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暦君には壁が居る  作者: 二核


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22/22

試合前のウォーミングアップ

 ミーティングが終わり、一時解散になった。

 ウォーミングアップをする者、試合前に選手同士で話し合う者、他校の試合を観戦する者、流石は強豪校の部員たち。

 サッカーに対する意識がとても高い。

 そんな中、私も私で暦君を試合に出すために、自らの足で行動を開始する。

 まずは、相手がどこになるのかを探るために、現在行われている試合を観戦した。

 トーナメント表を確認した里香の情報では、この試合の勝者が相手になるそうで、赤色ユニフォームと水色ユニフォームを着た選手たちがボールを奪い合っている。

 そして、ピッチの反対側にあるスコアボードを見ると、1対0で水色ユニフォームのチームがリードしていることが分かった。

 このまま試合が終われば、水色ユニフォームのチームが対戦相手になる。

「ねぇ、折節君」

 私はメモ帳とシャーペンを出して、隣で観戦している折節に訊ねる。

「どうした? 春山」

「もし、今勝ってるチームと対戦することになったら、どんな試合になると思う?」

「そうさなぁ……」

 私は顎髭をさする折節の説明から、キーワードになりそうな言葉を抜き取ってメモに書いた。

「……とまぁ、頭脳で闘う我々に対して、どちらが勝ったとしても相手は走力や高さといった身体能力で応戦するだろうな」

「なるほど、身体能力ね……」

 すると、折節は熱心にメモを取る私を見て、小さく鼻息を吐いて笑った。

「どうしたの?」

「いや何、なかなかお目にかかれない光景だったのでな」

「えっ? あー、確かにそうね。あはは……」

 私はメモ帳とシャーペンを背中に隠して、照れくさそうに笑う。

 何か勘付かれたか……。

「いつから、そんなにのめり込むようになったのだ?」

 折節の疑問に胸を撫で下ろした私は、テキトーに回答を作って返した。

「最近、里香とサッカーの話をするようになってさー」

「そうか、夏海か。それは有難いことだ」

 折節は力強く頷く。

「何がありがたいの?」

「サッカーに関心を持ってくれたことさ。人にこの競技が必要なのは、何も体を動かすことだけではないからな」

「他に何があるの?」

 すると、折節は静かに口角を上げて、こう言った。


「……感動だ」


 その瞬間、砂埃が纏った強い風が、私の髪を大きく揺らした。

 折節は懸命に闘う選手たちの姿を見ながら、話を続ける。

「誇りのある闘い(サッカー)は憧憬を、意地のある闘い(サッカー)は勇気を与えてくれる。それが、人々の大望を抱かせ、実現への活力になる。わしも暦も、そんなサッカーの魅力をこの国の関心ごとにしたいのだ」

 折節は真剣な眼差しをグラウンドに向けて意気込む。

「決して簡単な道ではないのは分かっとる。だからこそ、たった一人でもサッカーの世界に入り込んでくれたことが、何よりも嬉しいのだ」

 大人みたいにかっこつけたことを言ったと思えば、今度は少年のような笑みでこちらを見る。

 その純粋さが、憎たらしい。

 私はシャーペンをギュッと握りしめ、心の底から湧き出る怒りを抑えつける。

「どうした? 春山」

 黙り込んだ私を、折節は覗き込むように顔色を窺う。

「ごめん。ちょっと張り切り過ぎちゃって疲れたみたい。少し木陰で休むね」

 私は誤魔化しの笑顔を作って、お腹から声を出す。

「そうか。無理はするなよ」

 折節は涼しげに笑いながら、私を見送った。

 ……本当に憎たらしい。



 校内の角から遠くのピッチを眺めていると、審判が試合終了のホイッスルを鳴らしているのが見えた。

 私が折節から離れてから、ゴールネットが揺らされていないので、スコアは変わらず水色ユニフォームのチームが勝利しているはずだ。

 わざわざスコアボードを確認しなくても、喜びを爆発させている水色ユニフォームの選手と、倒れ込んで悔しがっている赤色ユニフォームの選手の対照的な光景を見れば一目瞭然だ。

 両チーム握手を交わして、お互いの対戦相手のベンチと観客に挨拶をすると、ピッチから退いていった。

 折節のことは一度棚に置き、私は気持ちを切り替えて私の仕事を開始した。

 まずは、勝者である水色ユニフォームの選手たちの跡をつけ、監督とミーティングしている現場を物陰に隠れながらチームのキャプテンを探した。

 腕に黄色い腕章を巻きっぱなしだったおかげで、すぐにキャプテンを見つけられた。

 里香が言うには、キャプテンは試合中に選手とのコミュニケーションを最も多く取るというので、私の目的を果たすためのうってつけの材料となる。

 ミーティングが終わり、チームが解散すると、私はキャプテンをつけて一人になるタイミングを窺った。

 少しすると、チームの中心にいたキャプテンが、トイレに行こうと選手の輪から外れたので、私も彼の後を追う。

 そして、トイレから出ると同時に、私は彼の前に立って挨拶代わりの営業スマイルを見せる。

「こんにちは。初めまして」

「えっと……君は?」

 突然のことで、キャプテンは困惑している様子だ。

「私、上葉うえは高校のマネージャーをやっている者です」

 私の自己紹介とジャージに書かれた高校名を見たキャプテンは、一転して警戒の眼差しを向ける。

「……何の用ですか?」

「安心してください。あなた方に危害を加える気はありません。なんせ、私たちは“強豪校”なんですから、わざわざ小細工なんてする必要がない。そうでしょう?」

「……」

 キャプテンは、見下された怒りと、正論に納得せざるを得ない悔しさが入り混じったような、複雑な表情を浮かべる。

「そこで、私から一つ提案があるんです。話を聞いてもらってもいいですか?」

 私は手の甲で口元を添えて、キャプテンの耳元で囁いた。

 彼はゴクリと唾を飲み、何も言わず首を縦に振る。

 ひとまず、最初の関門はクリアだ。

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