第46話 「カイってほんとにいい仕事するわね」
「どういたしまして。違和感などないですか?」
ものすごく喜んでもらえたようで、カイとしても嬉しい。
とはいえ、思い切り抱き着かれると、皮鎧が堅いので若干というかそこそこ痛い。
アウレリアは、抱き着いたまま何度かうなずき、それからパッと体を離してカイの目を見た。
紅い目が潤んで美しい。
「まったくない。むしろ、経年劣化のせいだと言われていた微妙な遅延がなくなっている!王都の魔道具修理師には『遅延が気になるなら買い替えを考えてくれ』と言われていたんだ」
右手をカイの肩に置いたまま、アウレリアは嬉しそうにゴーレム部位の左手を振って見せた。
小さなパーツを修理したからか、細かい錆を取ったからか、以前よりも動きが良くなったようだ。
だが、それにしてもアウレリアが喜び過ぎである。
「そうだったんですね。直せてよかったです」
そう言いながらちらりと目をやると、ヒルダが見たことのない表情をしていた。
耳がこちら側を向いていて、尻尾がピンと立ち、瞳孔が小さくなっている。
どうしたのかと思ったが、アウレリアはこちらを見ているので気づいていない。
「これは、買った当時でも旧型のものだった。それでもすごい値段でな。両親と、さすがにやめておこうかと話していたんだ。そうと知った妹が、腰まで伸ばしていた綺麗な金髪をギリギリまで切って売った」
「えっ」
ヒルダが思わず声を出し、カイも目を見開いた。
子どものころのことだと聞いていたので、妹さんも当然小さいときだろう。
カイは、孤児院で男女入り混じって一緒に育ってきた。
だから女の子にとって『綺麗な長い髪』というのが宝物だということはわかる。
「その決意を見て、両親はゴーレム部位の購入を決めた。もちろん、実際の値段に比べたら、髪を売った値段なんて微々たるものだ。でも、あのときの小さな妹の想いがこもったものだから」
そう言いながら、アウレリアはカイの肩から手を離し、ゴーレム部位の腕をそっと撫でた。
「前にお聞きした、いつも心配なさっている妹さんですね」
思い出したカイが言うと、アウレリアがうなずいた。
「ああ。むしろ妹は早く買い替えろと言っているんだがな。できればもう少しだけ、使いたいと思っていたんだ」
それを聞いたヒルダが、ぱたんぱたんと尻尾を振った。
「良かったですね!カイってほんとにいい仕事するわね」
前半はアウレリアに、後半はカイに向かって言ったヒルダは、いつもの楽しそうな笑顔だった。
「本当だな。かなり調子が良くなったぞ」
アウレリアは、腰に下げていた短剣を鞘ごと外し、左手でくるくると曲芸のように弄んだ。
「ほんの少しですが、故障していたところも一緒に修理したので」
「そうか……。カイ、ありがとう。年一回の調整では金貨十五枚ほどかかるんだが、同じでいいだろうか」
満足そうに、アウレリアが言った。
驚いたカイは、目を見開いた。
「金貨十五枚?!それは貰いすぎですよ!それに、年一回の調整って足の方も一緒にみるんですよね?」
「それはまあ、そうだな」
カイの言葉に、アウレリアがうなずいた。
「僕は腕だけで全部は確認していないですし、調整ではなく故障部分の修理しかしていません。半分でも多いです。三分の一程度が妥当だと思います」
それでも、かなりの金額である。
王都の魔道具修理師だって、同じような修理だけならその程度の金額になりそうなものだ。
「うーん……わかった。金貨十枚だ」
「なんで払う方が値をつり上げるんですか。王都の修理より安くなるのが当然だと思いますよ、僕は魔道具についてはほとんど知識がありませんから。金貨五枚です」
譲らないつもりで、カイは首を横に振った。
「じゃあ、中間点で金貨七枚だな」
「金貨六枚までです!」
思わずカイが言うと、アウレリアは笑みを浮かべてうなずいた。
「わかった。あと、この件は私からギルドに報告を上げてもいいか?カイなら大っぴらにはしたくないだろうが、魔道具を直せる職人は貴重なんだ」
アウレリアは、腰のポーチから財布を取り出した。
「報告はかまいません。ただ、『故障の修理』しかできないことをお伝えください」
