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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第31話 「悪いと思ってないでしょ」

次の日、ゆっくりと家で休んだカイは、いつもよりかなりのんびりと家を出た。


村の大通りを抜けて役場を目指していると、気配を感じたのでさっと身体を右に向けた。

「カイ!ブラックウォルフに会ったって本当?!大丈夫だったの?!」


ヒルダがタックルしてきたのを、どうにか抱き留められた。

少しはカイも成長しているようだ。


「おはよう、ヒルダ。大丈夫だよ。ピンピンしてる」

カイが両手を広げて見せると、ヒルダはへにょりと耳を下げた。


「良かったぁ。オスカーも無事だったって聞いてはいたけど、でもブラックウォルフだよ?ヤバいじゃない」

一歩下がったヒルダは、改めてカイを上から下まで見た。


「魔法で身を守れたから、大丈夫」

心配されて何となく面映ゆい気持ちになりつつ、カイはそう言った。

目でもカイの無事を確認してから、ヒルダは頬を膨らませた。


「それも、今朝になって聞いたんだけど!友だちがピンチだったってほかの人に聞かされたのよ。しかも、わたしも知らない魔法で乗り越えたなんて」

「え、ごめん?すぐ助けに来てもらえたし、ケガもなかったもんだから」


カイが謝ると、下唇を突き出したヒルダは、こちらを睨み上げた。


「悪いと思ってないでしょ」

耳も尻尾もピンと立っていて、こういうときに言うのはなんだが可愛らしい。


「ヒルダが気分を害したことは悪かったと思ってるよ。ただ、それが僕にはわからなかったからどうしようもなかったっていうか」

慌てて言ったカイに、ヒルダはジト目を向けた。


「ピンチは仕方ないってわかってるわ。でもカイの魔法を知らなかったことが嫌だったの!」

「本当にごめん。あ、そうだ。今度、色々ちゃんと話そう?僕の話もするし、ヒルダの話も聞きたいから」


自分の友人の話を、ほかの人から初めて聞かされるのがいい気分ではないことは、カイにもなんとなくわかる。

だったら、先に情報交換をしておけばいいのだ。


カイが提案すると、ヒルダはパッと笑顔になった。

尻尾もパタパタと揺れている。

「本当?絶対よ。カイの話を誰かから聞いて知るなんて、すっごく嫌だったんだからね」

「うん。そんなに大した話はないと思うんだけど」


カイの言葉を聞いて、ヒルダは腰に手を当てた。

「大したことも、大してないことも、色々聞きたいの!」


自分に興味を持ってくるのは、やはり嬉しいことだ。

カイは、しっかりとうなずいた。

「うん。話すよ。ヒルダも、僕に教えてくれる?」

「もちろんよ!」


笑顔になったヒルダは、尻尾と手を振ってカイを見送ってくれた。




役場に着くと、アウレリアはもう来ていた。

そのほかに、デニスはもちろん、ジーモンとリーヌスも待っていた。


「お待たせしました」

カイが焦ってそう言うと、デニスはソファを示した。


「時間ちょうどだ。まずは報告のまとめだな」

ソファで囲んだテーブルには、村周辺の地図を描いた紙が置いてあった。


木で作られた駒のようなものがいくつかあり、南の森の中にいくつか並べられている。


「このあたりが最近薪を拾いに行く場所だ。アウレリアさんに確認したんだが、ブラックウォルフが出た場所は間違いなさそうか?」

地図には丸で囲んだ場所があり、駒が少し村寄りの所に置いてあった。


「そうですね、ここが以前薪拾いの場所として案内してもらったところなら、おおよそ合っています」

カイが同意すると、デニスは一つうなずいた。


「よし、わかった。で、こいつらの移動経路は」

「それは私が説明しよう。森を越えたブラックウォルフは、このあたりで川を越えたらしい。少し川幅は広いが、その分浅いから歩けたようだ」

アウレリアが、地図を指さした。


それは果樹園に近いあたりである。

同時に、子どもたちがよく遊ぶ場所だ。


「そこから果樹園の方へ?」

リーヌスが聞いた。

「いや、まずは上流方面へ向かったようだ。そこで、川から果樹園へ水を引いている水路に当たった」

