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暦君には壁が居る  作者: 二核


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24/28

美亜のゴールをアシストした者

 試合は相手チームに1点のリードを許し、前半が終了した。

 当たり前だが、負けている私たちのベンチには、重苦しい空気が漂っていた。

 無言で給水を取る選手たちと、ゆっくり歩きながら難しい顔で腕を組む監督。

 その傍らで、ミノムシ状態の私と、金棒を持った鬼の里香。

 一言で言えば、地獄絵図だ。

「お前らどうしたんだ!! 全然練習通りにできてないじゃないか!?」

 死んだ空気の中、先発メンバーから外れた我がチームのキャプテンが堰を切る。

「なんか……相手がまるで最初から、俺たちのことを全部分かってるみたいに対応してくるんですよ。それも、とても緻密に」

 ベンチで肩を落としていたゲームキャプテンが冷静に応えると、出場していた残りの十人も満場一致で頷く。

 私は危うい空気を感じ、こっそりと里香の背中に隠れた。

「キャプテンは一年の時から試合に出てるから相手がキャプテンのことを知っててもおかしくないけど、まともに試合に出れてない俺たちをあんなに完璧に抑えるなんて不自然ですよ!」

 一人の選手がベンチから立ち上がり、不満を漏らす。

「そう言えば、相手のディフェンダ―。俺がペナルティエリア外からは打てないって、仲間に叫んでた。まだ、一本もシュート打ってないのにだ!」

 今度はフォワードの選手が、チームの輪に向かって吠える。

「俺がボールを持ってる時だけ、あいつら露骨にプレスをかけてた! 誰か情報をリークしたんだろ!」

「俺じゃないぞ!」

 続けてボールの扱いが下手なディフェンダーが文句を垂らすと、五月雨式に選手たちの不満が爆発した。

 私は里香の影に隠れて、彼らの悲痛の叫びに耳を塞いだ。

 まさかこんなことになるなんて……。

 強いチームなら、「ここから巻き返そう」って開き直るものじゃないの?

 暦君が試合に出そうな気配もないし、チームは内部崩壊で勝手に負けそうだし、私は里香に命を握られてるし、もう散々!

 選手同士の激しい口論が塞いだ耳を突き破り、私の脳みそを揺らす。

 青ざめた私はこの場から脱出しようと、縛られた足を懸命に動かす。

 ――バァァーーーーン!

 すると、どこからか勢いよく飛んできたボールが、一人の選手の頭に強めに直撃した

 砲弾のように鈍い音を立てたボールは跳ね返りも凄まじく、ピッチ内でウォーミングアップをしていた控え組の暦君が胸トラップをして、足の甲で華麗にボールを収める。

 この一連の流れで選手同士の口論は沈静化し、ボールに当たった選手は白目を向いて地面に伸びてしまった。

「おい、暦! 気を付けろ!!」

 先輩は暦に向かって怒号を飛ばすが、暦君は何のことやらと首を傾げる。

「いや~、すまんすまん。つい足が力んでしまったわい」

 すると、奥のタッチラインから、折節が後頭部を掻きながらヘラヘラと謝罪をした。

「……今のボール、お前だったのか?」

 さっきの弾丸のようなボールを蹴ったのが、ピッチの一番遠い位置にいたはずのマネージャー折節という事実に、選手は全員揃って口をあんぐりとさせる。

「あんなボール蹴られたら、死人が出るよ。もぉ、ツヨったらぁ」

 死人なら目の前にいるんですが……。

 暦君が顔を膨らませて文句を垂れると、折節は大きな手で暦君の頭を撫でて陽気に笑った。

「許せ、瑞季よ。久しぶりに蹴るロングボールは、力の加減が難しいのだ」

 言い訳には納得できるが、起こった事象に納得できない選手一同。

 折節……お前やっぱりサッカー部に入って、そのままプロの道に進んだらどうなんだ。

 “悪魔の右足”なんて異名で、世界中を席巻すること間違いないのではないだろうか。

 そう思っているのは、何も私だけではないことだろう。

 しかし、そんなことよりも……。

「おい! 大丈夫か!?」

 折節の殺人シュートをくらった選手は、未だ起き上がる気配がない。

「ダメだ。意識失ってやがる」

 何度声をかけても微動だにせず、声をかけた選手は監督に向かって、バツのサインを送った。

「仕方ない、交代だ」

 監督は戦術ボードを持つと、交代選手のマグネットを枠線から外した。

 そして、ぽっかりと開いたトップ下のポジションに、監督は別のマグネットを取ってそこを埋めた。

 私はマグネットに貼られたテープに書かれている名前を覗き込もうとすると、それよりも先に監督が交代選手を名指しする。

「……暦、行けるか?」

 すると、おでこにボールを乗せて遊んでいた暦君はボールを下ろすと、待ちわびたと言わんばかりに笑みを浮かべた。

「……何点欲しいですか? 監督」

 自信に満ち溢れた暦君の一言に、周りの選手たちの士気が上がる。

 女の子の前でも、それくらいカッコ良かったらいいのに……。

 しかし、想定通りにならずとも、結果的には私の希望通りの展開になってくれた。

 折節のアシストという点だけが癪だけど、これで最悪の状況は免れることだろう。

 そして、暦君は背番号10のついたユニフォームに着替え、後半から試合に出場した。

 試合に出た暦君の圧巻なパフォーマンスは周りとは比にならず、息を吸うように逆転し、その後も暦君のワンマンショーで得点を重ねていった。

 終わってみれば、スコアは9―1で私たち上葉高校の圧勝。

 暦君のトリプルハットトリックという活躍で、決勝に進出することになった。

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