第45話 「『故障品再生』。……うわ、これはすごい」
「今日も同じようなものだった。グリフォンは二体だけいて、荷馬車を完全に巣にしていた。近づいたら威嚇してくるが、距離があればそれだけだ。奴らのおかげで、あの辺りにはほかの魔物が見当たらない」
数日後の夕方、カイはアウレリアと商店で会って話を聞いた。
カイが同行したのは初日だけで、あとはバンガードのメンバーが交代で毎日確認に行っていたのだ。
「ほかの魔物は、こっちには来てないんですか?」
ヒルダがパンなどをまとめて渡しながら聞いた。
「ああ。荷馬車は魔物の森と川の中間あたりにある。カイが作った崖もあって、森の魔物が街道の方へ抜けて出てくるルートを潰している」
籠に商品を入れながら、アウレリアがうなずいた。
「それじゃあ、冒険者の方が魔物のいる森へ行く場合が少し気になりますね」
カイは地図を思い出しながら言った。
「街道周辺とは違う魔物が出るから、ツーレツト町のギルドでは依頼があるらしいな。だが、ギルドに迂回路を通達しておけば問題ないだろう。あちらからならそこまで遠回りでもない」
一瞬考えたアウレリアは、肩をすくめた。
魔物の毛皮や角などの素材は、上級者層に一定の人気がある。
これからも、冒険者への依頼が続くだろう。
「ギルドへの連絡は、バンガードの皆さんが行う形ですか?」
カイは小麦粉の小袋を手に取って言った。
「ああ、もうライナーたちがツーレツト町へ行った。まあ上級冒険者からの知らせだから、すぐ周知されるはずだ」
そう言いながら、アウレリアはゴーレム部位の左手首をくるりと回した。
「村としては、悪いことではないんですよね?」
ヒルダが、少し心配そうに聞いてきた。
耳が少し下がり、尻尾も力がない。
アウレリアは、にっこりと笑顔を向けてヒルダに料金を手渡した。
「むしろ、良い方に変わると思うぞ。カイが作った壁と、グリフォンの両方がうまく作用して、魔物がこちらに来る機会が減りそうだ」
くき、と、アウレリアの左手首から小さな音が鳴った。
「そうなんですね!良かったぁ」
ヒルダは貨幣を両手で握り、耳をピンと立てた。
「もう少し確認すれば、子どもたちが川で遊ぶのも問題なくなるはずだ」
そんなヒルダの様子を、アウレリアは楽しそうに見ている。
笑顔で言い合う二人を、カイはじっと見ていた。
アウレリアによると、詳しいことはまとめてデニスから村の住民に説明がある予定だという。
領主への報告も併せて行うので、これで一通り今回の問題は解決となる。
「それじゃあ、アウレリアさんたちはもう帰っちゃうんですね……」
ヒルダがまた耳を伏せて尻尾を下げた。
苦笑したアウレリアは、肩をすくめた。
「ちょっと王都に帰る用事もあるからな」
「やっぱり、ゴーレム部位の不具合ですか?」
カイが聞くと、アウレリアはぱちりと瞬きをした。
「わかったのか?まあ、そういうことだ。この間グリフォンとやり合ったときに、少し傷めてしまったらしくてな」
アウレリアは、左手を軽く上げて手首をくるりと動かした。
ぱき、と小さく音が鳴った。
「ゴーレム部位って魔道具ですもんね。やっぱり専門の魔道具師でないと調整も修理もできないんでしょうね」
眉と耳と尻尾を下げたヒルダは、心配そうに続けた。
「アウレリアさんは冒険者ですし、商売道具だからちゃんと直しておかないと」
うんうん、とうなずいていたカイは、ふと首をかしげた。
「そっか、故障……なら、修理できるかもしれません」
「え?」
「へ?」
ヒルダとアウレリアは、似たような表情でカイを見た。
そもそも、カイのスキルは『故障品再生』である。
スキルには、日用品だけという限定条件などはない。
ということは、魔道具でも同じように修理できる可能性がある。
「さすがに、ゴーレム部位に使っている希少な素材が欠けてなくなった場合にはどうしようもないです。部品が欠けていないなら、直せると思います」
魔道具をスキルで見るのは初めてだが、それは問題ない。
カイのスキルなら、完成に向けた修理方法も勝手にわかるのだ。
「カイ、直せなかった場合はどうなるんだ?」
腕を組んだアウレリアが、考えながら聞いた。
「直せるかどうか、スキルで見ればわかりますよ。というか、直せないならスキルが発動しません」
「なるほど、失敗して壊すということもないのか」
アウレリアは、組んだ手を見下ろした。
「なら、一回やってみてもいいかも。カイに直してもらえたらラッキーですよね!」