アウレリアは、少し上流で川から分岐させている水路の上に、茶色の駒を置いた。


続けて、アウレリアが駒を果樹園の方へ動かした。

「ブラックウォルフたちは、水路を走ったらしい。方向としては魔獣がいる森から離れる。それで、果樹園に侵入した」


かつん、と果樹園のところで駒が止められた。


「そこで水門を壊したわけか」

ジーモンが言うと、アウレリアはうなずいた。


「そうだ。水門を壊しながら進んだブラックウォルフは、人の集落から離れるためにもう一度方向転換した」

茶色の駒は南の森に入ったところで、方向を変えて真南に移動した。


「そいつらが、こちらに戻ってきたんですな」

うなずいたデニスが地図を見下ろしながら言った。


「ああ。この森はあまり広くないから、獲物が少なくなったんだろう」

コンコン、と駒で森のあたりを叩いたアウレリアは、南の森の中心あたりに駒を置いた。


「昨日は、このあたりまで討伐しながら追い払った。だが、魔物はすぐに繁殖するから安心はできない」

「それで、流入してくるものを減らすのが重要と。南の森から村へやって来る奴らをけん制しつつ、侵入経路を断つ」

地図上の川沿いに黒い線を引いたデニスが、腕を組んで一つ息を吐いた。

カイは口を挟む必要がなさそうなので、ただ静かにうなずいた。


「工事には何日くらいかかって、南の森での討伐はどれくらいの頻度が良さそうですか?」

デニスが聞くと、アウレリアが箱から白い駒を取り出した。


「それなんだが、南の森での討伐にはほかの冒険者を呼びたい。私たちだけでは手が足りない」

白い駒を南の森に置いたアウレリアは、黒い駒を五つ、魔獣が出る森の方へ置いた。


「私たちは、カイを連れて魔獣の森で段差を作る。長さはできれば二百……余裕を持つなら三百メートルか。カイ、高さ四メートルの崖ならどれくらい作れる?」

聞かれたカイは、少し考えてからうなずいた。


「四メートルの段差を土を掘って作りながらだと、魔力がもたないので一日で二百メートルほどが限界ですね」

土を魔法で作りだすのでないなら、それくらいだ。

魔法で土を作って整える場合はもっと短い。


「そんなにか……。わかった。それなら村長、今日のうちにツーレツトのギルドに依頼を出そう」

「ああ、カイは別のスキルもあったのか?冒険者ギルドへの依頼は、南の森のブラックウォルフの討伐ですな。何体くらいがいいんでしょうか」

話を聞いていたジーモンとリーヌスが、感心したようにカイを見た。

妙な方向に納得したデニスが次の話を始めてしまったので、カイはスキルではないと訂正することができなかった。


「そうだな。具体的に何体いるかまだわからないんだ。期間はとりあえず三日で延長の可能性もあり、一体討伐で銀貨二枚、討伐数の上限はなし、としよう」

アウレリアが提案すると、デニスは慌てて両手を振った。

「待ってくれ。数体ならともかく、そんな財源は村にはありませんよ」


「そこは領主が出す。受注のときに約束したんだ、私たちが必要と判断するなら追加の依頼を領主発注にしていいとな」

うんうん、とうなずいたアウレリアは、にっと笑った。


ほっとしたデニスは、軽く頭を下げた。

「それなら……。本当に助かります。領主様には、おれからも改めてお礼の手紙を書いておきますよ」


「それでいいと思う。ここのワインは領主も気に入っているらしいからな。当然の出資だ」

アウレリアは、執務室に飾ってあったワインの瓶をゴーレム部位の左手で指さした。


「その果樹園を守るためでもあるしな」

ジーモンが自慢げに胸を張ると、リーヌスも隣でうなずいた。


「ありがたいことです。これからリーヌスとジーモンは、村側の対応を中心にしてもらう。バンガードの皆さんとカイは、明日から魔物のいる森へ?」

デニスは、机の上に置いた地図を見ながら言った。


「いや、討伐を依頼した冒険者が来てからにする。魔物のいる森で我々が活動することで、ブラックウォルフが妙な動きをすると困る」

そう言いながら、アウレリアも地図を見下ろした。


自分の働きが、村を守る一手となる。


そう自覚したカイは、思わず両手を握りしめた。

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