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クローゼット・ダンジョン 〜ある日、おうちにダンジョンが湧きまして〜  作者: あかね


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3/6

冒険者協会にて

「はあ、ご近所の魔窟攻略の手伝い、ですか」


 ひとの良さそうな男性がメガネをくいっとやってからそういった。

 芙実のような年頃の相手を想定していなかったのだろう。冒険者協会は血気盛んな若人を地元でも稼げるしと引き止める立場でもあるのだ。

 人口流出は地方の悩ましい問題である。一発大きい魔窟でも湧かねぇかなぁと言って議員が炎上するのは年に1回は見かける。芙美もそう思うときもあるが言っちゃあおしまいよ、というやつだ。


「そうです。草むしりとかするらしいですよ」


 芙実は相手の戸惑いを承知の上で、極めて真面目にそう言っておいた。

 吉田さんはそう言っていた。

 冒険者協会の受付さんはうーんと唸っている。ショッピングモールに入っている感じなのだから、怪しくはないが、それなりの倫理観は持ち合わせているのかもしれない。

 誰でも良いという話ではなさそうだった。


 日本国内の有力な冒険者の組合は3つある。

 冒険者ギルド。こちらは外国から指導員を招いて立ち上げられた最古の冒険者のための組織である。

 次が冒険者組合。これは国内有志が立ち上げたもので、入れるのは日本国民のみである。

 最後に冒険者協会。これは団体ではあるものの、複数団体の集まりであり、協会に加入している下部組織が無数にある。

 冒険者登録の厳しさも上から順にゆるくなっていく。


「草むしり検定とか取ります?」


「……あるんだ」


 芙実のその返答に本格的初心者と判断したのか、受付の人は後ろの棚に置いてあった冊子をいくつか取り出した。


「まあ、まずはその程度の知識を書いてあるハンドブックを差し上げます。

 小型ダンジョンは原生生物が湧かないというのが定説ですが、いつでも例外があります。命大事にです」


「……ちなみに無断で魔窟で発掘とかした場合はどうなります?」


「売らなければ、だいたいバレないでしょう。

 しかし、魔窟産のものは売る先もあれこれありますし、そうしない場合には闇市に流すということになるので利益は微々たるもの。搾り取られたあとに、タレコミを入れられて詰むまでがセットですね」


 いい笑顔だった。芙実は引きつった表情でそ、そうなんですね、というのがせいぜいだった。


「武器レンタルのパンフレットはこちらです。

 最初は鈍器が良いと思いますよ。壊れない良さを推したい」


「刀とか使いにくそうですしね……」


「居合とかご経験あればおすすめしておきます」


「海外で銃の体験したくらいですね……。あれは反動が厳しかった」


 びっくりするくらい後ろに動くのである。そしてかなり重い。アレをぶん回して近接戦闘するのは無理だなと遠い目をしたものだ。


「銃ですか……。そりゃあ、すごいな。スキル生えてるかもしれないので、スキルチェックの申請書も入れておきますね。ここからなら、東の免許センターに併設してます。1回5000円」


 免許とつくものをすべて集約した免許センターである。医師免許から、運転免許証まですべての発行を行っている巨大施設だ。

 支店がいくつかあるが、そちらではやってないのだろう。


「もし、こちらに入会されるならば戸籍謄本と本人を確認できる書類、まあ、運転免許証なんですが、それと顔写真が必要になります。

 入会金などはこちらに書いてあります。一応、年額なので中途入会の場合には月割になります。1日入会がお得ですが、お得につられた人が多く入会処理にすっごい待つので、月半ばくらいがおすすめです。

 初心者講習とかもあるんですが、これは入会後に説明しますね。

 ご質問は?」


「ちなみに家族割引とかあるんですか?」


「ありません。紹介特典はあります」


「わかりました。ありがとうございました」


 そう言って芙実は立ち上がろうとした。


「ああ、生命保険は先に入っていたほうがいいですよ。協会所属だと断られることもあるってきいたことがあります。備えは必要です」


 含蓄のある言葉であった。


 芙実は武器屋も冷やかしてから帰宅した。遅くなる連絡をし忘れていたため、怒れる母への貢物としてドーナツを購入してから。

 芙実はドーナツを捧げ、ちょっと許され、夕食にありつけた。


 行儀は悪いが夕食を食べつつもらったパンフレットを広げる。


「あら、冒険者協会の?」


「そう。母さんはどこに入ってたっけ?」


「冒険者ギルド。親が厳しかったから」


 そう言って今はこんな感じなのねぇとぱらぱらめくっている。

 昔やんちゃしてた、というのは父だけではない。芙実の母もそれなりにやらかしていたらしい。


 今はスーパーのレジ打ちではあるが、警備員を兼務しているらしく、万引き犯をすっごい速度で追いかけていたとか、クレーマーを黙らせていたとかいう話を芙実は知人経由で聞いたことがある。

