表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~  作者: 相有 枝緖
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/34

第15話 「おはようございます。修理屋のカイです」

明けて次の日、カイは朝早めに起き、スキルで修理した背負子しょいこを背負って薪を拾いに行った。


ローレに、店舗を開けて少ししたくらいに来てほしいと言われたのだ。

朝いちばんはあれこれと品出しや確認で忙しいので、一区切りついた時間ならローレも抜けやすいそうだ。


薪小屋に枯れ枝を積み上げてから、カイは朝食を摂った。

「うん、今朝のスープはまあまあだな」

パンとの相性もそれなりに良い。


自分でパンを焼けると良いのだが、さすがにそれは難しい。

カイが小麦粉から作れるのは、孤児院で教わったドゥンという薄いクレープもどきだけだ。

この朝食でパンの在庫がなくなったので、しばらくはドゥンが続く予定である。



食器を片付けてから、出かける準備をした。

とはいっても、着替えるだけだ。


前世からの感覚で、そういうところが気になってしまうのだ。

カイとしては、人様の家にお邪魔して仕事をするなら、なるべく清潔な服装で行きたい。


洗っておいた服を着ると、パリッとした気分になった。

これから、修理屋としての初仕事である。




三十分ほど歩いて、村の中心部に到着した。

ちらりと八百屋を覗いたところ、今は客はいないようだった。


「おはようございます。修理屋のカイです」

「あ、来たね。今日は頼むよ」

「ローレさん、よろしくお願いします」

声をかけると、ローレが店番をしていた。


続けて、八百屋の主人も奥から顔を覗かせた。


「おはようございます、カイです。ご依頼いただいてありがとうございます」

「いや。ちょうど窓をそのままにしておくのはどうかと思ってな」

かりかりと、照れを隠すように主人は頬を掻いた。


「とても嬉しいです。腰を落ち着けて初めてのお客様ですから。ご主人にも、満足してもらえる仕事をしますよ」

カイが笑顔で言うと、主人はうなずいた。

「ああ、頼む。あと、俺はフィンだ。名前で呼んでくれていい」


「わかりました。改めて、よろしくお願いします、フィンさん」

「よろしくな」

優し気に笑ったフィンは、そのまま店番をするために店舗の方へ出た。



「あんな風に図体はでかいけど、すっごく優しいだろ?だからあたしも押しかけ女房やるって気になったんだ」

「ローレさんが押し掛けたんですか?」

住居スペースへと案内されながら、カイは聞いた。


「そうだよ。まあ、その話はまた今度聞いとくれ。今日はこっち。この窓だね」

ローレが示したのは、裏口のドアの横にある窓だ。

丸ごと板で塞がれていて、室内が暗い。


「この窓ですね。鎧戸は外にありますか?」

「ああ、そっちももう閉めっぱなしなんだ。おかげで昼間でもこの部屋が暗くってね」

キッチンとダイニングのスペースなので、できれば昼は明るい方がいいだろう。


「そうですよね。この窓がちゃんとガラスになったら、かなり明るくなりそうです」

「直りそうかい?」

ローレが少し心配そうに聞いたので、カイは大きくうなずいた。

「まず大丈夫でしょう。先に少し調べますね」


カイは、窓枠に触れてスキルを起動した。

魔法が窓を包みこみ、全体を詳細に把握していく。


窓そのものは、両開きの普通の窓だ。

ガラス窓の方が内側に開き、外側は鎧戸である。

今回は、そのガラス窓の二枚とものガラスがなくなっていた。


割れたガラスがあればむしろ簡単に直るのだが、無いものは仕方がない。

窓のパーツなどがなくなっていないか、目の前に浮かんだ3D映像をぐるりと動かして確認した。

「窓ガラスがないだけで、ほかは故障していないですね。これなら、ガラスを嵌め直せばいいだけです」


うなずいたカイは、いったんスキルを切った。


「助かるよ。あ、うちにあった瓶はこれなんだけど」

ローレが出してきた瓶は、ジャムでも入っていたのだろう、小さめのものが二つだ。


「これは、使ってしまっていいんですか?」

「ああ、いいんだよ。保管用の瓶が別にあって、これだけサイズが違うから使わなくなったんだ」

瓶を受け取ったカイは、もう一度スキルを起動して窓を見た。


