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暦君には壁が居る  作者: 二核


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17/22

深まる誤解と広がる距離

交換ノート6ページ目――暦君

 おはようございます。

 なんて、あなたがいつこれを読んでいるのか分かりませんが(笑)

 好きな選手が一緒でとっても嬉しいです。

 それに、こんなにもレオについてこんな詳細に話せるなんて、よっぽどお好きなんですね。

 でも、そんなレオと僕を比べるのは、お門違いかもしれませんよ(笑)。

 今の僕なんかまだまだですし、この先もどうなるかは分からないので。

 でも、憧れの選手に似ているって言ってくれたことはとても嬉しかったです。

 本物のようになれるかは分かりませんが、僕というプレイヤーを見てくれたらと思います。

 ――終わり。



「んー、なかなかいい感じになってきてるわね」

 暦君の返事を読み終えた私は、納得の顔で頷く。

「でも、肝心の誤解はどうしよう」

 私は腕を組んで悩みを吐露すると、頼れる親友里香はどこか思うところがあるのか、口元を塞いで黙り込んでいた。

「……どうしたの、里香?」

 私は微動だにしないのを良いことに、人差し指で里香の顔をなぞって落書きをする。

「いや、何というかさ……って、やめろ!」

 里香は思いっきり私の人差し指を外側に折った。

「いたたっ! 指を折る方向間違ってるよ!」

「わざとじゃ、ボケナスビ!」

 私は折れ曲がった指にフーフーと息を吹きかけて、少しでも痛みを和らげる。

「それで? 何か違和感でもあるの?」

「なんか、一見すると明るく振る舞ってるように見えるけど、不安も抱えているようにも見えてさ」

 里香の言っていることが分からず、私は首を90度かしげる。

「……不安? 世界一の選手に似てるって、言われてるのに? 私だったら、世界一可愛い子と似てるって言われたら、嬉しくてSNS始めてるところだよ」

「嬉しさの度合いが分からん」

 里香は丸めていた背を、ドサッと椅子の背もたれに預ける。

「似てるってことはアスリートにとって、その存在と常に比較されるってことなんだよ。たとえ、どれだけ自分らしく表現しようとしても、周囲はずっと過去に栄光を築いた人間の生き写しのようにしか見てくれない。自分を見てくれない寂しさと、比較した人間のようにならなきゃいけないプレッシャーが付きまとうから、軽い気持ちで言うべきじゃなかったかもな」

 心の底から反省するような声のトーンだった。

 今回のメッセージを作ったのは里香だ。

 でも、これは流石に予想できてなかったな。

「ごめん、里香」

 重苦しい空気に耐え切れず、私は思わず本音が漏れてしまう。

 里香は普段見せない私の神妙な面持ちを見て、フッと嘲笑気味に笑った。

「珍しいな。お前がこんなことでそんな顔するなんて」

「こんなことじゃないよ。流石にこれは人任せがすぎた」

「美亜……」

 そして、私を見つめる里香に、自分お得意のスマイルでこう言った。

「だからさ、次からは暦君が喜びそうな話題を振ってあげよう! そうすれば、レア? の比較とかも少しは忘れてくれるでしょ!」

「レオだよ、バカ」

 里香は小さく鼻で笑い、いつものクールな親友に戻ってくれた気がした。

「じゃあ、早速私の好きなものを交えながら、話題を作ろっかなー。例えば、サッカー選手のお給料とか」

「それ盛り上がるの、お前だけだろ」

 私たちは楽し気に返事を考えていると、向こう側からガラガラと扉を開ける音が聞こえてきた。

 私たちは音がした方に顔を向けると、そこに立っていたのは暦君だ。

「こ、暦君!?」

 私は急いでノートを隠そうとしたが、時すでに遅く、暦君に完全に見られてしまった。

 誰も何も言わない気まずい空気。

「ち、違うんだよ暦君!! これはその……偶然拾って」

 私はダメもとで何か言い訳しようとしたが、暦君は一切耳を傾けようとはせず、ドシドシと足音を立てながら、私たちの目の前に立った。

 赤面した顔と、緊張を隠せていないプルプルとした体。

 そんな状況が数秒間続くと、暦君は勇気を振り絞るように目を閉じて、机の上に置かれたノートを搔っ攫った。

「ちょ……暦君?」

 取ったノートを大事そうに抱きかかえて、私たちを見る暦君。

「あ、あの……」

 暦君は何か言いたげにしているが、緊張のせいなのかなかなか言葉が出なかった。

 せめて、保健室での二の舞でないことを祈りながら、あわよくば愛の告白であることを願いながら、私はゴクリと固唾を呑む。

 そして、この緊張感が漂う空気から数秒程経つと、暦君はようやく覚悟を決めて私たちにこう言い放った。


「ぼ、僕に仕返しをするのはいいですけど、僕のファンを傷つけるようなことはしないでください!」


「……ほぇ?」

「僕に恨みがあるのは重々理解できます。仕返しをしたいのであれば、甘んじて受け入れるので、せめて標的は僕だけにしてください!」

 暦君はモジモジとしながら、見当違いなことを羅列すると、私の弁明する時間すら与えてくれず、教室を去っていった。

「えっ、ちょっと暦君!?」

 私は教室を出て暦君を追いかけようとしたが、サッカー仕込みの足の速さであっという間に姿を消してしまった。

「違うんだってばーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!って、これ何回言わせんのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 こうして、また新たな誤解を与えてしまった私は、暦君には届くことのない思いの丈を叫んだ。

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