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暦君には壁が居る  作者: 二核


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21/22

サッカーの魅力とは

 週末の朝――。

 私はいつもより早く起床して制服に着替え、家族が寝ている間一人で朝食を済ませた。

 そして、サッカー部から預かった救急バッグを肩にかけ、家の扉を開けて眩しい朝日の下を歩いた。

私は里香のアドバイス通り、ネットを使ってレオについて取り上げられているサイトや動画を閲覧して今日まで勉強した。

 そこで、最初に思ったのはやはりサッカーはとても自由度が高いということだ。

 レオに関連するサッカー選手のエピソードには、手を使ってゴールを決めた選手がいるのだから。

 それに、何よりの収穫はマネージャーである私が、試合中の暦君をサポートできる術を得られたことだ。

 これなら、暦君も喜んでくれるかもしれない。

 その先に待つのは、暦君との初めてのまともな会話。

 そして、私は更にその先を突き進んでいくのよ。

 私はそんな輝かしい未来を期待しながら、最寄り駅に向かった。

 里香とは改札で待ち合わせを約束しているので、近くの柱に寄りかかって救急バッグを肩から降ろして一息ついた。

 あれだけ、今日の試合に気乗りしていなかった私は、今では早く始まらないかと遠足前夜の小学生くらいにはウキウキな気分だ。

 少しすると、遠くからボールの入ったバッグを肩にかけた里香の制服姿が見えたので、私は飛び跳ねながら大きく手を振った。

「おーい、里香―! こっちこっちー! 早くー!」

 急かされた里香は小走りで、私のところにやってくる。

 私も降ろしていた救急バッグを再び肩にぶら下げ、二人一緒にホームに入った。

「今日はやけに張り切ってるな」

「里香のアドバイスのおかげで、少しだけサッカーが面白く思えるようになったんだー」

「早速、効果出てるじゃんか。どんなの見たんだ?」

「選手のエピソードとか、試合中に起こった事件とかを解説動画で見たんだけど。知ってた? サッカーって手を使ったゴールが許されるんだよ」

 私はキメ顔で会得したサッカー知識をひけらかすと、里香は分かりやすく微妙なリアクションをとった。

「へ、へぇー。他にはどんなの知ったんだ」

「ピッチから出たボールを敵に渡さないで、手中に収めるボールボーイ。応援しているチームの勝利のために、敵選手から体を蹴られようとも守り抜く姿は感動したわ~」

 感涙にむせぶ私を横目に、里香の表情はだんだん沈んでいく。

「そ、そうか。まだないのか?」

「あとは、相手の肩に噛みつくチームのエース!」

「全部反則行為じゃねぇか! どこに着目してんだよ!」

 堪忍の尾が切れた里香は、私の顔面を吹き飛ばす勢いで怒号を飛ばす。

「でも、勝利のためにバッシング覚悟で行ってるんだとしたら、それは称賛されるべきだと思うの」

「お前が言うと説得力はあるけど、出来れば納得したくないな」

 里香はまいったように、額に手を当てる。

「というわけで、今日の私は敵チームを思いっきり妨害して、勝利のサポートするから!」

「自分のチームを応援して、勝利のサポートしろ」

 私たちは電車に乗った後も、こんな風にサッカーの話で盛り上がりながら、会場へと赴いた。



 今日の試合会場になる高校の側面を歩いていると、グラウンドから歓声が聞こえてきた。

 既に他校同士の試合が始まっているのだろう。

 金網の隙間から中を覗くと、一面濃い緑色に染まった人工芝の上で戦っている選手と周りに数人の観客がいる。

 選手たちはお互いに声を出しながら、激しく体をぶつけ合っていた。

「私たちは、この後あれと戦うの? なんかゴツい人ばっかりじゃない?」

 華奢な体をした暦君が、あんな動物園にあるゴリラの檻の中みたいな所に身を投じなければならないというの?

 早速、一人担架で運ばれてるし、暦君大丈夫かな……。

「少なくとも勝った方とは必ず戦うんじゃないか? 対戦相手とか興味無いから、よく知らないけど」

「へぇ~」

 異種のプロレスか格闘技のような酷い光景を見るに堪えなくなった私は、金網から離れて校門まで足を運んだ。

 すると、反対側から小さな体でリフティングしながら歩いている少年と、グラウンドにいたゴリラたちよりもひと際ゴツいボスゴリラが一緒にこちらに向かってくるのが見えた。

 暦君と折節だ。

「おーい! おっはよー!」

 私が二人に大きく手を振ると、暦君はリフティングを止めて俊敏な動きで折節の背中に隠れてしまった。

 分かっていたことだけど、それだけではこの痛みを和らげることは難しい。

「おう! 偶然だな、二人とも」

 折節は相変わらず、バカデカい声で返す。

「ほれ、瑞季」

「お、おはよう……ございます」

 暦君は相変わらず、折節の背中からボソッと言葉を発する。

 でも、そんな暦君も可愛くて奥ゆかしい。

「では、中に入ろうか。既に誰か来ているやもしれん」

 こうして、四人並んで校門を潜ったが、暦君は無言で私たちの視界から逃れるように折節にくっついていた。

 部員たちと合流した私たちは、更衣室でユニフォームとジャージに着替たら、トップチームとセカンドチームと共に監督の前に集合した。

 そこで、最初の試合のスターティングメンバーが発表されたが、折節の予想通りセカンドチームがメインに起用され、その中に暦君の名前は出てこなかった。

 普段から誰よりも試合を楽しんでいる暦君からしたら、監督の意向なんか関係なく残念なことだろう。

 しかし、私は暦君に試合に出てもらうための、ある秘策を用意している。

 期待しててね、暦君。

 必ずあなたの願いを叶えさせてあげるから。

 こうして、私と暦君それぞれの戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

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