整形
私の人生は、ずっと脇役だった。どこにいても、誰からも気にかけられない。鏡に映る自分の顔は、平凡そのもの。特徴がなく、まるで風景の一部みたいだった。学生時代の新聞のクラスの「モテる人」や「面白い人」ランキングにも、私の名前は一切載ることがなかった。見た目も中身も、まるで空気のように薄かった。そんな自分にずっと嫌気がさしていた。
ある日のことだ。新聞受けに入っていた一枚のチラシが、目に留まった。最新の美容整形クリニックの広告。よくあるものだと、気にもとめなかったが、「あなたの人生、劇的に変えませんか?」というキャッチコピーの下に並んだ、別人のように美しくなった人々のビフォーアフター写真に、思わず目が釘付けになった。その中に、特に目を引く人がいた。私が漠然と抱いていた理想の「顔」が、そこにいたのだ。
私は、そのチラシを握りしめた。高額な費用だったが、もう失うものはない。私はクリニックを訪れ、医師に迷うことなくその顔を指差して言った。「この顔にしてください」。震える声で尋ねた。「この顔になれば、誰もが私のことを見るようになりますか?」
医師はマスクごしの顔でニヤリと笑った。「もちろん。嫌になるほどね」
数週間後、包帯が取られ、鏡に新しい自分が映った。そこには、チラシで見た通りの、誰もが羨むような端正な顔立ちがあった。鋭い目元、すっと通った鼻筋、薄く引き締まった唇。私の世界は一変した。道行く人は皆振り返り、カフェでは店員から笑顔を向けられ、仕事では同僚や上司からの扱いが明らかに変わった。「○○さんって顔が整っていて綺麗ですね」「まるで別人だ」――そんな言葉が、毎日のように私に降り注いだ。
私は自信にあふれ、新しい人生を謳歌していた。人々の視線が快感だった。すれ違う人々が、まるで有名人を見るかのように私に注目する。日陰に生きてきた私にとって、その視線は甘美なものだった。私は堂々と街を歩き、その視線を全身で浴びた。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
ある朝、いつものように駅のホームで電車を待っていると、壁に貼られた指名手配犯のポスターが目に入った。その瞬間、私の心臓は凍りついた。ポスターに描かれた似顔絵は、まさに今、鏡で毎日見ている自分の顔だった。
私はその場から逃げ出した。周囲の視線が、急に刃物のように感じられる。私が顔を上げた瞬間、近くにいた人が叫んだ。「あれ、もしかして…!」
平凡だった顔は、もう二度と戻らない。憧れの顔は、皮肉にも、世間が探し求める指名手配犯の顔だったのだ。私が有名人になったのは、まさにそのせいだった。新しい人生をくれたはずのこの顔が、今、私からすべてを奪おうとしていた。もうどこにも居場所はなかった。ただただ、この見慣れない、そして見覚えのある「顔」を抱えて、私は逃げ続けるしかなかった。