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暦君には壁が居る  作者: 二核


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18/22

春山美亜には家族が居る パート3

 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ。

 三回目のアラームでようやく目を覚まし、次のフェーズが鳴る前に止めるのは、調子が悪い時の朝の最初のルーティンだ。

 カーテンを開けず、だらんと腕をぶらさげながら部屋を歩き、私の澱み切った一日を肌で感じ、制服に着替えて姿見で自分の身嗜みを整えた。

 今日の私は目の下にクマができている。

 部屋を出たらノシノシと階段を降りて、リビングに入ろうと取っ手に手をかける。

「おねーちゃん、おはよう!」

 すると、横から私が溺愛する弟が身体にしがみついてきた。

「おはよう、ふーちゃん」

 私は挨拶に弟の小さな頭にポンと手を置いた。

「おはよー、美亜」

 すると、今度は後ろからマミーが気だるそうに、欠伸をしながら挨拶してきた。

「おはよう、マミー」

 三人仲良くリビングに入ると、朝御飯の美味しそうな香りが漂い、寝ぼけていた私は何も考えず、テーブル席に座って手を合わせた。

「「「いただきます」」」

 箸を手に取って何から手を付けようか迷っていると、ようやくテーブルに並んでいた豪勢な料理に気づいた。

「マミー、なんか料理が凄いんだけど、今日って誰かの誕生日だっけ?」

「いえ、今日は普通の日よ。それに、お母さん今朝は朝御飯作ってないわ」

「あれ? それじゃ誰が……」

「我だ!」

 私がぼそっと呟いていると、ソファの方からパピーの声が聞こえてきた。

「パピーが作ったの!?」

「そうとも! 帰ってきて以来、我が妻は一度も我に朝御飯を作ってくれなかったのでな」

 パピーはカッコつけて、背中で語り出す。

 でも、言っていることは、とても悲しい。

「それならば、我が己含めて家族全員に朝御飯を振る舞えば良いというところまで至ったのだ! これならば、家族四人! 全員! 仲良く! 食卓を囲めるというものよ!」

 パピーはやけに高いテンションで、私たちに熱く語りかけた。

「へぇ〜、どれも凄く美味しそうだよ。ありがとう、パピー」

「ハッハッハッ、礼には及ばんさ、我が娘よ。あー、しかし……」

 逆接に入ると、途端にパピーの声に覇気が薄れ、まるで普通の人みたいな口調に戻る。

「実は、今テーブルに乗ってるやつら、夜中にぶっ通しで作ってたんだ。だから、今めっちゃ眠い」

 パピーが振り返ると、目の下には私よりも酷いクマができていた。

「それで、昨夜はキッチンの方が騒がしかったのね」

 マミーがパピーの作った料理を、口の中で咀嚼しながら淡々と喋る。

「おトイレ行く時、すっごい良い匂いしてた!」

 今度は興奮したふーちゃんがテーブルを押して、椅子に乗り上がった。

「危ないよ、ふーちゃん」

 私はふーちゃんが椅子から落ちないように、脇腹を掴んで支える。

「長く苦しい戦いだった……。包丁は言うこと聞いてくれないし、火が通るまで番をしていたら、うたた寝して手は火傷するし」

 パピーは手に巻いた絆創膏や、貼り付けたパッドといった栄光の傷跡を私たちに見せつける。

「料理ってこんなにも過酷なんだなって……。今なら、バトル漫画作れそうな気がする」

 パピーが語るサガは言葉を連ねる度にか細くなっていき、そのうち立つこともままならなくなっていた。

「でも、それってパピー(子犬)がちゃんと寝てからお料理すれば、もっと楽な戦いにできたんじゃないの?」

 骨付き唐揚げを頬張るふーちゃんのぐうの音も出ない正論が、満身創痍のパピーにとどめを刺した。

 その結末に納得できないパピーは、幽霊のように揺らめきながらふーちゃんの近くに寄って抗議を始めた。

「息子よ! お父さん寝る間も惜しんで頑張ったのに! 感謝の言葉も与えてくれないの!?」

 返す言葉に困ったふーちゃんは唐揚げの骨を父の顔に吐き捨てて、どうしようかという顔でマミーの方を見る。

「ふーちゃん。今日のお父さんはすっごく頑張ってくれたみたいだから、一応お礼は言ってあげて。ついでに、骨を吐いたことも謝ってあげて」

「一応……? ついで……? あげて……?」

 パピーの頭に疑問符が付いていたが、ふーちゃんはマミーの言う通りに、お礼と謝罪をパピーに言った。

「作ってくれてありがとう。あと、骨吐いてごめんなさい」

「おー! ついに我が息子が素直にお礼と挨拶をっ! 頑張っでよがっだぁ~」

 パピーは涙ぐんで、ふーちゃんに熱い抱擁をした。

 しかし、パピーの体はもう限界だったようで、すぐに力が抜けてその場でしおれて灰になりかけていた。

「そろそろお迎えが来たのかしら? 美亜、お父さんソファに置くから手伝って」

「う、うん……」

 私とマミーは共同でパピーを持ち上げて、ソファに放り投げた。

「マミー、パピー(子犬)の顔に落書きしていい?」

「今日はそのまま、えいえ……じゃなくて、ゆっくりと寝かせてあげて。お父さんの落書きはまた何かしでかした時にね」

「はーい!」

 今……永遠にって言おうとしてたよね?

 でも、直接訊くのは怖いので、気づかなかったことにしてテーブルに戻った。

「パピー(子犬)、早く問題起こしてね」

 ふーちゃんもパピーの耳元で囁いたら、席に戻って朝食を再開させる。

「そのうちな……ムニャムニャ」

 パピーは寝言でふーちゃんに返事をするが、あれは本心だろうか。

 何がともあれ、こうして私たちはいつも通り三人で食卓を囲うのだった。

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