第二十三話
どうも、パオパオです。
今回で、少し時間が飛びます。
その分、文量はかなり多めです。
これからもこんな展開があるかと思いますが、見逃してください。
――勇者とは、飛び越える者である――
一人じゃなくなった旅は、始まりから問題だらけだった。それも、ボクが一方的にネビアさんの邪魔をしてしまうという形で。どうしてそうなったのかと問われれば、ボクが子供で、ネビアさんが大人だから、と答えただろう。
ボクはどこまでも子供だった。出来ないことも知らないことも多すぎた。ボクとネビアさんの旅路は、そのほとんどがボクへの知識の流入に費やされた。ネビアさんには多大な苦労をかけてしまった。唯一の救いと言っていいのは、ネビアさんが教えるという行為を楽しんでいるように見えたことだった。
肉体的な面でも迷惑をかけてしまっていた。子供の脚と、大人の脚。一歩で進む距離はどちらが多いだろうか。子供の体力と、大人の体力。言うまでもなく、どちらが先に底を突くかは明白だった。
果たして、ボクが一緒に居ることでネビアさんの利になったことは何かあっただろうか。強いて言うなら、ボクの剣で火が容易に起こせたことだった。けれど、逆に言えばそれ以外何もなかった。
旅で一人きりじゃないという利点。一人よりも二人の方が出来ることが多いのは確かだった。でもそんなものは、ボクである必要はどこにもなかった。ネビアさんは、襲われないとわかってる分気が楽だと言ってくれたが、何の慰めにもなりはしなかった。
ボクは、ただネビアさんの足を引っ張っていただけだった。
一つ二つ、出来事を思い返してみる。
ボクたちが次の街へ向かっていた時、途中でとても澄んだ湖を見つけた。水源の近くには魔物、というより生き物が出没しやすいと聞かされていたので、周囲を警戒しながら湖へ近付いて行った。幸いなことに、近くに生き物の姿は見えなかった。
荷物の中から水筒を取り出し、古くなった水を捨ててネビアさんに渡した。ネビアさんは水筒に湖の水を汲んでいた。作業の邪魔をしないようにネビアさんから少し離れて、ボクは湖に直接口を付けた。ゴクゴクと喉を鳴らしながら水を飲んでいるボクを見て、ネビアさんが鋭い声を飛ばした。
「飲むな!って言っても遅いか、クソッ」
耳にしたことがなかったネビアさんの暴言に、ボクは体を強張らせた。それと同時に湖から口を離し、口元を袖で拭った。ネビアさんは顔に手を当て、失敗したなどと呟いていた。
ボクは急に、さっきまでおいしく感じていた水のことが恐ろしくなった。慌ててその場から離れたボクに、ネビアさんが苦々しげな表情をして近づいてきた。
「ラマ、気を付けなよ。そう経たないうちに、キツイ腹痛が来ると思う。死にはしないと思うけど、かなり辛いだろうね。それにしても全く、いくら伝えていなかったとはいえ、まさか自然の生水を飲むなんて」
「な、なんでそうなるんですか?ボク、ただ水を飲んだだけですよ!?」
「その水が問題なの。自然の中にある水ってのは、ほとんど毒みたいなものなんだ。飲み慣れている人ならまだしも、キミみたいな子供じゃあ耐性もないだろうしね」
ボクは絶句した。あんなに綺麗な水が毒だなんて信じられなかった。けれど、ネビアさんの真剣な表情を見る限り、それが真実だと理解させられた。気のせいか、ボクのお腹が痛み出した気がした。
結局、ボクは想像していた程の腹痛には襲われなかった。とはいっても、脂汗をかいて、満足に動けない位には痛かったのだけど。話に聞く重い症状は、気を失う程の痛みだそうだから、これ位で済んで本当に良かった。
思い返してみると、ボクは村から持ち出した水を、何の処理もせずに何日も飲み続けていた。おそらく、村で飲んでいた水からして、ネビアさんが言う毒に近かったのだろう。ボクの様子を看ていたネビアさんから、そう教わった。
余談ではあるが、ボクはその日の夜の水浴びネビアさんとを一緒にさせられそうになった。どうにか逃げ切ることはできたが、あの時のネビアさんの目にはベスティアと同じような雰囲気を感じた。
食事一つをとってみても、教わることばかりだった。
街を出て最初の食事の準備の時、ボクは干し肉を火炙りにしようと持ち出した。けれどネビアさんは、ボクが手にした肉を指差し、荷物の中から取り出していた小さめの鍋に入れるよう指示した。
ボクは反抗心を心の中で抑え込み、干し肉を鍋の中へと投入した。ネビアさんはいつの間にか準備していた野菜をいくつか鍋に入れ、無色の粉を振りかけた後、水をたっぷりと注ぎ込んだ。
鍋を三脚の上に載せた所で、ネビアさんはボクを呼んだ。火を起こしてほしいと。ボクは頷き、剣を軽く振って出した炎で、鍋を火にかけ始めた。
グツグツと水が煮えてきた所で火を消すように言われた。それに従って炎を消すと、ネビアさんがじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「えっと、どうかしましたか?」
「キミのその剣ってさ、炎を消す時に地面に刺してるのはどうして?」
「だって、こうしないと消えませんから」
「そんなことはないと思うけど。だってその剣、さっき地面に触れる前に火が消えてたし。それと確認するけど、自分の意思だけで、その火を着けたり消したり出来ない?」
「考えたこともなかったです……」
「後で検証しようか。自分の使う武器位は、制御できなきゃ問題だしね。今はとりあえず、ご飯にしようか」
久し振りの料理は、思わず涙を流しそうになる程おいしく感じた。ネビアさんがボクを見て、まるで母親のような表情をしていたが、きっと気のせいだと思った。
夕食を摂った後、様々な実験をして、改めてわかったことがいくつかあった。
炎を出す際には、早く振れば振る程強い炎が出ること。剣の炎に触っても、ボクは火傷しないこと。服などに燃え移った炎に触れば、ボクも火傷すること。そして、抜剣の瞬間に強く炎を想像することによって、剣に炎をまとわせることが出来ること。
逆に炎を消す際には、剣を一瞬でも手放すか、強く想像すること。たったそれだけで炎を消すことが出来た。これまで毎回剣を地面に刺してきたことを考えると、随分と楽になったと思った。
そんな感じで、ネビアさんに色々なことを教わりつつ、進んでいくこと三日と半分。ボクたちは、次の街へと辿り着いた。ネビアさんの出身地に当たる街、ルバート。気を引き締めようネビアさんに注意されながら、ボクたちは開け放たれている門へと近付いて行った。
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