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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

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第25話 「ほんとだ、修理屋さんだー」

カイは、まずは村の西側にある柵の所へやってきた。

大人の背丈ほどある柵が手前にあり、もう少し川の方へ行ったところに腰の高さの柵もある。

二重に配置しているらしい。


今回修理するのは、背の高い方の柵だ。


見てみると、ところどころ板が割れたり外れたりしていて、人が通り抜けられるほどの隙間も空いている。

村の川に近いところを弧を描くようにして囲んでいるので、かなりの長さだ。


「これの修理かぁ。結構時間がかかりそう、かな?」

あまりに大きいと、カイのスキルで一度に直すことはできない。

少しずつ範囲を指定して修理していくのだ。


柵の近くの広場には大きな角材がいくつも積み上げてあった。

「村で保管してたやつだから、自由に使っていいってデニスさんが言ってくれてたけど」


カイは木材の山と、壊れた柵を見比べた。

「さすがに、こんなには使わないかな。まあ、余ったら返せばいいか」


うなずいたカイは、仕事を始めるべく、腕まくりをした。




まずは全体の把握である。

スキルを使うのはその後だ。


歩いて柵全体を確認していると、小学生くらいの子どもたちが寄ってきた。

「修理屋だ!」

「ほんとだ、修理屋さんだー」


わらわらと寄ってきたのは五人くらいだろうか。

その向こうには、もう少し大きい子たちの姿も見える。


「こんにちは」

カイが挨拶すると、子どもたちは口々に言いだした。


「ねえねえ、この柵直しちゃうの?」

「川に行っちゃいけないんだってー」

「魔物が出るって本当?」

「修理屋さん、これで遊ぶの?」


以前あいさつしたときには子どもたちが走って通り過ぎただけだったが、今は違うようだ。

遊びに行けないので、ほとんど知らないカイをターゲットにしたのだろう。


「うん。川の向こうの方にある魔物がいる森が少し気になるから、今のうちに柵を直すんだ。遊ぶのはまた今度な」

カイがそう言うと、ほとんどの子は納得したが、一人は口を尖らせた。


「つまんない。こっちでも遊べるけど、村の外に出ちゃいけないから、すぐ飽きるし」

「普段は、どういう遊びをしてるんだ?」

遊具の参考にしようと考えたカイは、子どもたちに聞いた。


「いつもだったら、川で石を飛ばすんだ!」

「水の上を跳ねるんだよ」

なるほど、水切りが流行っているらしい。


「ぼくは水の中に葉っぱを流すやつが好き」

「木登り!」

「木登り好き!たまに甘い実を見つけられるんだ」

聞いてみると、割と個人が何かをする遊びを、数人で順番にすることが多いようだ。


「順番抜かしされることもあるけどね」

「いっぺんにやったら危ないって怒られるよね」

「だからって抜かすのはだめなんだよ」

「だってあのときは空いてたもん!」


喧嘩に発展しそうになったのに気づいたカイは、子どもたちに聞いた。

「あー。じゃあ、順番を決められるじゃんけんは知らないか?」

「じゃん?」

「何それ」

「けんけん!」


子どもたちが食いついたので、内心ほっとしながらカイは手を前に出した。

「これがグー、石だ。これはパー、紙か布。これがチョキで、鋏。鋏は知ってるよな?」

「知ってる!お母さんが、糸を切ったりするのに使うって」

少し大きい子が言うと、ほかの子もうなずいた。


「この三種類の関係を教えるぞ。グーは、石が布で包まれるからパーの勝ち。パーは、布が鋏で切られるからチョキの勝ち。チョキは、石を切れないからグーの勝ち」

「えー。全部勝ちはないの?」

ローカルルールなら存在しないこともないが、順番決めとして使えないので今は言わないでおく。


「それはないんだ。この三つのうち、どれかを出す。じゃあちょっとやってみるから、みんなもどれかを出してみて」

カイがグーチョキパーをゆっくりやって見せると、子どもたちは興味津々でうなずいた。


「じゃあ、じゃんけんぽん!でその手を見えるように出すんだぞ。じゃーんけーん、ぽん!」

カイはチョキを出した。


子どもたちはそれぞれ、グーやパーを出している。

チョキは少し難しかったらしい。

「今、グーを出している人は僕に勝った。パーを出した人は、負けだ。これで、勝った人が先とか決めておけば、順番を決められるだろう?」


自分たちの手とカイの手を見比べた子どもたちは、違うところに食いついた。

「なにこれ、面白い!」

「ねーねーじゃんけんしよう!じゃんけんぽん!」

「負けたぁ!もう一回!」

「勝った!やったぁ」

「チョキ、できない」

「ほら、こうやって先にグーを作ってから」


カイが口を挟む隙もないままに、きゃいきゃいとじゃんけんそのもので遊びだした。


思ったことと違ったが、遊びになるならそれでいいだろう。

楽しそうな子どもたちを見て、カイは口元を緩めた。


子どもたちが遊びに夢中になったところで、カイは修理を始めようと柵に向き合った。


「ねえ修理屋さん、あれなに?」

スキルを起動させる前に、もう少し大きな子どもたちが寄ってきた。

小さい子たちが盛り上がっているのが気になったらしい。


「あれは、じゃんけんだよ。おーい!こっちのお兄ちゃんとお姉ちゃんたちにも、じゃんけんを教えてあげてくれる?」

「いいよー!」

「あのね、グーとパーと、あと難しいのがチョキでね」


小さい子たちが走ってきて、じゃんけんの方法を教えていた。

誰かに教えるのは、一番の学習方法だ。


少しの間だけ子どもたちを見守ってから、今度こそカイは修理を始めるためにスキルを発動した。




「……うん、これくらいまでなら無理がない」

カイがスキルで指定したのは、柵全体の半分ほどの範囲だ。

これ以上広げると、魔力の使い過ぎでシャワーも浴びれなくなる。


材料の木材を認識しておいて、修理を始めた。


経年劣化で傷んでいるところや、折れた板は新しい木材を追加して補修する。

釘も用意されていたので、的確な位置に打ち込んで固定。


スキルで見ると、いくつかある柱が土に深く突き刺してあることがわかる。

「ここの柱は、中で腐りかけてるな」

柱も、木材で補修だ。


そうして修理をすること一時間。

半分ほど修理できたところで、カイは一度スキルを切った。


さすがに集中していると疲れてしまう。


息を吐いてから水を飲んでいると、服の裾が小さく引っ張られた。


「ん?どうかした?」

引っ張っていたのは、最初にカイを取り囲んだ子たちのうちの一人だった。


「今の、修理屋のスキル?」

「そうだよ」

「修理って、新しくなるの?」

男の子は、カイが直した部分を指さした。


「新しくはなってないよ。あっちの木材を使って、追加して強くしたんだ」

「でも、ピカピカになってる。前と違うよ」


確かに、木材の色が違う。

新しい板に取り替えたと言っても違いはわからないだろう。


実際には、材料の木材を使って継ぎ足し、カイのスキルで見えている柵というものを再生しているのだ。

まったく元通りにする再生とも違うので、説明が難しい。


どういえば伝わるかわからなかったので、カイは少し考えた。

「うーん。全部取り換えたわけじゃなくて、修理して、それから綺麗にしたんだ」


「ふうん。面白かったから、また見ててもいい?」

男の子は、一応納得してくれたようだ。

そのうえ面白かったという。

「うん、いいよ」


カイが答えると、笑顔になって走っていった。


あの笑顔を守るためにも、きちんと柵を修理しておきたい。


「勝った!」「負けた!」という子どもたちの声を聞きながら、カイはもう一度柵に向き合った。

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