第十一話
――勇者とは、物事に巻き込まれる者である――
「話、ですか?もちろん大丈夫です」
ボクは女性の言葉に耳を貸すことにした。ボクの答えに気を良くしたのか、女性は笑みを浮かべてボクを手招きした。
そんな動作を見せた女性に、今まで見守っていた二人の男性が話しかけた。
「なあネビア、こんな見ず知らずのガキにやらせるつもりかよ?いくら何でもそりゃあねえんじゃねぇのか」
「そうですよネビアさん。こんなガキ使わなくても、俺がやってやりますって!」
「今まで出来てないんだから仕方ないじゃない!それじゃあキミ、ちょっと付いてきてくれないかな」
「はぁ、とりあえずわかりました。付いていけばいいんですね?」
「うん。詳しいことは行った先で話すから、待っててね」
詳しいことも何も、まだ何一つ聞いていなかったが、気にすることなくボクは先行する女性の後を追った。背後から向けられる二人分の視線が、ボクの後ろ姿を射抜いていた。
広めの道を四人で歩いていくと、一軒の建物の前で女性が立ち止まった。女性は建物の扉をためらいなく開け、堂々とした足取りで中へと入っていった。ボクは若干戸惑いながらも、女性の後に続いて扉を潜った。
最後に入った男性が扉を閉めた。女性は部屋の奥に靴音を鳴らしながら進んで、ゆっくりと振り返った。
「それじゃあ、話を始めようか」
とりあえず、ボクには何よりも先に聞かなければならないことがあった。
「具体的な話だけど――」
「話を遮ってすみませんが、まずは自己紹介をしませんか?ボクは貴方の名前も知らないんですが」
「うん?あー、そう、そうか。そうだね、私の名前はネビア。ネビアさんとでも呼んでね。それじゃ、キミの名前は?」
女性の簡潔すぎる自己紹介を聞いた後、それに倣ってボクも端的に自分のことを話した。
「ボクの名前はラマ。ラマ・ロンポ・パドローネ。しがない一村人だった者で、今は多分旅人です」
「長い名前だね、キミ。まあいいや。それじゃあ早速話を始めようか」
「お願いします」
うん、とネビアさんが頷いて、
「……えっと、何処まで話してたっけ?」
「そもそもボクがここに連れられて来た理由すら聞いてません」
「……」
「……」
二人の口が閉ざされ、沈黙が場を支配した。
コホン、とネビアさんは態とらしい咳を一つした後、何事もなかったかのように話を再開した。
「えっと、それじゃあまずキミがここに連れて来られた理由だけど、キミにちょっと頼みごとがあるからなんだ」
「頼み?」
「うん。簡単なお仕事。少ないかもしれないけど、成果に応じてちゃんと報酬も出すよ」
「それはありがたいです。お金もないことですし」
村の中では金銭取引なんて滅多になかったので、ボクの荷物に金なんて入っていなかった。
「あれ、そうなんだ。それで、肝心のお仕事の内容なんだけど」
「はい、何でしょう」
女性は一拍置いた後、
「貧民街で、人を何人か殺してほしいんだ」
そう、端的に告げた。
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