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初配信兼引退RTA

「お前ら~! やっと会えたな! ファンタジア所属三期生、最強異能者とは俺の事! 轟将人(とどろきまさと)だ! よろしくな!」


:死ね

:轟お前船降りろ

:ファンタジアにお前はいらない

:消えろ

:コネ野郎が俺達のファンタジアでデカい面してんじゃねぇよ

:お前はファンタジアの本当の仲間じゃねぇ

:コネでデビューとか恥ずかしくないのかよ

:勇を苦しませたの許せねぇ


 所用で本来の時間よりも遅れたVtuberとしての初配信。コメント欄は罵詈雑言で埋め尽くされており、俺に好意的なコメントは見受けられない。え、ちょっと遅れただけでこんな荒らされるか? と考えたが俺の所属しているファンタジアの先輩には平気で数時間遅刻を連発する人がいる。彼女で耐性がついてるファンタジアのファンが怒るとは思えない。

 というか遅れたのも、ちょっと世界を救ってきた(ガチ)だから許される理由だと思うんだけど!? 半日で中国・ロシア・アメリカを駆けまわってテロ活動してる危険な異能者共をぶちのめすという、わりとハードな一日を過ごした果てがこれ!?


 コメントの流れが早いが、【勇】【コネ】の2つのワードが多くある様に見える。勇というのは一期生の勇者こと勇先輩のことだろうけど、なんでここで勇先輩の名前が出てくるんだ? あとコネって何の話? 状況が全く分からなくて正直お手上げ状態だ。

 今日の朝初配信の告知ツイートした時は【初配信楽しみにしてる】みたいな温かいリプが多数送られてきてたのに、所用で半日ネットから離れてただけで何が起きてるんだ? 配信中にも関わらず思わずライバー用のスマホを覗いてみるとマネージャーからの大量の着信履歴が並んでいた。どうやら俺の知らない間に何かしら事件が起き、マネさんは必死にその事を伝えようとしてくれていたらしい。こちらもそれを気にしている余裕が無かったとはいえ申し訳ねぇ。


「あれ、マネさんから電話だ。皆すまんちょっとミュートにするな」


:逃げんな

:開始早々ミュートとかライバー舐めてんの? これだからコネは

:さっさと消えろ

:ミュートしなくて良いから配信やめろ


 本来であれば配信中にマネージャーが通話かけてくるなんてありえない。けどこの異常事態なら仕方ないのか? とりあえず俺は配信のマイクをミュートにしてからマネさんの通話を繋げる。



『轟さんやっと出てくれた!』

「島津さんお疲れ様です」

『あ、お疲れ様です。ってそんな場合じゃ無いですよ! 今轟さん大炎上しているのは知ってますか?』

「はいぃ? なんで配信始めたばかりなのに炎上してるんですか!?」

『えっとちょっとややこしいんですが、一期生の威世戒勇さんが大規模異能犯罪に巻き込まれまして……』

「え!? 勇さん大丈夫なんですか!?」


 一期生の威世戒勇(いせかいいさむ)。異世界から召喚された勇者という設定で配信している彼は、とにかく堅真面目、曲がった事が大嫌いで義理堅い。ファンのお悩み相談なんかでは真摯に向き合い、解決策を必死に模索するし、異常なまでの業運の持ち主でソシャゲの完凸まで耐久配信企画を十連で終了させたり、万馬券を引き当てたり(ギャンブルは同期の久古(くこ)ロゼの趣味で勇さんは付き合いでやる程度。因みにロゼさんは勇さんと対極で運が滅茶苦茶悪い)。また罰ゲーム等でしかやらないがASMRも女性ファンを筆頭に需要が高い。

 ファンタジアの中でも一番登録者が多く百万人を超えている。因みに俺もその百万人の一人だったり。というか最推しだ。こんな汚れ切った世界、しかも治安最悪のネット界隈で活動してどうしたら純粋な善性を維持したまま活動できるんだ。彼の声を聴いているとこんな汚れ切った存在の俺でさえ浄化されかけちまう。当然の権利と義務で毎月限界(二重の意味で)スパチャをしているくらいだ。

 そんな勇さんが異能犯罪に巻き込まれたと聞いて穏やかでいられるわけがない。犯人殺すか?とVtuberらしくない物騒な事を考えていた俺にマネさんは衝撃の事実を明かした。


『威世戒さんは身体的損傷は一切ありません。今回の大規模異能犯罪は精神操作系で心の奥底に秘めてる不満をぶちまけさせる、というものみたいで渋谷一帯に居た人は漏れなく被害にあったようです。威世戒さんはご自宅が渋谷なので……』

「なんか大規模な割にしょっぱい事件ですね。それがなんで俺が燃える事に?」

『それで……非常に言いにくいんですが……威世戒さんは轟さんの採用の件を快く思ってなかったらしく。それを配信中に暴露されたんです』

「??? 俺の採用で暴露されるようなことありましたっけ? 社長がヘッドハンディングしてくれたんですよね」


 俺は特にネット上で活動してなかったのに、どうやって俺の事を知ってスカウトしたんだろうと当時は不思議には思ったが、よく分からないがこの激動の業界で生き残る会社の社長は凄いんだなと納得していた。


『え?』

「え?」

『轟さんって……その、社長の親族で、その縁による採用ですよね?』

「はい!?」


 なにそれなにそれ!? 俺知らないぞ!? 俺ライバーとして採用されるまで社長と面識無かったぞ!? なのになにがどうしたら親族だなんて話に――。その時俺の脳裏に一人の男性がちらついた。俺と国との連絡役を務めている公安の堂島さん。そういえばファンタジアの社長からヘッドハンディングされたって伝えてきたのも彼だった。よく考えればなんでVtuber事務所の社長が公安の堂島さんに連絡できるんだ。

 俺は慌てて私用のスマホを見ると堂島さんから【すまん】と一言だけの連絡が届いていた。なるほどなるほど? なんとなく状況を理解したぞ。つまり俺はヘッドハンディングされたんではなく、公安からの圧力に屈した社長が仕方なくライバーとして採用した存在で、その事実を知らない人達は社長と親族がコネで採用されたと不快に思われていたと。いやまぁ真実を知られてたらもっと俺の評価下がってたかもしれないけど。えっと……。


「あの確認なんですけど俺って勇さんに……その……嫌われてます?」

『……威世戒さんは社長と一緒に会社を立ち上げた最古参の一人でして。それ故【世界を愉快にする】という社訓を大事にされていて……なので面接すら無く縁故での採用に強い反発を抱かれていたみたいで……』

「そういうの良いんで! 事実だけ教えてください!」

『……まぁ……その……かなり嫌われてるかと』

「ははっ、なるほどなるほどね! 完全に理解しました! わっかりました任せてください!」

『えっ轟さ――』


 俺はマネさんとの通話を切ると、配信のマイクのミュートを解除する。ははっ、初配信でどんんだけ視聴者待たせてるんだって話だよな。それなのに視聴者は一万人もいる。彼らは俺に期待して配信を見ているんじゃない。俺を批判したくてここに居るんだ。つまり俺には最低でも一万人のアンチがいるということ。大抵の修羅場には慣れたつもりだったけど緊張でげろ吐きそう。


「あ~、皆またせてごめん。俺から皆に大事な話があります。ファンタジア三期生である俺轟将人は今日を持って引退します!」


 全てを理解した俺は、とりあえず引退RTAを決め込むことにした。



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