「うーん……さすがにこれでは足りないですね。同じくらいの瓶ならあと六個くらいほしいです。ちょっと商店で買ってきます」

スキルで修理しようとすると、材料が足りないと出てきた。


「じゃあ、頼んでいいかい?あたしは店の仕事があるから、戻ってきたらこっちの裏口から勝手に入ってくれていいよ」

「はい、わかりました」

スキルを切ってうなずくと、ローレは店に戻っていった。


裏口から出ると、庭になっていた。そのまま家の周りをぐるっと歩けば表通りに出られる。

外からも一応鎧戸を確認したカイは、商店に向かった。



「おはようございます」

外から声をかけると、ヒルダが出てきた。

「あ、カイ。いらっしゃい」

「おはよう、ヒルダ。ちょっと瓶を見に来たんだけど」


それを聞いたヒルダは、ぴょこんと尻尾を立てて大きく振った。

「瓶ね。どんなやつ?大きいの?小さいの?何に使うの?」

どんどん質問を重ねながら、前のめりに聞いてくるので、カイは思わず一歩後ずさった。


「あー、えっと。一つの大きさはどんなのでもいいんだけど、一キログラム……で足りるかな?一応、二キログラムあったら安心かも」

窓の大きさを思い出しながら言うと、ヒルダは首をひねった。

「カイ、あなた一体何が欲しいの?」


あらためて、八百屋の窓を修理する材料として瓶がほしい、と伝えた。

「なあんだ。そういうことならそう言えばいいのに。それなら、一番安い瓶をいくつか見繕ってもよさそうだけど」

ヒルダはそう言いながら、考えるように腕を組んだ。

耳がパタパタと動いている。


「何か良さそうな瓶がある?」

カイが聞くと、ヒルダは迷ったように口を開いた。

「そう、かな。もしかして、修理の材料にするから形とかどうでもいい感じ?」


「うん。色も形も、特に気にしないよ」

うなずくカイに、ヒルダは笑顔を見せた。

「だったら、こっちに来て!」

「うわっ」


グイ、と手を引っ張られてたたらを踏んだ。

なんとか歩いてついて行くと、ヒルダは店の奥から外へ出て、すぐそこにあった建物に入った。


「ここは?」

「うちの倉庫よ。いろんなものが在庫してあるの。こないだカイが買った布団もここに置いてあったのよ。それで、良さそうなガラスはこっちね」

前を歩くヒルダの尻尾は、機嫌良さそうに左右に揺れている。


ずんずんと進んだ先には、人が二人は入れそうな大きな木箱があった。

「これ?」

「そうよ。開けるからちょっと待って」


そう言ったヒルダは、皮の手袋をつけて木箱の蓋を開けた。

なぜ手袋をつけるのかと不思議に思ったが、中を見て理解した。


「割れた瓶やガラス製品が、こんなに」

「そうなのよ。割れたガラスは、ツーレツトのガラス職人の所に持って行ったら材料として売れるから、うちで買い取ってるの。これで良かったら、かなり割安になるわ」


理解したカイは、手袋をつけたままのヒルダの手を取った。

「ありがとう、ヒルダ!これならたくさんあるし、材料費も安く済むよ」

「ふふ。いい思い付きだったでしょう」

「ああ、本当に。助かるよ」


カイ自身はスキルを使って人の助けとなる仕事をするが、そのカイもこうやって助けられる。

そう気がついて、カイは笑顔になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇ もしよろしければ、ほかの作品もご覧ください。 ◇◆

【魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)】
日本で仙人として生きた爺ちゃんが、異世界の魔法少年に成り代わって無双する物語。
ESN大賞7奨励賞受賞、2025年11月14日書籍発売予定です!
まだまだ連載中。

【これは勇者の剣です!】
勇者の剣を引っこ抜いたはずの勇者が、魔王を探して旅をする話(間違ってはいない)。
可愛いヒロインも登場します!
完結済み。

【サーチング・サーガ(竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た・連載版)】
「竜の巣に乗り込んだ娘は謝罪の旅に出た」の連載版はじめました。
ハイテンション系コメディに、短編最後にチラッと出ていた冒険とラブコメをぶっこみました。
完結済み。

■作品一覧はこちら■
― 新着の感想 ―
割れた窓使えばいいのに?と思ってたので 廃ガラスイベはひざぽんでした〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