表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/33

第23話 「それなら、修理屋にお任せください」

空気がひたりと止まる中、情報を整理したカイはうんうんとうなずいた。


「どうやら、そっちの修理屋?は状況を把握したようだぞ」

ライナーがこちらを顎で示して言った。


「カイ?」

デニスの眼光が鋭い。

突然全員から注目され、カイは慌てて背筋を正した。


「えーと、把握?というか……。優先順位の問題ですよね?まあ僕たちからすれば、南の森がどこまで安全かも早めに知りたいところですけど」


それを聞いたデニスが、一つ大きく息を吐いた。

「優先順位か。確かに、南の森に行くのは数日なら止められる」


ふっと、室内の空気が緩んだ。

「害虫退治と一緒ですよね。家に虫が入ってきたら、まずは窓や扉を閉めてそれ以上入ってこないようにする」

カイが言うと、デニスもうなずいた。

「その後で、虫を退治して対策を取るってことか」


「ライナーってば結論しか言わないんだから。村長さんびっくりさせちゃったじゃん。いくらグレータが子どもと一緒に留守番だからって、焦り過ぎ」

犬獣人の女性が言うと、獣人の男性とゴーレム部位持ちの女性も口を開いた。

「仕事は仕事だぞ」

「グレータに言っておく」


「ちょっ!グレータには言うなよ!後でめちゃくちゃ怒られるんだからな!」

焦ったライナーは、ゴーレム部位持ちの女性に向かって両手を振った。


「私は、何かあれば教えて欲しいとグレータに言われている」

「そんなぁ。アウレリア、後生だから」

ゴーレム部位持ちの女性は、アウレリアというらしい。


「知らん」

あわあわするライナーと、突っぱねるアウレリア。

それを見た犬獣人の女性と獣人の男性は、クスクスと笑った。


「まあそういうわけだから。まずはブラックウォルフの流入経路を調査して、防ぐか進路変更。魔物の森の調査と、南の森に入ったブラックウォルフの討伐は交互かな?」

犬獣人の女性がそう言うと、暗い雰囲気は完全に霧散した。


「わかった。それで頼む。とりあえず、南の森へは二日ほど立ち入り禁止にしておけばいいか?」

表情を和らげたデニスは、ちらりとライナーを見てから犬獣人の女性に向かって言った。


「二日だと厳しいかなぁ。誘導路をどう作るかにもよるけど、一週間くらい?どう思う、エーミール」

エーミールと呼ばれた獣人の男性は、カイを見た。


「そっちの、修理屋は建築はできるのか?」

「え?僕ですか?僕のスキルはあくまで修理なので、壊れたものを直すことしかできません」

カイが首を横に振ると、犬獣人の女性はうなずいた。


「スキルって便利だけど柔軟性がないもんねぇ。ウチの火魔法スキルだって、下手したら山火事になるもん」

「フィーネの魔法はすぐ暴走するからな」


しょげたライナーを放置したアウレリアは、こちらの会話に入ってきた。

犬獣人の女性は、フィーネというらしい。


「森で火事はやめろよ」

エーミールが言うと、フィーネは憤慨した。

「最近は暴走しなくなってるからね?!ちょっと謙遜しただけじゃん!」



「森で必要な物はなんだ?」

どうやら復活したらしいライナーが、じゃれあう二人を無視してデニスに聞いた。


「ああ、薪と、兎や鹿なんかの肉だ」

ライナーは、デニスの答えにうなずいた。


「肉の在庫は、肉屋に聞かんとわからん。薪は、ある程度ならそれぞれの家で備蓄しているはずだが、一週間ももたないと思う」

「近くに森があったら、そうなるか」

村の人たちは定期的に森に入って薪を拾っているので、ほぼ毎日誰かが森に行っていると思う。


カイもうなずいていると、エーミールたちのじゃれ合いが終わり、本格的な打ち合わせが始まった。


「まず、明日と明後日は少なくとも森への立ち入りを禁じてくれ。おれたちは森から果樹園へのブラックウォルフの経路を潰す」

「わかった」

今度は、ライナーの言葉にデニスも同意した。


「三日目は、いったん俺とフィーネで薪拾いを護衛しよう。何人かで集まっていけば、ブラックウォルフが襲ってくる可能性も下がる」

エーミールが言うと、ライナーが了承した。

「そうだな。その間は、おれとアウレリアで経路の確認と潰す作業を行う」


「薪拾いの人選はこちらで行う」

