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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第三章

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第48話 「ツーレツト町の方からの依頼ですか」

大きな棚をスキルで見ると、手前側の消耗が大きく、一部の釘は錆びて中で折れていた。

目の前の立体映像を拡大して隅々まで確認したカイは、『故障品再生』スキルを使って木材内部の割れまでなおした。


音も光もなく、材料となる木材とくず鉄が浮き上がって消えていき、心なしか古い印象の棚がどっしりとした安定感を醸し出した。


「いつ見ても面白いわ」

横で見ていたヒルダが、尻尾をゆらゆらと左右に揺らしていた。


「ヒルダのスキルは綺麗だと思ったよ」

ヒルダが『目利き』スキルを使うときには、彼女の目がピカリと光るのである。


「そう?実はわたしも気に入っているんだよね、ありがと」

ニパッと笑ったヒルダと一緒にいるのは、商店の倉庫である。


そんなに急がないから、と依頼をもらっていた、奥の方の棚の修理をしていたのだ。


ぽた、と汗が頬から顎へと伝う。

季節は、すっかり夏まっさかりであった。



「棚二つ分と材料で、銀貨二枚と銅貨四枚です」

「ああ。……はい、ありがとな」

銀貨と銅貨を差し出したヤーコブは、カイに笑みを向けてからヒルダを見た。


「また見に行ってたんだな?倉庫の在庫も確認してきたか?明日から仕入れに行くんだぞ」

ヤーコブに言われたヒルダは、ひょこりと耳を動かした。


「そうね、布と糸の在庫が減ってたわ。あとは秋に向けて保存食用の瓶を追加した方が良いかも。あ、それから食器類と、布団も追加したいわ」

ヒルダが倉庫を思い出すようにしながら言った。


「布団?」

ヤーコブの問いに、ヒルダがうなずいた。

「うん。ライナーさんたちが戻ってきたら、一家三人分いるでしょ。バンガードのほかの人たちも、長期滞在になるから借家をもう少し手入れしたいって言ってたし」


「ライナーさんが家族を連れて戻って来るかは、まだわからないよ?」

カイは思わず口を出した。

彼が村を出てそろそろ一月になるが、ライナーはまだ戻ってきていない。


「まあそのときはそのとき。布団は腐らないもの、ちょっと場所は取るけど問題ないわ」

気楽に言ってのけたヒルダを見て、ヤーコブはため息をついた。


「そう何組も要らない。今もいくつかあるんだからな。買い足すなら二組までだ」

「わかってるわよ、父さん」

笑顔の娘を見て、いつもの尻尾のリズムを崩さないヤーコブは苦笑した。



今日は食堂で夕飯を食べて帰ろう、と歩いていると、役場の方からやってくるデニスが見えた。


「デニスさん、こんばんは」

「ああ、こんばんは。カイ、ちょうど良かった」

手を上げてそう言ったデニスに、カイは首をかしげた。


道の端に寄って聞いたのは、これまでになかったことだった。


「ツーレツト町の方からの依頼ですか」

「そうなんだ。それも冒険者ギルドを通した、いわゆる指名依頼ってやつだな。町の修理担当も動いているらしいが、故障個所が多くて手が回っていないそうだ」


ツーレツト町は大きいので、インフラもかなり大規模だ。


「下水のフィルター修理は、年に一回でも多いくらいと聞きますね」

カイが言うと、デニスもうなずいた。

「うちの村なら、三年に一回で十分なくらいだ。だが、今のツーレツト町ではなぜか頻発しているらしくてな。その調査は、ギルドで行っているそうだ」


カイへの依頼は、下水のフィルター部分の修理依頼だ。

この国の下水は独特の形を取っている。


「下水関係はほとんどが町や村の管轄で、ギルドはほとんど関係しないところですから、僕もほとんど知らないんですよね」

町や村の重要なインフラだから、役場が管理しているところばかりなのだ。

ヴィーグ村でも同じである。


「なら、村の下水フィルターを見ておくか?多少の違いはあるだろうが、基本の機構は同じはずだし、今後修理が必要になったらカイに頼むだろうからな」