「修理だけだな、わかった。じゃあ金貨六枚だ」
金貨を取り出したアウレリアが、カイに手渡した。
「ありがとうございます。それと、魔力消費が激しいです。貴族様がお持ちの大型の魔道具などを修理するなら、一週間以上かかると思います」
前から感じていたのだが、カイのスキルは部品数が多いほど魔力を消費するらしい。
ゴーレム部位はものすごい数の部品を使っていたから、今日はもうこれ以上仕事にならない。
カイが頬を掻きながら言うと、ヒルダが少し耳を下げ、心配そうに覗き込んだ。
「今は平気なの?魔力を使いきったらろくに動けなくなるっていうじゃない」
「うん、この後の日常生活分くらいは残ってる。ただ、きちんと修理する仕事は難しいかな」
うなずいたカイは、ヒルダに笑顔で返した。
そんなカイを、アウレリアは少し複雑な表情で見ていた。
◆◇◆◇◆◇
「おぅ、今日はアウレリアが来たのか。森の経路のことはもう通達しておいたぞ」
アウレリアが一人でツーレツト町のギルドを訪れると、ギルド長が出てきてそう言った。
少し細身のギルド長は、こう見えてかなりの肉体派である。
「グリフォンは、避けさえすれば何もしてこないからな。私が来たのは別件だ。奥で話せるか?」
「おうよ」
ギルドの個室は、普通の部屋と防音対策した部屋がある。
アウレリアは、防音部屋の方を指定した。
「どうした?珍しいな」
どさり、とソファに腰を落ち着けたギルド長は、向かいの席を顎で示した。
アウレリアは静かに座り、扉と窓が閉まっていることを確認してから口を開いた。
「ヴィーグ村に、修理のスキルを持つ奴がいる」
「ああ、聞いたぞ。なかなか面白い奴らしいじゃないか」
「そのカイなんだが……。こいつを修理した」
アウレリアが、ゴーレム部位の左腕を軽く上げた。
「は?」
ギルド長は、首だけを前に出して眉を寄せた。
人相が悪い。
「経年劣化と言われていた違和感もなくなった」
「はぁ?」
片眉を上げたギルド長が、前のめりになった。
どう見ても裏社会の輩のようである。
「カイは、普通の道具も魔道具も関係なく、壊れたものなら修理できるそうだ。ただ、魔道具の修理には魔力を大量に使うから、数はこなせないと言っていた」
思い出しながら、アウレリアは説明した。
「そういうスキルなのか……。そいつは、貴族の落としだねとかか?」
「いや、違うと思う。孤児院育ちだと言っていたし、茶色い髪に黄色っぽい目だ。貴族なら、青を持つだろう?」
一般的に、貴族は少し珍しいスキルを保有し、青い目や青っぽい髪を持つ。
ギルド長は納得しかねるように首をかしげながらうなずいた。
「確定ではないがな。まあそうそう貴族が孤児院で育つこともないし、たまたま珍しいスキルが出たんだろう」
「それで、一応魔道具の修理ができる者がヴィーグ村にいる、ということを報告しにきたんだ」
冒険者ギルドでは、珍しいスキルを持つ者が住む場所について報告することが推奨されている。
万が一のときに協力を願ったり、国との連携でも必要になるからだ。
「わかった。しかし魔道具修理となると、さすがに領主に報告せにゃならんぞ」
ギルド長は、目を細めて腕を組んだ。
「やはりそうなるか。まあ、一応カイは冒険者だから、何かあればギルドで保護してやってくれ」
「冒険者なのか?そうか……なら逆に、きちんとそのあたりも報告しておこう。冒険者なら、ギルドが盾になれるからな」
大きくうなずいたギルド長に、アウレリアは小さく微笑んだ。
「ギルド長ならそう言ってくれると思っていた」
「ったく。そう思うならきちんと敬えよ!」
ため息を吐いたギルド長は、しかしまんざらでもなさそうな表情であった。
◆◇◆◇◆◇
ツーレツト町から海沿いに西へ向かったところにある大きな港町。
他国との貿易も行っているその町は、この辺境伯の領都である。
辺境伯領都の海岸近くにある大きな建物の中、一番豪華な執務室にいる金髪に碧眼の男性が、ツーレツト町のギルド長から受け取った手紙を見てうなずいた。
「魔道具の修理ができる、と。なるほど、なるほど。……ヴィーグ村だな。覚えておこう」




