松山珍道中③
飛行機は定刻より五十分近く遅れて松山空港に到着した。
なかなかスリリングな空の旅だった。飛んでいる間はそうでもなかったが、松山空港は海の傍にある。かなり強い風が吹いていて、着陸態勢に入ると、機体が大きく揺れ始めた。機長からアナウンスで、当機の運行には支障はございませんと言っていたが、それは気休めにもならなかった。
いよいよ着陸となったとき、不思議な光景に出会った。
たいてい夜の空港というのは、滑走路におびただしいライトが設置されていて、それが青や緑に灯っていて実にきれいなのだが、通常はそのライトは縦に流れていく。今回は横に流れていた。相当の強風の中着陸したらしいことは、すぐに想像がついた。
ヤレヤレと思いながら飛行機を降りて、市内に向かおうと外に出る。松山空港から市内までは少し距離がある。基本的にリムジンバスを利用するのだが、そのバスはこの日の最終便ということもあって、この後に飛んでくる飛行機の到着を待って発車するとアナウンスされていた。
周防はスタッフに駆け寄ると、何やら話し込んでいる。どうしたんだと思っていると、彼女は首を左右に振っている。ややあってこちらに戻ってきた彼女は、俺の目の前でウンコ座りをしながら、
「もう~アタシ、やだよぉ~」
と今にも泣きださんばかりの声を上げた。これこれ、女子が足をおっ開ろげて座るんじゃないよというツッコミも入れられない程、彼女はまくし立てた。
「早くバスだせよぉ~。お腹すいた、お風呂に入りたい、早く寝たい。こんな寒いところでまだ待つなんてやだよぉ~」
周囲の人がチラチラとこちらを見ている。俺は小さなため息をつくと、リムジンバスとは逆の方向に歩き出した。
「ちょっとぉ~どこいくんですか!」
周防がキレながらついてくる。声が大きいんだよ。恥ずかしいじゃないか。
「リムジンバスあっちですよ! まさか歩いて行くって言うんじゃないよね! 私は、行かないからね!」
「俺についてくるのは、イヤか」
「イヤです!」
「じゃあ、リムジンバスに乗ってホテルまでいらっしゃいな。私は先に行きます」
「ちょっと、何をする気ですか?」
「タクシーで行きます」
「え?」
「タクシーでホテルまで向かおうかなと思います。アナタも連れて行ってあげようと思っていましたが、そうですか。私と一緒に行くのは嫌ですか。残念です」
そう言いながら俺は右手を挙げた。すぐに、近くに控えていたタクシーが俺の傍までやって来た。周防は俺の背広の裾を掴んできた……。