そう言ったデニスは、もうライナーたちを信頼すると決めたようだ。


果樹園の管理人であるジーモンはともかく、カイは守られるだけの立場なので聞いていても仕方がない。

しかし立ち去るタイミングを見逃し、彼らの打ち合わせを大人しく聞いていた。


すると、途中でなぜか声がかかった。

「修理屋の」

「はい、カイです」

思わず答えると、ライナーは手招きをした。


「カイだな。改めて、俺はライナー。バンガードの斥候で、パーティリーダーだ。こっちの犬獣人の火魔法使いがフィーネ、サイ獣人の盾使いがエーミール、ゴーレム部位持ちの剣士がアウレリアだ」

「はい、よろしくお願いします?」


改めて自己紹介された意味が分からず、カイは首をひねった。

「修理屋ってことは、武器や防具の修理もできるのか?」

「あ、もちろんできます。欠損がある場合は材料が必要ですが」


カイがうなずくと、ライナーは嬉しそうに笑った。

「はは、まあ無から作りだすのはできないことが多い。だが、修理できると助かる。どうも、長期戦になりそうだからな」


なるほど、カイの客にもなるということらしい。

家具や建材とは違うが、修理することに支障はない。

「それなら、修理屋にお任せください」

カイは、ほんの少し胸を張った。


「心強いな。毎回ツーレツト町まで行くとかなりのロスだが、この村で修理できるなら早い」

話を聞いていたアウレリアが嬉しそうに言った。


「まあ、さすがにアウレリアのゴーレムの調整までは頼まんよ。王都の専門職に、年に一回見せる程度でいいらしいし」

ライナーが言うと、アウレリアも首を縦に振った。

「ああ、そこまでは構わない。そもそも、ゴーレム部位はほとんど壊れないからな」


「そうなんですね」

ほんの少し、ゴーレム部位をスキルで見てみたいと思ったが、カイはその思いに蓋をした。


興味本位で頼むことではないし、アウレリアにとっては繊細なところかもしれない。


「それより、この家の修理も頼めるのか?」

アウレリアがそう言ったので、カイは大きくうなずいた。

「もちろんです。借家の修理費は、村持ちですか?」


カイがデニスに聞くと、話が一区切りついていた彼は目を瞬いてから肯定した。

「ああ、ここの修理は村が出す。一応確認したつもりだったんだが、どこか壊れていたか?」


聞かれたアウレリアは、デニスに向かって首を横に振った。

「いや、壊したのは我々なので修理費はこちらで出す。普通にドアを開けたつもりが、うっかりこちらの腕で開けてしまってね」

そう言いながら、アウレリアはゴーレムの左腕を上げた。


「アウレリア、久しぶりにやらかしたもんね」

フィーネが言うと、アウレリアは肩をすくめた。


「気を抜くと、家のドアを壊すんだ。いつもは気をつけているんだが、久々の長旅が終わったと思ったらうっかりした」

どうやら、ゴーレム部位は扱いが難しいらしい。


「それなら、部品はすべてありますね。すぐに修理します」

「助かる」


ふわ、と照れたように笑ったアウレリアは、思わずカイが見惚れるほどに美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇ もしよろしければ、ほかの作品もご覧ください。 ◇◆

【魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)】
日本で仙人として生きた爺ちゃんが、異世界の魔法少年に成り代わって無双する物語。
ESN大賞7奨励賞受賞、2025年11月14日書籍発売予定です!
まだまだ連載中。

【これは勇者の剣です!】
勇者の剣を引っこ抜いたはずの勇者が、魔王を探して旅をする話(間違ってはいない)。
可愛いヒロインも登場します!
完結済み。

【サーチング・サーガ(竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た・連載版)】
「竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た」の連載版はじめました。
ハイテンション系コメディに、短編最後にチラッと出ていた冒険とラブコメをぶっこみました。
完結済み。

■作品一覧はこちら■
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