魔窟に住む者
草むしり検定の取得と武器類扱いの申請が終わったのは、クローゼットが魔窟化して一週間したころだった。
魔窟発生申請に伴う規模審査は一か月後にやってくることが決まる。規模や内容により固定資産税が決まるのだ。数年に一回、抜き打ち検査があり再査定されるという恐ろしい決まりもあるらしい。
税務署の本気と両親が嘆くくらいには、この国での魔窟からの利益が多いのだろう。あるいは、まずいもんでてないだろうなぁ? という不安感か。
薬草系が意外と厳しいらしいと吉田さんが言っていたなと芙実は思い出す。麻薬とかさらにヤバいお薬とか密造されていた、という事件が過去に起きたことがあるかららしい。
それ聞いたことがないというと表ざたにはしない、真似する人がいるから。魔窟の所有者以外には口止めされているそうだ。
破ると魔窟主を討伐され、魔窟終了のお知らせとなる。
それだけならまだしも、世の税金というのは前年の収入を前提としているので、翌年、死ぬ。重々しい吉田さんの話に芙実は震えあがった。
さて、その前に、と一家総出で魔窟探索に挑むことになったのである。不正であるが、暗黙の了解で見逃されることがおおい。やらかしたら、もう無理だが。
クローゼットの奥は石造りでひんやりとしている。通路は3人くらい並んで歩けるほどには広い。高さは2.5〜3Mほどありそうで、ケンタウロスも頭を打たない。余裕があるというわけでもないらしいが。
「なんもないですよ」
光る尾はのんびりとそういう。彼は端まですでに踏破しており、原生生物とも遭遇していないらしい。入口から一番近い分かれ道の果ても行ったが、そちらも同じくらいと言っている。
碁盤の目状のマップではないかと五郎は推測し、方眼紙のマッピングノートを出してきていた。
1フィート棒いる? というのは、どういう冗談かは芙実はわからなかったが。
前衛:五郎&史郎 (サムライ)
後衛:サユリ (くノ一)
狙撃手:七海 (スナイパー)、光る尾 (アーチャー)
戦力外:芙実 (チアー)
以上の戦力で魔窟攻略は始まった。
徒歩10分程度で果てに着くと言われていたが、その地点に壁はなかった。まだまだ闇が広がっている。
そこで一旦、入口まで戻り最初の分岐を左に曲がる。5分ほど歩いたところで壁に扉があった。木製で鉄の補強をされている。
「罠調べはしばらくやってなかったのよね」
そう言いながらサユリは鍵穴にグネグネした鍵を差し込んだ。ぴぎゃと謎の音。壁が後ろにぶっ倒れた。
「あら、ダミードア」
「人食い部屋じゃないのかい?」
そう言いつつ五郎が先に部屋に入る。芙実は後ろから恐る恐る覗くにとどめる。元本職に全部お任せだ。
「いやぁあっ! なんですのぉっ! あなたたち人んちに不法侵入しないでくださぁあいっ!」
喚く二足歩行のネズミがいた。
サイズはカピバラくらい。むしろ、カピバラ。
「……ええと、魔窟主?」
「なにそれ」
真顔だった。カピバラの真顔。芙実はちょっと怖いなと思った。横顔見たことあるけど、正面はなんかやっぱりネズミである。
「よくわからないんですけどぉ。ごはんもあるし、温かいからおうちにしたんです。
とっとと出て行ってください」
ぷりぷりとしている。カピバラが。サユリと五郎は顔を見合わせて武器を戻した。
「あのね、ここ、うちの地下なの。
不法侵入はそっち」
「なんですってぇっ! 地下は共同資産でしょぉっ! いや、生意気言いました、外出さないで、寒いの嫌」
ちらつかされた刃物にカピバラはビビっていた。小物感が半端ない。
「ちゃんと話をしてくれたら、今後の対応は考えるわ」
にこりと笑ってサユリは言った。友好の証としてと携帯食料をどうぞと渡している。優しげだが、脅すように仕向けたのはそのサユリである。
うちの両親、マッチポンプとして優秀すぎると芙実は白目を剥きそうだった。
疑いの眼差しを向けつつひったくるように携帯食料を手にしたカピバラ。
彼? 彼女? が言うには、温泉入ってたらなんか急に落っこちたという。変な白い玉がぴかっと光ってここにいたらしい。
それって魔窟主に選ばれたのではと芙実は思う。
その話を聞いている間、七海の気配がないなとふと周囲を見る。七海は気配を殺して手にポールペンを持っていた。視線はカピバラ固定。
なにかあったらちゃんとヤル。
のほほんとしているのは芙実と光る尾くらいだ。光る尾は部屋に入れないので廊下にいるので勘定に入れてはいけないが。
「なにか、出せるか? わかりませんわ。
あ、生産モードがあるって。え、ヒツジと綿虫、ニワトリ、糸を出すような虫が出せる? アルミとかはまだ無理」
やっぱり、魔窟主ではという疑惑は誰も指摘しなかった。言わないほうが利益がありそうでもありそうなことを言い出したからだ。
芙実は吉田さんに魔窟主ってあったことあります? と聞いたときに挙動不審だったわけをなんとなく察した。
癒着しておる。もろに共依存しておる。そういえば、肥料をやたら買い込んでいるという話を聞いたようなと芙実が回想しているうちに話がまとまった。
「明日から、ポップする。リスポーンは24時間。時間あわせて効率化しましょ。育てなきゃ」
いつの間にか話に混じっていた七海が燃えていた。
ポップするなら、リポップで、リスポーンするならスポーンではないか、という話はどうでもよいだろう。
芙実はどうぞ、ご自由にと一抜けしようかと思っていた。お小遣い稼ぎにはしんどそうだからだ。やりこみ系である妹の付き合いはこりごりである。
「おねえは生産系がんばろ! 世の中にはなぜか、材料集めて儀式したら成果物出てくるから!」
「やだよ」
「コート代どころか、ブランドマフラー分も戻ってくるって!」
「……ぇー」
芙実はぐらついた。部屋を探してもなかったマフラーも吸い込まれたのかもしれないと落ち込んでもいたのだ。
「免許センターへごーごー!」
かくして、一家総出で謎に魔窟育成に励むことになったのであった。




