周防のひとり立ち②
それは、二年目の社員には荷が重すぎる数だった。大体、この時期の社員には、三社くらいが適当だとされている。それを周防は、五社担当させてくれと言ってきた。余程、自分に自信があるのか、己の戦闘力を見誤っているかのどちらかだが、明らかに後者だろう。
俺は心を落ち着けながら、どうして五社なんだと尋ねてみる。周防は、
「五社、担当したいのです」
と同じ言葉を繰り返した。察するところ、同期よりも一歩先んじたいらしい。もちろん、同期の仕事はまちまちで、営業に携わる者もいれば、事務に携わる者もいる。その中でほぼ、主任と同じ量の仕事をやろう、いや、できるところを見せつけて、差をつけたいのだろう。
「その姿勢は買うけれど、仕入先五社を担当するのは大変だぞ。常に仕入れ値を交渉しなければならなし、併せて、他の仕入れ先の開拓も行わねばならない。とりあえず、仕入先は二社を担当して、新規で二社というのを目標にしてみないか」
俺の言葉に、周防は毅然とした態度で、
「いいえ。五社、担当させてください。新規も二社と言わず、三社を目標にしたいと思います」
ふと見ると、周防の後ろでは、係長の尾関が大きく手を交差させてバツマークを作っているし、小春主任も静かに、しかし、ゆっくり大きく首を左右に振っている。やっぱりそうだよな。俺と同じ気持ちなんだな、と妙に安心する。
とはいえ、やりたい、という姿勢を示している部下を無下にするわけにはいかない。俺は腕を組んで天を仰いだが、しばらくして体を起こすと、彼女と向き合う。
「わかった。お前さんが担当する会社は、俺が決めさせてもらうが、それでいいな」
「問題ありません」
「では、少し待て」
そう言って俺は彼女を自席に戻らせた。それと入れ替わるように、係長の尾関を呼ぶ。
「……ヤツに担当させる客なんて、ないですよぉ」
彼は小声でそう言ってきた。俺は、別に切られてもいい取引先はないかと聞いたところ、一社あると返ってきた。俺は、それを担当させると彼に告げた。
結果的に周防には、切られてもいい取引先を三社と、彼女を贔屓してくれている福岡の企業二社を担当させることにした。福岡は最悪の場合、俺が出て行って謝ればコトが済むと考えてのことだ。他の三社は切られることを前提にしているので、実質、彼女が担当するのは二社のみで、あとは新規開拓に注力すればいい。
そんな俺の気遣いを知ってか知らずか、周防は張り切っている。それが空回りしなければいいなと思いながら、俺は自分の仕事に集中するのだった……。




