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暦君には壁が居る  作者: 二核


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15/22

暦君の好きなもの

 交換ノート3ページ目――通りすがりの普通のファン(男です)。

 お返事ありがとうございます。

 実はお手紙を書くの、これが初めてだったので、文面についてはちょっと気張っちゃいました(笑)。

 次からはこんな感じで書かせてもらいますね。

 僕もファンタジスタの選手が好きで、プレーをよく真似してたんですけど、全く上手くいかなくて、僕の方がボールに転がされてました(笑)。

 暦選手はファンタジスタの中で、誰が一番好きですか?

 僕と一緒だといいな。

 ――終わり。



 翌日の放課後――。

 私は予めノート書き記しておいた暦君専用のポストへノートを取りに行った。

 ポストと言っても、運動部が使っている部室の隣に生えている大きな木の樹洞という、とてもメルヘンチックなポストだ。

 この日もしっかりとノートが入れられていて、私は心を弾ませながら手に取って教室に戻った。

「返信来てた!」

「そうか、良かったな」

 私ははしゃぐ子供のように興奮しながら報告するが、里香はいつも通り素っ気なく返した。

 私は席に着いたら早速ノートを開けて、新しいページを開いた。



 交換ノート4ページ目――暦君

 こんにちは。

 あの歪な文面はそういうことだったんですね。

 たしかに、僕も初対面の人と話す時は緊張しますよ(笑)。

 でも、頑張って話せるようになったので、いつかあなたとも直接会って話せるといいですね。

 ところで、僕の好きなファンタジスタについてですが、やっぱりレオですね!

 まぁ、"ファンタジスタ"よりも"神"の方が印象強いですけど、レオならどんな二つ名でも間違いはないので!

 あなたはどうでしょうか?

 同じだといいですね!

 ――終わり。



 暦君のメッセージを読んだ私は、神に感謝するように指を組んで天井を見上げた。

「やっぱ、暦君ってすごくいい子!」

「そっかー、良かったな」

 里香は相変わらず、冷め切った反応を返す。

「ところで、"レオ"って誰? 日本にそんな有名人いたっけ?」

「レオは日本人じゃない。サッカー史上最高の選手の一人って言われてる」

「へー」

 私はよく分からない時のトーンで、とりあえず分かった感を出す。

「お前、暦と仲良くなりたいんだったら、これくらいは知っておいた方がいいんじゃないか? もし、暦と話すことになったら、避けては通れない話題になると思うんだけど」

「それって、私にサッカーを好きになれってこと?」

「その方が暦と関係作っていくうえで、有利に働くだろうし」

 里香の冷静な分析は、確かに論理的に的を射ている。

 ……しかし。

「……あのさ、里香」

 私はおもむろに席から立ち上がり、上から里香を見下ろす。

「な、なんだよ」

 私の気迫に押されたのか、里香は戸惑っている様子だ。

「私、自分の持つべき“好き”って、他の人から強引に押し付けられるものではないと思うの。ふとした出来事から心が動かされるもの。それこそが、本物の“好き”というものだと思わんかね、里香よ」

「……まぁ、そうかもな。あと、急にキャラ変えてくんな」

 ツッコミとともに、里香の緊張は少し解れた様子だ。

「だからね、私が無理矢理努力してサッカーを好きになったところで、それは本物の“好き”になることはない。大切なのは自然な流れから得る共感。つまり、サッカーを本当に好きになりたいのであれば、暦君との触れ合いから始まらないと意味がないの!」

「……じゃあ、もし暦から機関銃みたいにサッカーの話が飛んで来たら、受け止められんのかよ。テキトーに愛想よく振る舞っても、いつか気づかれて逆に向こうから愛想尽かされるんじゃないか?」

 クリティカルシンキングを返す里香に、私は人差し指を左右に揺らして余裕を見せた。

「ノンノンノン。それなら、銃弾が飛んでくる前に銃口をナイフで刺して塞げばいいだけのこと」

「引き金引いたら、暴発して暦の腕が吹っ飛ぶけどな」

「そこまでリアルに言わないでよ! これ、比喩でしょ!?」

 里香が言葉をそのまま想像してしまい、私は全身をブルりと震わせる。

「要するに、暦君の好きなものを一方的に語らせるんじゃなくて、時折私の“好き”も織り交ぜて上手いことバランスを取る。これぞまさに、賢い会話のパス交換ってやつよ!」

「さりげなく、サッカーに寄せた表現するのは何なんだ」

「詩人とお呼び!」

 私は得意げにお嬢様笑いを見せつけたが、里香は完璧にスルーした。

「それで? お前の“好き”って、具体的に何を話すつもりなんだ?」

「お金と性格の良いイケメン!」

「玉砕してしまえ」

 里香は鋭いツッコミを入れると、呆れ顔で頬杖とため息をついた。

「珍しく良いこと言ったと思ったらこれだもんな。やっぱ、性根が腐ってるのか? 母親に鍛えてもらった方がいいんじゃないか?」

「やめてー! お母さんの話はやめてー!」

 私は床に倒れると、耳を塞ぎながらあたりをゴロゴロと転がる。

「悪かったって。とっとと、返事書いて、グラウンドに行くぞ」

 里香はそう言いながら転がる私をとっ捕まえて、席に座らせた。

 そして、私は里香からサッカーに関する知識を借りながら、暦君への返事を書いて、暦君が座る机の中にしまって教室をあとにした。

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