涙の反省会
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーはっはっはーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
作戦終了直後の放課後。
私は共犯者である里香を連れて、校内の食堂で嘆きをぶちまけていた。
「どうして~、どうして、こうなっちゃったのよー!」
突っ伏したテーブルは、私の涙と鼻水で辺り一面水浸しになっていた。
「あんたが折節を“社会的に殺す”とか言い出すから、天罰が下ったんでしょ。自業自得じゃん」
「いや、私殺そうとしただけで、実際には殺してないよ!? 何もここまですることないじゃない!」
「厚かましいにもほどがある」
「あの後、午後の移動中にさ。話しかけてもないのに、横を通っただけで暦君から距離を取られるようになっちゃったの」
「完全に気を遣われてるな」
「そんなつもりじゃなかったのに……ぐすっ」
「サッカーで言うなら、攻めたところに不意をつかれて、速攻カウンターで失点したってところか。しかも、オウンゴールで」
「何よそれ」
「まぁでも、失点しても取り返そうって気になるのが、強いサッカー選手なんじゃない?」
「……それ、慰めてるの?」
「美亜にはどう聞こえる?」
「私はそんな分かりづらい慰め方より、もっとシンプルに誰かの胸の中に包まれて泣きたいの!」
そう言って、私は里香の胸に思い切って飛び込んで、顔を擦り付けた。
「あぁ、なんて安らぎを感じない胸なんだろう。さっきとは違う涙が出てきそう」
「ブチ殺すぞ」
里香は怒りながら、私の顔を引っぺがす。
「ごめんごめん。一割くらいは冗談だから」
「やっぱ、ぶっ殺す!」
里香はそう言って、私の頭に重いげんこつを一発食らわせた。
「痛―い! 幼気な女の子を殴るとか、罪の意識はないの!?」
「犯罪者に向ける情など無いわ!」
里香はバッサリと切り捨て、購買で買った牛乳を飲んでカルシウムを摂る。
「うぅ、これからどうしよう。里香、これからどうすれば良いと思う?」
「縁が無かったってことで諦めれば?」
「そんな簡単に言わないでよ!? 大体、今の暦君の中では私と折節がデキてるってことになってるんだよ!」
すると、里香はストローから口を外し、額から冷汗が滲み出ていた。
「……それがどうした?」
やはり、そういうことだったか。
「フッフッフ、私が気づかないとでも思った」
「……だからなんだよ」
私は里香の焦った表情を見て、ニヤリと応える。
「里香、あの折節に帆の字なんでしょ!」
すると、里香は反射的に牛乳パックを握り潰し、中に詰まっていた牛乳が里香の顔中に飛び散ってしまった。
まさか、こんなところで活躍するなんて、女の勘も捨てたもんじゃない。
赤面しながら牛乳で濡れた顔をハンカチで拭く里香をよそに、私は耳元で悪魔のように囁いて一気にたたみかける。
「どうする~里香~。このままじゃ、暦君が気を遣いすぎて、私が折節と関係持っちゃうかもしれないよ~。折節を取られたくなかったら、私に協力することね」
「このゲス野郎……」
そんなこんなで、巧みに里香を買収した私は、めげずに暦君攻略への糸口を模索していた。
「はぁ、私の暦君はどうすれば手に入るのかしら」
私はため息交じりに、暦君の顔を思い浮かべる。
「だいたい、思うんだけどさ。どうして、そこまで暦にこだわるの?」
ストローから口を離した里香は、ため息交じりに訊く。
「お金! 顔! 性格!」
「……ごみクズめ」
そして、里香は頬杖をついて、こう続けた。
「でもさ、それだけの理由なら暦にこだわることなくないか? 金持ちで顔も性格も良い男なんて、探せば出てくるでしょう?」
「甘いわ、里香。あなたが今、手に持ってる牛乳くらい甘いわ!」
「お前飲んだことないだろ」
「いいこと? お金はあっても性格が悪いブサイクとか、性格は良くても稼ぎの無いブサイクとか。顔が良くても性格が悪くて稼ぎが無い。世の中ってそんなもんなんだよ」
「ほー」
里香の反応が薄いように見えるが、私は気にせず続ける。
「でも、暦君は違う。お金、顔、性格の三拍子が揃った男は世界中でも一握りなの」
そして、私は席を立ち、大きく手を広げて暦君の魅力を熱く語った。
「ましてや、顔面偏差値が世界一低くてモテないことで有名な日本人の中で、彼は救世主かのように日本人として生まれてきてくれた。しかも、サッカー選手として大金を稼ぐ力があって、今は同性限定だけど誰にでも優しい。これって奇跡じゃない!? 全力で奪いにいくしかなくない!?」
私は興奮のあまり、テーブルを叩きつけた。
力加減をしなかったせいで、手がとてもヒリヒリする。
「はいはい、気持ちはよく分かったから。とりあえず、全国にいる日本人男性に謝れ」
熱弁を終えた私は静かに席に腰掛け、お気に入りのコーヒー牛乳を啜る。
「つまりそういうわけだから、これからも私の恋路のサポートよろしくね!」
「どういうわけで、私はお前のゲスな作戦に協力しなければならんのか」
里香はぐったりと深く腰掛けて、牛乳を啜った。
「今度はもうちょっと良い作戦考えるから、安心して」
「犯罪まがいのことはするなよ」
いきなりビハインドを負ってしまった私の恋路。
でも、だからといって、終わったわけじゃないよね。
これから、挽回できるチャンスなんていくらでもある。
私の暦君との恋戦は始まったばかりだ。




