第十九話
――勇者とは、空気を読む者である――
ネビアさんはしばらくボクのことをじっと見詰めた。ボクも視線を逸らすことなく、無言でネビアさんの瞳を見続けた。ネビアさんは溜息を吐き出すと、渋々といった感じでボクに声をかけた。
「……とりあえず、牢から出て。やるべきことは全部終わらせたから、すぐにここから出るよ。話はその後、ってことでね」
こちらへ伸ばされた手を、ボクは掴み取った。
ネビアさんとその仲間の人たちの後ろを、ボクは必死に追っていた。ネビアさんたちが地下へ来た目的は、ボクを助けるため――なんてことはなく、隻腕の男性を殺すことらしかった。隻腕の男性を殺した理由も、その他の達成した目標のことも、わざわざボクに教えてくれはしなかった。
むしろボクを助けたことで、ネビアさんに奇異の視線が向けられることになった。ネビアさんは気にするなと言ってくれたけど、ボクは少し申し訳なく思った。
詰所から出た直後、ボクたちは集まってきた鎧姿の人たちに囲まれた。三倍近い数のその中には、ヴォトさんや若い男性など、何人か見覚えがある人も居た。そんな人たちはボクの姿を見るなり、密偵がどうのと怒り出した。
どうして怒ったのかわかっていなかったボクは、ネビアさんの後ろに隠れるように動いた。そこで気付いたことだが、ネビアさんの体は震えていた。ネビアさんにとって、この状態になったことは誤算だったのだろう。
仮定の話に意味はないとわかってはいるものの、もしボクを助けていなかったなら、ネビアさんたちは問題なく脱出できていただろう。
ボクが自省している間に、ネビアさんとヴォトさんが一歩ずつ前に出た。対峙する二人の間に緊迫した空気が流れた。先に口を開いたのはヴォトさんだった。
「……確認するが、その子供がここに居るってことは、やったのか?」
「ええ、勿論。ちゃんと息の根を止めてきたもの。それも今回の目的の一つだし」
ネビアさんの言葉を聞いて、ヴォトさんは激昂した。
「目的?目体だと!?ふざけるなよネビア、お前は何を言っているんだ!あいつを殺して何になる!?いやそもそも、お前はあいつを殺して何とも思わないのか!」
「思わないわけはないでしょう!でも、やらなきゃいけなかったの。そうじゃなきゃ、いいえ、言い訳は言わない。だって、今日のことはただの布石だから。フェリーダさん、押し通らせてもらうよ!」
ネビアさんは大声でそう言葉を吐きだすと、腰に提げた剣を抜いて構えた。それに続くように、ボクの周りに居た人も剣や槍を構え出した。
「止むを得ん、か。総員、抜刀!ネビアは生かして捕えろよ!行くぞ!」
ヴォトさんたちも剣を抜くと、こちらへ向かって駆け寄ってきた。雄叫びを上げながら、両者はぶつかった。
ボクはただ、その勢いに押され、後退ることしかできなかった。
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