「良いんですか?ぜひお願いします」

カイは笑顔で頭を下げた。



次の日、子どもたちが遊びたくって紐がずれてしまったブランコを修理したカイは、役場を訪れた。

「こんにちは。デニスさんに用があって来ました」

「ああ、聞いていますよ。執務室にどうぞ」


相変わらずの顔パスである。


「カイ、来たか。すまんが、村の仕事が詰まっていてな。鍵を渡すから、一人で行ってきてくれるか?」

書類の束と格闘していたデニスが、顔を上げて言った。


「はい、大丈夫です。下水への入り口はどこですか?」

「ああ……それもだったな。少し川下へ下ったところにある。両開きの鉄の格子戸の付いた洞窟だ。格子戸は閉じると勝手に鍵がかかる仕組みになっている」


引き出しから取り出した鍵束から、デニスは一つの鍵を外してカイに差し出した。


重要なインフラの鍵である。

カイは、思わず鍵とデニスを見比べてしまった。


「責任重大ですね」

カイがゆっくりと鍵を受け取ると、デニスは苦笑した。


「まあ、こんな村の下水なんぞ大したことはないがな。鍵は失くすなよ。出るときにも使うからな」

「はい、ありがとうございます」


閉じると同時に鍵をかける機構は、普通の扉にはつけられない。

貴族の宝物室やギルドの大きな支部にある金庫のほかは、国が認めた場所にだけ使えるものだ。


大昔、それで閉じ込めの事故が頻発したからだと聞いたことがある。




村から川辺に下りて、河原を北へ向かう。


このあたりには魔物除けの香草が植えてある。

もう魔物が村の方へ来ることはないはずだが、秋には実が生るらしく、それを使って村の備蓄を作る予定だという。


川下へ向かうこと十数分、河原の両側が崖になっているところにたどり着いた。


「あった。この扉か」

錆びた金属でできた大きな格子戸があった。

地面には水が流れていて川に合流しているが、これは浄化された下水だ。


両開きの扉は、右側の方にだけ鍵穴がある。

差し込んで回せば、ほんの少し抵抗はあったが、ガッシャン、と音がして鍵が開いた。


「おじゃましまーす……」


中に入ると、とたんに涼しくなっている。

扉がガチャン、と閉まった。

足元の通路は中央部分が浅く掘られていて、そこを水が流れていた。


カイは、腰に付けるタイプのランプに火を灯した。


「おぉ。下水管、っていうよりは下水通路か。すごいな」

ランプの灯りに照らされた先には、壁も天井も床も石積みで作られた通路が続いていた。

なんとなく、前世で遊んだゲームのダンジョンのようである。


「この先にいるやつも、ダンジョンぽいっちゃあダンジョンぽいもんな」


ランプを腰に固定して、カイは歩き出した。


下水の地図は貰っているが、フィルター機構の向こう側へ行く予定はない。

フィルターからこちら側は一本道なので迷うこともないが、念のためと地図を渡されていた。


「生活魔法があるから、確かに上水道はいらないけど……。水洗トイレに下水って、やっぱり僕以外にも転生者がいたのかな」

ぽつりと零れた言葉は、通路に響いて消えていく。


若干蛇行する通路を歩いて行くと、フィルター機構の部分が見えてきた。

通路を完全に塞ぐそこには、石の壁と扉があった。

壁の最下部には金網の部分があり、そこから水が流れ出ている。


「この先は二重扉なんだっけ。それにしても、ここまでくるとさすがに少し匂うな」

眉を寄せながら、カイは一つ目の扉を開いた。


中は小部屋のようになっていて、やはり目の前には石積みの壁。

最下部には似たような金網部分があり、水が出てきている。


先ほどと違うのは、壁に向かって階段がついていて、扉が壁の上の方についていることだ。


「ふう。一応、大丈夫だとは聞いているけど……」

階段を上って扉の前に立ち、覚悟を決めたカイは鍵穴に鍵を差し込んだ。


ガチャリ、と開いた先には。


「うわ、こうなってるんだ。スライムっていうか、大量のクラゲみたいだな」


壁沿いに人用の通路があり、脇に深く掘り下げられた石造りの水槽が広がっている。

その水槽の中に、大量のスライムが浮いていた。

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