいた。ボクを蹴飛ばした、その男たちの中でも代表らしき男が呼び寄せたようだった。

 代表らしき男は、近くに居た屈強な男二人に命じてネビアさんを担がせると、その場から素早く去っていった。他の男たちも、一切の言葉なしでそれに追従していった。


 幾つもの足音が遠ざかっていくのを感じ、ボクの意識は落ちていった。最後に聞き取ったのは、こちらに近づいてくる軽い足音だった。


読んでくれてありがとうございました。

意見、感想、評価などをもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