年齢詐欺師に制裁(やつあたり)を
お目当てのポンコツマネージャーの拉致に成功した私は、人の少ない女子トイレに逃げ込み、個室に閉じこもった。
「よし、ここまでは順調ね」
私は周囲の安全を確認したら、ポンコツマネージャーを解放して壁にぺちっと押し付けた。
改めて、そのあられもない姿を見ると、同じ高校生とは思えない程の童顔と華奢な体つきで、とても簡単に例えるなら年齢詐称疑惑のある折節とは正反対の年齢詐欺師だ。
折節は三十代に対して、この高校生まがいの幼女は十歳くらいの小学生といったところか。
そのくせ、髪の毛だけは一丁前に伸ばしていて、普通に立っても背の低さで地面についてしまいそうなほどだ。
「……な、何が目的ですか!」
そんな、何もかもが釣り合わないポンコツマネージャーは強気な顔と発言をするが、声も体も震えている。
その程度では、威嚇にすらならない。
「あんたみたいな詐欺師に用はないわ。私はただあんたの着てるジャージが欲しいだけ」
私は上葉高校のジャージと体操着を脱いで肩にかける。
「さぁ、さっさとあんたも脱いでこっちによこしなさい」
すると、私の格好を見たポンコツマネージャーは、恥じらう乙女のように赤面した顔を両手で覆い、指の隙間から私の姿を覗き見る。
「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」
「はぁ? 女同士なんだから、何も恥ずかしくないでしょ? ほらっ、あんたもさっさと脱ぎなさいよ!!」
私は裾を掴んで、強引に脱がせようと力強く引っ張った。
「いやだ、恥ずかしいです!」
しかし、相手もしぶとく抵抗し、ジャージの裾を抑える。
弱っちいくせに生意気な。
服を奪い取れず息切れを起こすと、私の脳内で奴が恥ずかしがる理由はピンときた。
「ははん、なるほど。さてはあんた、私の美しすぎるこのボディに劣等感を感じて、自分の情けない体を見られるのが怖いのね?」
すると、ポンコツマネージャーは一瞬体をひゅっとさせる。
「……そ、そんなことないです」
そして、私から目を反らし、完璧なまでの図星を演じてみせた。
……何というか、ここまでくると哀れ以外の言葉が思い浮かばなくなる。
仕方ないから、慈悲として相手を楽にさせる言葉でも授けてあげよう。
「安心なさい。あんたの幼児体型なんて、誰が見ても鼻で笑うだけだから、ねっ?」
「それが嫌だから、人前で脱ぎたくないんですよっ!!」
ポンコツマネージャーは目をウルウルと、涙が流れるのを必死に抑える。
こうやって、心を折っておけば、諦めがついて楽になれると思ったのに……。
案外愚かにも諦めが悪いのかしら。
「あ~もう、分かった分かった。もう時間が無いから、楽しいお遊びはここまでね」
「私が一方的に遊ばれてただけじゃないですか~」
そして、ついに必死に堪えていたポンコツマネージャーの目から、洪水のように悲しみの涙が流れる。
あーもう、面倒くさいことになっちゃったな。
私は考えた。
彼女を慰めつつ、ジャージを奪い取れる方法を。
そして、思いついた私は、子どものように泣きわめく彼女の頬を優しく包み込んだ。
「……もしかして、私を慰めようとしてくれてます?」
すっかり目を赤く腫らせてしまった彼女の問いに、私は何も言わずただニッコリと笑顔で見送った。
そして、私は聖母のように優しく手で包みこんだ彼女の顔面を、一気に自分の胸に押し当てた。
そう、これは一般家庭でよくある、母親が子どもを慰める時にする少し強めのハグ。
神に誓って、意図的に気絶させようだなんて思ってない。
愛が強すぎてそうなってしまうかもしれないけれど、決して私に悪意はないのだから、これは合法なのです。
「んーーーーーー!!! んっ! んっ!」
谷間に挟まれて呼吸ができず、苦しみ悶える彼女は足をばたつかせて、必死に抵抗を続けた。
「んーっ! んーっ!」
しかし、私も負けじと彼女の頭をガッと両腕で覆い尽くし、懸命に呼吸を阻止した。
「無限のパワーをー! くらえー!」
声と共に力が入り、ついに私は彼女の抵抗を完全に抑え込むことに成功した。
「きゅうぅ~」
意識を失った彼女は力が抜けると、ぱたりと地面に倒れてしまった。
「……抹殺完了」
一仕事終えた私はお目当てのジャージを彼女から剥ぎ取り、試しに大きく広げてサイズを確認した。
すると、私が思っていたよりも、サイズは大きめに作られていることに気づく。
なるほど、これはきっとこいつが大きくなっても着られるように、両親が予め大きいサイズを買ってくれたのだろう。
間違いない。
こいつの両親は優しい人だ。
……少なくとも、私の母よりは。
それでは、遠慮なく私が着ることにしよう。
伸びてしまったとしても、悪しからず。
その分、このチビが頑張って、成長すればいいだけの話なのだから。
実際にジャージを着てトイレの鏡で確認してみると、私よりもワンサイズ下という印象で、着れなくもないが普段から目立っている部分が更に強調されている感じだ。
異性を意識させやすくなったという点では、むしろ好都合といえるだろう。
これで、第一段階は突破ね。
私は気絶したポンコツマネージャーを便器に座らせたら、トイレから出て標的の陣へと焼き討ちに行くのだった。




