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暦君には壁が居る  作者: 二核


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4/22

涙の反省会

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーはっはっはーーーーーーーーーーーーーーーーん!」

 作戦終了直後の放課後。

 私は共犯者である里香を連れて、校内の食堂で嘆きをぶちまけていた。

「どうして~、どうして、こうなっちゃったのよー!」

 突っ伏したテーブルは、私の涙と鼻水で辺り一面水浸しになっていた。

「あんたが折節を“社会的に殺す”とか言い出すから、天罰が下ったんでしょ。自業自得じゃん」

「いや、私殺そうとしただけで、実際には殺してないよ!? 何もここまですることないじゃない!」

「厚かましいにもほどがある」

「あの後、午後の移動中にさ。話しかけてもないのに、横を通っただけで暦君から距離を取られるようになっちゃったの」

「完全に気を遣われてるな」

「そんなつもりじゃなかったのに……ぐすっ」

「サッカーで言うなら、攻めたところに不意をつかれて、速攻カウンターで失点したってところか。しかも、オウンゴールで」

「何よそれ」

「まぁでも、失点しても取り返そうって気になるのが、強いサッカー選手なんじゃない?」

「……それ、慰めてるの?」

「美亜にはどう聞こえる?」

「私はそんな分かりづらい慰め方より、もっとシンプルに誰かの胸の中に包まれて泣きたいの!」

 そう言って、私は里香の胸に思い切って飛び込んで、顔を擦り付けた。

「あぁ、なんて安らぎを感じない胸なんだろう。さっきとは違う涙が出てきそう」

「ブチ殺すぞ」

 里香は怒りながら、私の顔を引っぺがす。

「ごめんごめん。一割くらいは冗談だから」

「やっぱ、ぶっ殺す!」

 里香はそう言って、私の頭に重いげんこつを一発食らわせた。

「痛―い! 幼気な女の子を殴るとか、罪の意識はないの!?」

「犯罪者に向ける情など無いわ!」

 里香はバッサリと切り捨て、購買で買った牛乳を飲んでカルシウムを摂る。

「うぅ、これからどうしよう。里香、これからどうすれば良いと思う?」

「縁が無かったってことで諦めれば?」

「そんな簡単に言わないでよ!? 大体、今の暦君の中では私と折節がデキてるってことになってるんだよ!」

 すると、里香はストローから口を外し、額から冷汗が滲み出ていた。

「……それがどうした?」

 やはり、そういうことだったか。

「フッフッフ、私が気づかないとでも思った」

「……だからなんだよ」

 私は里香の焦った表情を見て、ニヤリと応える。

「里香、あの折節に帆の字なんでしょ!」

 すると、里香は反射的に牛乳パックを握り潰し、中に詰まっていた牛乳が里香の顔中に飛び散ってしまった。

 まさか、こんなところで活躍するなんて、女の勘も捨てたもんじゃない。

 赤面しながら牛乳で濡れた顔をハンカチで拭く里香をよそに、私は耳元で悪魔のように囁いて一気にたたみかける。

「どうする~里香~。このままじゃ、暦君が気を遣いすぎて、私が折節と関係持っちゃうかもしれないよ~。折節を取られたくなかったら、私に協力することね」

「このゲス野郎……」

 そんなこんなで、巧みに里香を買収した私は、めげずに暦君攻略への糸口を模索していた。

「はぁ、私の暦君はどうすれば手に入るのかしら」

 私はため息交じりに、暦君の顔を思い浮かべる。

「だいたい、思うんだけどさ。どうして、そこまで暦にこだわるの?」

ストローから口を離した里香は、ため息交じりに訊く。

「お金! 顔! 性格!」

「……ごみクズめ」

 そして、里香は頬杖をついて、こう続けた。

「でもさ、それだけの理由なら暦にこだわることなくないか? 金持ちで顔も性格も良い男なんて、探せば出てくるでしょう?」

「甘いわ、里香。あなたが今、手に持ってる牛乳くらい甘いわ!」

「お前飲んだことないだろ」

「いいこと? お金はあっても性格が悪いブサイクとか、性格は良くても稼ぎの無いブサイクとか。顔が良くても性格が悪くて稼ぎが無い。世の中ってそんなもんなんだよ」

「ほー」

 里香の反応が薄いように見えるが、私は気にせず続ける。

「でも、暦君は違う。お金、顔、性格の三拍子が揃った男は世界中でも一握りなの」

 そして、私は席を立ち、大きく手を広げて暦君の魅力を熱く語った。

「ましてや、顔面偏差値が世界一低くてモテないことで有名な日本人の中で、彼は救世主かのように日本人として生まれてきてくれた。しかも、サッカー選手として大金を稼ぐ力があって、今は同性限定だけど誰にでも優しい。これって奇跡じゃない!? 全力で奪いにいくしかなくない!?」

 私は興奮のあまり、テーブルを叩きつけた。

 力加減をしなかったせいで、手がとてもヒリヒリする。

「はいはい、気持ちはよく分かったから。とりあえず、全国にいる日本人男性に謝れ」

 熱弁を終えた私は静かに席に腰掛け、お気に入りのコーヒー牛乳を啜る。

「つまりそういうわけだから、これからも私の恋路のサポートよろしくね!」

「どういうわけで、私はお前のゲスな作戦に協力しなければならんのか」

 里香はぐったりと深く腰掛けて、牛乳を啜った。

「今度はもうちょっと良い作戦考えるから、安心して」

「犯罪まがいのことはするなよ」

 いきなりビハインドを負ってしまった私の恋路。

 でも、だからといって、終わったわけじゃないよね。

 これから、挽回できるチャンスなんていくらでもある。

 私の暦君との恋戦は始まったばかりだ。

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