ぴょこり、と尻尾を左右に振ったヒルダが、嬉しそうに笑った。
「そうだな。一度見てもらえるか?」
「はい、もちろん」
カイが大きくうなずくと、ヒルダが一歩引いた。
「店先でっていうのもなんだし、奥にどうぞ。あっちにベンチがあるから」
店の奥には、ヤーコブや常連客が良く休憩しているベンチがあった。
今は、誰もいない。
「ありがとう。それじゃあ、ちょっと借りるよ」
「すまん」
カイがお礼を言い、アウレリアが軽く頭を下げると、ヒルダはパッと両手を開いて見せた。
「場所をちょっと貸すくらい、気にしないでください。わたし、カイがスキルを使っているところを見るのが好きですし!」
地味なスキル発動だが、ヒルダは気に入っているらしい。
「なら、好きなだけ見てよ。ただ今回は、多分ゴーレム部位の内部を直すから、見てても何もわからないかもしれないけど」
アウレリアが座った横に腰を下ろしたカイは、黒い目を期待に染めたヒルダに言った。
「いいのいいの!それはそれで面白いから」
ヒルダは、パタパタと尻尾を振った。
「わかった」
うなずくカイの横で、アウレリアがヒルダを微笑ましく見ていた。
「それじゃあ、スキルを発動してゴーレム部位を見ますね」
「ああ、頼む」
カイは、一つ息を吐いてからスキルを起動した。
「『故障品再生』。……うわ、これはすごい」
カイの目の前に、ゴーレム部位の内部構造が立体映像として浮かび上がった。
機械式の時計の内部のように、小さくて精密な加工が施されたパーツをいくつも組み合わせることで、義手とは思えない滑らかで自然な動きを再現しているらしい。
そして表面の部品は内部に比べて新しいので、多分体の成長に合わせて付け替えたのだろう。
「奥の宝石が、ゴーレム部位の核ですね」
ゴーレム部位の奥の方に、宝石のような透明な石がはめ込まれていて、そこに魔力が溜められているのがわかった。
その核に、魔道具付与師が魔法を付与したのだろう。
『魔道具付与師』はそれこそ国に保護されるレベルのスキルで、この国では王都にしかいないらしい。
そのほかに、『魔道具修理師』『魔道具鑑定師』なんていう専門職もいると聞いたことがある。
いずれにしても、辺境伯領のヴィーグ村のようなところではまずお目にかかることのない特殊職だ。
「どうだ、直せそうか?」
左腕を動かさないよう右手で支えたままじっとしていたアウレリアが、食い入るように空中を見つめるカイに聞いた。
「あっ!すみません。あまりに精巧で思わず見入っていました。故障個所を確認しますね。手首のあたりの動きがおかしいんですよね」
アウレリアは、思わずくすっと笑った。
「ああ」
カイは、慌てて手首のあたりの映像を拡大した。
細かい歯車やワイヤーが組み合わされたゴーレム部位の中身を順番に確認していくと、明らかに正常でない場所が見つかった。
「ワイヤーが折れて、かろうじて引っかかってるけど取れそうになっていますね。正常な状態は……ワイヤーが二本?」
カイは、眉を寄せた。
強度のためか予備なのか、元々は二本のワイヤーがあるはずの所が取れかけた一本しか見当たらない。
「無理そうか?」
アウレリアが心配そうに聞いた。
「少し待ってくださいね。この設計なら、ワイヤーが取れても外に出る可能性は低いので……。あ、こっちにあります」
くの字に曲がったワイヤーが、別の部品の隙間にピタリとはまりこんでいた。
元の状態に戻すには、ワイヤーをまっすぐに伸ばして正しい位置に引っかければいい。
「直します」
カイはスキルでワイヤーを直し、そのまま立体構造を無視して元の場所に設置した。
ついでに、少しずれている歯車の位置を調整し、小さなばねが伸びていたので巻きなおして、関節部分のカバーが曲がって少し浮いているのを戻した。
いつも思うのだが、物理法則を無視して修理できるのはスキルならではである。
「あ」
修理が終わった瞬間、アウレリアがぱちくりと瞬きをした。
「終わりました」
全体を確認して細かい錆を取ってからスキルを切ったカイは、ほう、とため息を吐いた。
くるくると手首を回し、ゴーレム部位の手を握ったり開いたり、右の手のひらを拳で叩いたり、アウレリアは動きを確認した。
そして顔を上げ、輝かんばかりの笑顔をカイに向けた。
「ありがとう!!」
「うわっ」
がばっと抱き着かれ、カイは慌てて腹筋に力を入れ両手をアウレリアに回して受け止めた。




