第十四話
――勇者とは、誤解する者である――
広場に近付くにつれて、人を見かけることも多くなっていった。すれ違う人のことごとくがボクを見て、指を差したり悲鳴を上げたりするので、少しばかり苛々した。
陰口(?)が段々強くなっていくのを自覚しながら、ボクは広場へと辿り着いた。夕暮れ時という時間のためか、見たことがない程たくさんいる人にボクは圧倒された。キョロキョロと周囲を見回し、迎えが来ているかどうか確認した。
周囲を観察していたボクは、一際目立っている人々を発見した。美しい銀色の鎧を着こんだ五人の男性が、槍を携えて歩いていたのだ。五人ともにとても立派な体格で、周りに振り撒いている雰囲気は戦士のそれだった。もっとも、ボクに詳しい事はわからないので、なんとなくに過ぎなかったのだけど。
五人の男性は何かを探しているらしく、すれ違う人々に話を聞いているようだった。その時、話を聞かれていた一人が、何やらボクのいる方を指差した。
五人の男性は話し相手に何かを渡した後、整然とこちらへ向かってきた。もしかすると、あの人たちがネビアさんの言っていた迎えなのだろうか。だとしたら無駄な手間をかけさせてしまった。第一声は労いの言葉にしようと決め、近寄ってくる五人を迎えた。
「お疲れ様です。ボクなんかのためにわざわざ済みませんでした」
五人は面食らったような反応を見せた。少しばかり疑問に思いつつも、ボクは話を続けた。
「それで、ボクはついて行けばいいんでしょうか。この街に来たばかりで何がどこにあるか全くわから」
「確認したいことがあるんだが」
一番風格のある壮年の男性が、ボクの言葉に口を挟んだ。
「え?ああ、はい。もちろん大丈夫です。何でしょうか?」
壮年の男性は端的に言った。
「貧民街で人を殺めたのはお前か」
その問いに、
「当然、そうです」
ボクはためらいなく答えた。
仕事を頼んだのはあなたたちなのに、どうしてそんなことを聞いたのかと不思議に思った。
「そうか」
壮年の男性はどこか寂しげな表情を見せた。そして後ろに立っていたまだ若い男性にボクに近付くよう指示を出した。
「今から連れていく。抵抗はしないでもらいたい」
「はい?抵抗なんてするわけないじゃないですか」
「……そうか」
壮年の男性が背を向けて歩きだした。近くに居た若い男性はボクの手首を掴み、強引に引っ張った。ぞんざいな扱いに心の中で不満を言いながら、ボクはついて行った。
二人の男性がボクの両脇に位置し、残る一人はボクと壮年の男性との間に居た。何やら自分が四人に囲まれている気がしたが、単純に目立ちないのだろうと自己完結した。ボクの格好は、貧民街の住人と同じレベルのものだったからだ。
五人に連れられた先は、おそらくこの街で一番立派な建物だった。その威容はボクを委縮させるには十分だった。その建物は、いわゆる憲兵の詰所と呼ばれるものだった。
ボクは口を開けて圧倒されていたが、手首を掴んでいた若い男がボクを立ち止らせることを良しとしなかった。ボクは渋々若い男に従い、建物の中に入っていった。
正直に言えば、もう少しじっくり見ていたかった。
建物の中でまず案内された先は、一つの小部屋だった。中に入ったのは、ボクと壮年の男性、それと若い男の三人だけだった。他の三人とは建物に入ってすぐ別れた。
備え付けの椅子に壮年の男性が座ると、若い男が机を挟んだ体面の席に座るようボクに指示した。ボクはそれに従った。そして、ボクと壮年の男性との本格的な話が始まった。
「さて、話を聞こうか。小さな殺人鬼君?」」
放たれた壮年の男性の言葉が、ボクに何かが突き刺さるような錯覚を起こした。
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