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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第30話 「じゃあ、また明日」

「そうか。見つかって良かった……。本当に、ありがとう」

安堵から深いため息をついたデニスが、報告したカイとアウレリアに頭を下げた。

捜索本部に待機していた人たちも、ほっとして笑顔を見せていた。



経緯を説明すると、デニスは眉を寄せた。

「まさか、ブラックウォルフが……。間一髪だったな。カイ、アウレリアさん、本当に助かった」

「いいえ。アウレリアさんたちが来てくれるとわかっていましたし」


カイがそう言うと、アウレリアは肩をすくめた。

「私たちにとっては負担でもなんでもない」

しかし、その耳がほんのりピンク色に染まったことに、カイは気づいた。


「それで、ブラックウォルフが出たのはどのあたりだ?奥の方か?」

デニスが聞いたので、カイは彼の目を見て首を横に振った。

「いつも薪拾いに行くあたりの、むしろ村側です。オスカーを追ってきたらしいですが、何体かの群れだったと思います」


カイの言葉にアウレリアが続けた。

「群れで言うなら三つほどだ。私たちが討伐して追い払ったが、あいつらは味を占めたら諦めないからな。あれで終わり、というわけにはいかない」


それを聞いたデニスはうなずいた。

「危険が残るからな。だとすると、ブラックウォルフの討伐を追加で依頼するしかないか」


「それなんだが、単純に討伐するだけでは対処しきれない可能性がある」

デニスの言葉に、アウレリアが待ったをかけた。


「どういうことだ?」

聞かれたアウレリアは、壁に掛けられた村周辺の地図を指さした。


「川向こうの森まで行って調査したが、原因がはっきりしない。それでもブラックウォルフが出てきているのは間違いなかった。このままでは、早晩村までやって来るだろう」

「討伐だと、対症療法にしかならないということか」

デニスは、腕を組んでため息をついた。


「そういうことだ。依頼も継続しないといけないだろう。だから私たちが話し合っていたのは、ブラックウォルフの通り道を作って、森のもっと奥の方へ誘導する方法だ」

それだと、先延ばしするだけで結局村の方へ来てしまいそうだ。

「奥の方?」

カイが思わず聞くと、アウレリアは地図に近づいた。


「正確には、村の南の森ではなく、川向こうの丘からさらに向こう側の森の方だ。あちらなら、村から離れるから安心だ」

アウレリアが示したのは、魔獣のいる森の南側にある小さな山を西側に抜けるルートだ。

そちらは、魔獣が出る範囲から外になるが、森が続いている。

村は、魔獣の森から見て南東側にある川を越えたところなので、確かにそちらに抜けさせれば村の方へは来ないだろう。


「それができれば……。そうか、バンガードの四人に手伝ってもらえれば、村の奴らが道を作ることもできるか」

デニスがそう言うと、アウレリアはうなずいた。

「ああ。道というより、飛び越えるのが面倒な段差で充分だ」


つまり、走ってくるブラックウォルフのルートを曲げるということだろう。

「そうか、土魔法で段差を作ってしまえば」

壁よりは段差の方が、壊れにくいだろう。


アウレリアが同意したので、カイの考えは合っていたらしい。

「そうだ。私たちも対応するが、カイの助けが必要だ」

「え、僕がですか?もちろん手伝いますが」


突然言われたカイは驚いた。

とはいえ、魔獣が出る森の方へ行くなら、確かに村の人よりも一応冒険者なカイの方が安心だろう。


「カイなら、冒険者の資格を持っているからな」

デニスも同じように考えたのだろう。


しかし、アウレリアがそう言った理由は違ったらしい。

「冒険者だったのか?まあいい、それは関係ない。カイが必要なのは、あのでたらめな土魔法を使ってもらいたいからだ」

「でたらめって」


カイは苦笑し、デニスは首をかしげた。



ちょうどそこへ、エーミールたちが帰ってきた。

「探索班は全員引き上げてきたぞ」

「誰も怪我無し!エーミールたちも数体見かけたブラックウォルフを討伐してきたって」

エーミールとフィーネに続き、ライナーも執務室に足を踏み入れた。


「戻った。村長、アウレリアたちから話は聞いたか?」

話しかけられたデニスは、ライナーたちに向き合った。


「ライナーさん、本当に助かったよ。ほかの奴らはもう家に戻ったか?」

「ああ。報告はおれたちがするからって帰ってもらった」

ライナーはそう言って、ソファにどさりと腰かけた。

フィーネたちもそちらに向かったので、全員が応接スペースの方へ集まった。



捜索隊はもう解散し、室内にはデニスとカイ、そしてバンガードの四人だけ。

集まった人たちを前にして、アウレリアは口を開いた。


「カイに協力を要請したところだ。あの土魔法なら、一気に仕上げられるだろう」

うん、とうなずくアウレリアの中では、カイの魔法は一体全体どういう扱いになっているのか。


「そうだな……。手続きが面倒だが、それしかないか」

「カイは、冒険者ギルドに所属しているらしいぞ」

ライナーに向かってアウレリアが言うと、彼はカイの方へグリンと顔を向けた。

ちょっと怖い。


「本当か?!カイ、ギルド証を持ってるのか!」

「え、ええ。万年下級ですが」


冒険者ギルドに入ると、キーホルダーのような小さなタグをギルド証として受け取る。

情報を管理できるスキルがあり、タグと個人を結び付けて人員を管理しているのだ。

そのスキルがあると、就職に困らないと聞いたことがある。


「それなら話が早い。冒険者なら後から依頼を受けたって手続きできるからな。いやぁ、助かる」

どういうことかわからずにいるカイに、アウレリアが説明した。


「冒険者の仕事を素人が手伝う場合には、手続きがちょっと面倒なんだ。道案内くらいならともかく、今回の依頼では重要な部分だから余計にな」

「ああ、そういえば……」


報酬を伴う仕事をしているので、ギルド員以外に手伝ってもらった場合は、手続きをして報酬を分けるといった作業が必要になる。

それをしないですべて冒険者が報酬を受け取ると、罰金刑になるらしい。

労働搾取の防止なのだろう。


「いずれにしても、もう夜も遅い。方向としては、誘導路はカイが手伝う。ほかの奴らも参加するかどうか、どのあたりにどう誘導路を敷くかはまた明日にしよう」

デニスが言うと、ライナーを含めたバンガードの全員がうなずいた。

カイとしても、疲れていたので帰れるのは助かる。


「わかった。明日は、朝からおれとフィーネで森の調査に行く。こちらの方針はアウレリアが代表して伝える。エーミールは南の森を少し見ておく予定だ」

ライナーがそう言うと、全員が納得したようにうなずいた。


とにかく、オスカーのことは一件落着である。



「じゃあ、また明日」

そろそろ時間的には夕飯にも遅い。

ライナーがソファから立ち、出口に向かった。

アウレリアたちも、彼に続いて執務室を出た。


「ああ、明日も頼む」

デニスは彼らを見送り、部屋を片付け始めた。


「明日、カイもここに来てくれよ」

カイが帰ろうとすると、デニスが声をかけてきた。

「はい。朝からでいいですか?」


「ああ、そうだな。十時くらいでいいぞ」

「わかりました」


カイはうなずき、執務室を出た。


次は、ブラックウォルフの対策だ。

カイの目指すスローライフのためにも、きちんと脅威を遠ざけておきたい。


この世界で、魔物の排除は難しい。

人は、上手く魔物を遠ざけて生きるのだ。



役場の外に出ると、家の明かりがぽつぽつと見えた。

カイも自分の家に帰るため、腰に下げたままだったランタンに火をつけた。

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