第一話 世界初のダンジョン災害
世界がそれを「災害」と呼ぶようになるまで、そう時間はかからなかった。
最初は、ただのニュースだった。
《都内で正体不明の巨大構造物が出現》
《地下へと続く階段状の空間》
《専門家は調査中》
駅の構内で、その速報を見た人々は口々に言っていた。
「映画みたいだな」
「ダンジョンってやつじゃね?」
「配信したらバズるだろ」
――その空気を、俺は知っている。
八代匠は、スマホを握りしめたまま立ち尽くしていた。
頭の中では、嫌になるほど見慣れた光景が再生されている。
(出現時間、場所、構造……全部一致してる)
これは偶然じゃない。
かつて自分が何百時間もやり直した、**“あの初動”**だ。
最初に攻略されるダンジョン。
そして、最初に死者が出るダンジョン。
「……もう始まってるのか」
周囲では、若い男たちがスマホを構えて走り出していた。
封鎖線が張られる前に入ろうとしているのだ。
止めなければならない。
だが、叫んだところで誰も信じない。
だから俺は、別の方法を選んだ。
配信アプリを起動し、即席でチャンネルを開く。
タイトル入力欄に、迷いなく文字を打ち込んだ。
《※警告※ 今から入ると死にます》
配信を開始すると、すぐに数人の視聴者が集まってきた。
『釣りだろ』
『何者?』
『根拠は?』
俺は深呼吸して、カメラに向かって言った。
「これは災害です。冒険じゃない」
「そして――最初に入った人は、生きて出られません」
コメント欄が一瞬、静まった。
「理由は三つあります」
「入口直下トラップ、視認不可、解除不能」
「初期装備じゃ、詰みです」
ざわつくコメント。
だが、その向こうで、遠くサイレンの音が聞こえ始めていた。
(頼む……間に合え)
俺は画面越しに、必死で言葉を重ねる。
「三十分後なら、生存ルートがあります」
「今は入らないでください。順番を間違えると、死にます」
世界が初めて理解する。
ダンジョンは、攻略対象ではない。
――制御しなければならない災害だと。
本来なら、この場所で十七人が死ぬ。
だがその日、最初のダンジョンでは――
一人の死者も出なかった。




