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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第34話 「いつもの布陣だ!」

カイが息を詰めて見守る前で、向こう側の木の陰からライナーが飛び出してきた。

そして、その数メートル後ろからレッドベアが現れた。


体長は、目測だが六メートルほど。

かなり大きな個体だ。


ひょい、とライナーが手を振ると、レッドベアの足元に突然穴が開いた。

勢いづいていて止まれないレッドベアは、穴に足を取られて腹を地につけた。


その隙に、ライナーはエーミールの盾の向こう側に逃げおおせた。


「いつもの布陣だ!」

「おう!」

「ええ!」

「わかった!」


ライナーのかけ声に、三人が応える。


体勢を整えたレッドベアは、向かって右側に立つフィーネの所へ突っ込もうと走ってきた。

対するフィーネは、あえて半歩ほど盾の影から出てみせた。


「っ!」


カイは、思わず息を呑んだ。

それとほぼ同時に、エーミールが盾を支えていない右腕を数回振った。


『グゥォォオオ!』

すると、レッドベアが突然立ち止まり、頭を左右に振った。


「……?あ、投げナイフ?いや、針みたいなやつか」

よく見ると、レッドベアの右目や鼻に、長い針のようなモノが刺さっていた。

エーミールは、さらに腕を振った。


『グァォオオ!!』

何度もの針に顔を刺されたレッドベアは、標的をエーミールに変えた。


土煙を上げながら、巨大なレッドベアが突進してくる。


「ふんぬ!!」

どぉおおおおん!