 当人は、そうかしらぁとすっとぼけているが。


「今は休会しているけど、退会して冒険者協会に入ろうかしら」


 その発言を芙実は黙殺した。もぐもぐしていれば黙っていて良い。

 他社実績アリのルーキーなど扱いにくいにもほどがある。それなら古巣に戻ってもらったほうがまだましだ。


 ただ、と芙実は母を横目で見る。母はかつてくノ一であった。その頃の装備とか着るんだろうか。それはちょっと他人のふりをしたい気がした。


「最初に草むしり検定取ってこようかなと思って。初級なら一日講習で済むらしいし」


 簡易に資格が得られる替わりに個人での売買は禁止されている。きちんと薬草ギルドを通さないと薬事法違反で捕まる。

 ご近所で物々交換をおすそ分けと言い張るなど抜け道はあるが、ほぼ素人の採取した薬草類の信頼性を考えればやらないほうが無難である。


「免許センター行くんでしょ。お母さんも免許確認してくるわ」


 見ればパンフレットに折りあとが勝手につけられていた。


「ちょっと、まだそっち見てない」


「いいじゃない。そこにあるスマホで検索しなさいよ。お母さん、老眼で小さい文字もう読みにくいったら……」


 たしかにデカい文字でメールを読んでいいたので、芙実はそれ以上はなにもいわないことにした。これ以上、絡まれたくもない。


「あれぇ、おねえ帰ってきたの? おそかったね」


「ドーナツあるよ」


「やった!」


 七海はうむむと唸りながら一つ取った。そして、テーブルの上に広げたパンフレットに視線を向ける。


「冒険者協会のもらってきたんだ。

 私は冒険者組合のほうもらってきた。っていうか感じ悪かった」


 七海はそういいながら、紙袋から冊子を取り出した。ずっしり重そうだったのに、薄い冊子だった。芙実はパラりとめくっただけだが中身はほぼ同一ではある。こちらの方がフォントが派手だというくらいの差異しかない。

 やはり国に任されて事業のため、監視でも入っているんだろう。免責事項も怪しい小さい文字も書いてない。


「七海はもう入ってなかったっけ?」


「あれ、学生専用で冒険者ギルドの下部組織。あんなのツアーみたいなもんでしょ。魔窟経験なんて言えないとか!」


「……あなたのとこ、東京遠征してたよね?」


「東京タワー下に潜って、20層までいった」


 人の集まるところ、デカい魔窟が湧く、という研究結果が出たのはこの数十年の話である。そうはいっても勝手に人の集まる観光地はできるし、魔窟ができたらそれはそれで観光しよ! という脳筋がいたのか観光地が規制されることはない。

 東京タワーは20年ものの大迷宮だ。攻略された階層は40層。まだ半分程度ではと言われてるような本格派。動画配信者が唸るほどいると言われる場所でもあるので、攻略情報は事前入手可能とは言えそれなりに実力がないといけない。


「後衛になにができんの? っていうから、ボールペンで壁に穴空けてやったわ!」


 くかかかと笑う妹に芙実に頭が痛い。母の実家で、面白半分にクナイ仕込まれた女が来るとは思っていなかっただろう。

 可哀想にな、受付の人、相手が悪かった。


「そういえば、父さんは?」


「吉田さん家に手土産持って対処法聞きに行った。

 史郎もついて行ったから、凍死はしない」


 ご近所でも酔いつぶれてどこかで寝ると確定死。それが冬。付喪神がついてるなら程々のところで強制酒抜きされて帰宅することになるだろう。


「朝からクローゼットの中は変わってないの?」


「変化はなかったわ。お父さんは、マッピングとか言って方眼紙と鉛筆を取り出してノリノリだったから止めた」


 芙実と七海が仕事に出たあとにも一悶着あったようである。


「母さんは?」


「んー。徒歩20分の散歩をしたわね。

 普通の石壁魔窟で原生生物なし、草はヒカリゴケ程度。天井からスライムもなかったわ。区画整理されているという定説通り、50〜100メートル感覚で十字路か丁字路にあたる。曲がるのもね、と思って一番端で折り返したから、壁につくまで10分くらい。一キロ四方くらいかしら」


 さすが経験者である。最低限は確認していた。


「ドアは念のため、ガムテープで閉めといたわ。

 父さんが勝手に開けないようにね」


 ふふっと笑う母に芙実はちょっとぞくっとした。



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