第二話
どうも。
文字数少ないですが、とりあえず投稿です。
今回も短いです。
一度にまとめてたくさん投稿するのと、こまめにちまちま投稿するの、どっちがいいんでしょうかね?
――勇者とは、選ばれし者である――
勇者よ、と。ボクの目の前に居る人はそう言った。
いきなりの事態に呆気にとられているボクを無視して、目の前に居る人は話し始めた。
曰く、私(目の前に居る人)は神たる存在である。
曰く、お前(つまりはボクのこと)を勇者に任命する。
曰く、勇者は神の僕である。
曰く、勇者は正義の化身である。
曰く、勇者は人を助ける者である。
曰く、勇者は魔王を滅ぼす存在である。
曰く、勇者は――――
一時間程に渡って、目の前の神様(自称)は淡々と喋り続けた。話の内容は突拍子もないものだったが、ボクには何故か信じることが出来た。非日常への好奇心も手伝って、ボクは真剣に話を聞いていた。
話し終えた神様(自称)は、一瞬だけボクと目を合わせた後で姿を消した。そうして何かを口に出す前に、ボクの意識は急速に覚醒していった。
ゆっくりと開かれていくボクの目には、地平線の先から昇り始める朝陽が映った。
今朝見た不思議な夢のことを考えながらも、ボクは起きて朝食の支度をしていった。この時、ボクの意識が少しでも家の中に向いていたのなら、その後の未来は変わったかもしれない。たらればの話に意味はないのだけれど。
問題など何一つとして起こらないまま朝食を食べ終え、ボクはふと外が騒がしいのに気付いた。落ち着いた雰囲気の大人が多いこの村では珍しく、慌てたような声が飛び交っていた。
もしかしたら、魔物の群れが出たのかもしれない。そう思いついた僕は、すぐさま家の外へと飛び出した。
ボクが家の外に出ると、目の前には村人の一人である男の人が、肩で息をしながら立っていた。男の人はボクの姿を見るなり、幾つもの質問を浴びせかけてきた。男の人が興奮気味だったためか、それは少し要領を得ないものばかりだった。だけれど、ボクはこの問答で今村で起きている事態について知ることができた。
結論から言えば、原因はボクだったのだろう。
村の中でも有力者と呼べる人たちがみな、夢の中でボクのように神様(自称)と会ったのだという。そうして神様(自称)から、村の若者の一人を勇者に任命したとだけ告げられたらしい。勇者が誰なのかは聞けずじまいだったため、村に居る若者を広場に集めて話を聞こうとしているところなのだそうだ。
急いでいるらしい男の人は、ボクの手をつかんで引っ張って連れて行こうとした。だけどボクはその時、咄嗟にその手を振り払ってしまった。ほとんだ反射的なものだったし、軽く抵抗するだけのつもりだった。
そして結果的に、男の人は突き飛ばされて地面に倒れ込んだ。突然の事態に焦ったボクは、先に行きます、と男の人に言って広場へと一目散に向かった。問題の先送りでしかなかったけれど、この時のボクには考えている余裕なんてなかった。
昨日までなら息切れしてもおかしくないほどの無茶なペースで、ボクは広場まで走りきった。短くない距離を走破したにも拘らず、ボクの体は息切れ一つ起こしていなかった。不思議に思いつつも、既に他の若者が揃っているのを見て、慌ててボクはそちらに近付いていった。
そこにいたのは九人。ボクやネミコ、それと他の子供たち四人、そして若い大人が三人。ボクが最後だったらしく、皆の前に居た父さんは周りを見渡した後、重々しく口を開いた。
今朝、夢を見た者は居るか。その問いに答えたのは四人。子供一人と大人一人、ネミコ、そしてボク。子供はご馳走の夢を見たと嬉しそうに語った。大人は言い辛そうにしながらも、女性たちに囲まれた夢を見たと言った。二人の答えに父さんは眉をひそめ、無理矢理話を打ち切らせた。そして次に、父さんの視線がネミコへと向けられた。
ネミコは端的に言った。変なものと会った、と。父さんは詳しく話すようネミコに言い、ネミコもそれに答えた。何でも、この村のある若者を勇者に任命したとか。その答えを聞いてネミコに胡散臭そうなものを見る視線が向けられたが、そんな人には父さんが睨みを利かせた。
そして最後に、父さんはボクの方へと視線を向けた。お前はどうなんだと、その瞳が語りかけているような気がした。ボクは正直に答えた。ボクを勇者に任命する、そう告げられたと。父さんはざわめく周囲を一喝して静めた後、偽りはないかと訊ねてきた。ボクは頷いた。
夢の詳細を話した後、村の有力者たちが集まって相談を始めた。議題はボクの今後をどうするからしい。何の因果か、次期村長になるであろう子供が勇者に任命されてしまったのだ。そんな子供が将来村長になったとして、平穏な日常であり続けるというのは無理な話だった。勇者とは総じて、何かしらの陰謀や事件に巻き込まれやすい者だからだ。
不安に思いつつも、ボクは素直にボクのことを羨ましがるネミコと話していた。いいな、ずるい、などという言葉を繰り返すネミコを見て、ボクは勇者というものも悪くないのかもしれないと考え始めていた。今ならこれがどれだけ愚かしい考えなのかがわかるが、この頃はまだ勇者に憧れていられた。
周囲から好奇のこもった視線を浴びつつ、ボクとネミコが他愛のない話を続けて約一時間が経った。ようやくボクは父さんに呼ばれた。口をとがらせて羨ましがるネミコを置いて、ボクは父さんの元へと向かった。
父さんは一言、淡々とした調子でボクに告げた。
―――――旅に出なさい、と。
読んでくれてありがとうございます。
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