スキル起動と同時に風で砂を舞い上がらせたエーミールが、走ってきたレッドベアを大きな盾で受け止めた。


地面に突き立てた盾も、踏ん張った両足も、レッドベアがぶつかった衝撃で地面を抉っている。

それでも、エーミールは真っすぐに立っていた。


「炎の楔!」

「はっ!」

フィーネが呪文を叫ぶと、彼女を赤い光が包み込む。

そしてアウレリアが、宙を舞った。


炎の釘のようなものが、レッドベアの四肢を地面に縫い付けた。

その真上から、巨大なハルバードを掲げたアウレリアが迫った。


レッドベアは、暴れようとしても動けない。

「かち割りっ!!!」


アウレリアがハルバードを振り下ろすと同時に、刃先から光がほとばしり、生々しい音が響いた。

そのままレッドベアの肩を蹴ったアウレリアは、少し離れた位置に降り立った。


レッドベアの頭がボトリと落ち、巨大な身体がずしんと音を立てて倒れ伏した。


息を詰めていたカイは、思わず深い息を吐いた。

体の奥に留まっていた緊張が、口から漏れ出ていくような感じがする。



気を緩めたカイが、そこを見たのはたまたまだ。


「ぁっ」

カイが声をあげる前に、自分が避難している柱のそばを赤い魔物がすり抜けた。


「も、もう一体!!」

無理やりひねり出した大声で叫んだときには、もうレッドベアはライナーの背後に迫っていた。

喉が痛い。


鋭い爪を持つ腕を振り上げたレッドベアは、間髪を入れずに思い切り腕を振りぬいた。

『グゴッ!』

「おっと」


それを紙一重で体をひねりながら跳んで避けたライナーは、レッドベアの顔面に向けてナイフを投げた。

しかし、レッドベアはそのナイフを避けた。


「炎の罠!」

レッドベアが避けた先に、フィーネが炎の渦を作りだした。


『ゴガァッ!』

頭の毛に炎が移ったレッドベアは、地面に転がった。


その隙にアウレリアが駆け寄る。

「切り裂き!」

軽く跳んだアウレリアは、レッドベアの首をざくりと刈り取った。




「もう大丈夫だ!」

しばらくその場で待機し、様子を探っていたライナーがナイフを腰に収めた。

エーミールは盾を地面から抜き取り、フィーネが杖をしまった。


アウレリアだけは、ハルバードを左手で持ったままである。

彼女のゴーレム部位が、うっすらと光をまとっているのが見えた。


アウレリアとライナーが見張る中で、フィーネとエーミールがレッドベアの解体を始めた。

土魔法で作りだした巨大な柱を地面に戻したカイは、彼らの元へと小走りで向かった。


「お疲れ様です。解体、手伝います」

「ああ。カイは、レッドベアを解体できるのか?」


エーミールがナイフを動かしながら聞いたので、カイはうなずいた。

「はい。孤児院で魔物の解体は一通り仕込まれました。冒険者にならなくても、技術は無駄にならないからと」

ナイフを出しながらカイは答えた。


「へえ、そこまでしてくれる孤児院なんてめったにないわね」

フィーネもサクサクと解体を進めている。


「文字や計算の教育も受けました。町が裕福だったので、孤児院の教育も手厚かったんですよ」

「そうだったのか」

アウレリアが感心したように言った。


「おかげで、冒険者になってすぐの生活費は解体場でなんとかなりました」

単発のアルバイトのようなものだったが、単価が良いわりにやりたがる人も少ないので本当に助かった。

旅の間も、貴重な収入源だった。


「ああ、解体もギルドでやってるからな」

ライナーがゆっくりと周りを見ながらうなずいた。


「下級冒険者には、少しだけ色をつけるものね」

「一種の救済みたいなもんだって聞いたことがある」

さくさくと毛皮を剥ぎ取りながら、フィーネとエーミールがうなずいた。


カイもそれは聞いたことがある。

ギルドが下級向けに補助金を出している依頼はほかにもあった。

「薪集めとか木の実採取なんかは、都会では特に重宝されていますし」

需要も当然関係するが、カイが思ったよりは割の良い仕事だった。


「ちゃんと後進を育てないと、魔物があふれるからな」

アウレリアが、遠くを見ながら言った。

確かに、教育という側面もあるのだろう。


魔物狩りに関しては、ギルドではなく領地や国から補助金が出ているらしいので、そもそも単価が高い。

しかし、危険度と難易度が高いので、なり手が少ない。


「誰だって、安全な方がいいからな」

エーミールはそう言いながら、骨を断ち切った。


「ウチは、冒険者の儲け方を知っちゃったからもう抜けられないわぁ」

フィーネが肩をすくめた。


それに、ライナーとエーミールがうなずき、アウレリアは口元を引き上げた。





解体が終わると、不要な部位はすべて土に埋めた。

埋める穴も、カイがさくっと作った。


毛皮と爪、牙だけでも持ち帰るには多い。

どうにかまとめたが、全員が何かを背負っている状態だ。


このままでは戦えないということで、明日からつくる崖の位置だけを確認して帰ることになった。


「このあたりだ」

ライナーが周りを見ながら言った。

カイには、目印があるのかどうかすらわからない。


「今立っている場所から、南西の方に向かって段差というか、崖を作る感じですね」

跳び越えるのが難しいと思えるような、迂回を選択せざるを得ない壁を作る。


「ああ。このまま南西向きに沿って誘導して、南側にある丘の西側へ向かわせる」

「ちょっと待て。ここだと北に回って村の方に行ってしまう可能性があるぞ。もう少し北側から作った方がいいんじゃないか?」

ライナーが説明しているところに、アウレリアが口を挟んだ。


確かに、魔物がどういう方向に動くかわからないが、誘導にひっかかってもらわないと困る。


「そうなんだが……」

ライナーが困ったように眉を寄せた。


「予算の関係?」

フィーネが聞くと、ライナーは首を横に振った。

「いや、作業者をあまり長い間森にいさせるのも酷だという話だったんだ。だが、カイなら特に問題はないか?」


ライナーたちの視線を受けたカイは、こくりとうなずいた。

「もう少し一日の対応時間を増やしても大丈夫です。それに、何日かに分けて大きなものを作ることになっても問題ありませんよ」


カイの答えを聞いて、ライナーは破顔した。

フィーネは納得したように首を縦に振り、エーミールは感心したようにカイを見た。


「カイらしいな」

アウレリアは、カイに一歩近づいた。

思ったよりも近い。


「褒めても何も出ませんよ。とにかく、そのあたりはデニスさんに相談して決めましょうか」

なんとなく照れ臭くなったカイは、崖を作る予定の場所をきょろきょろと見回した。


魔物が存在する森の色彩は一段階暗いにも関わらず、カイには色鮮やかに見えた。

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