第2話:もう一人の弟子
この田舎の町は、思っていたほど小さくはなかった。
店や建物がいくつもあって、まるで都市みたい。
道は舗装されていて、立派な屋敷もちらほら見えた。
結局のところ、ただの田舎ではないようだ。
パン屋らしき店の隣には、看板が掛かった別の建物があった。
『エンダーの魔法店&サポート』
——店なんて開いてたのね、ふーん?
家の遺産で暮らしているか、ここの地主だと思ってたけど……違うみたい。
もしかして、ミケルはここで働いてるの?
彼、自分のことを弟子って言ってたし、可能性は高いかも。
まあ、聞いてみよう。
「ねぇ、ミケル。あなたも彼の従業員なの?」
ミケルは私を広場で見つけたあと、ここまで案内してくれた。
叔父のエンダーが彼を迎えに行かせたらしい。
(なぜ自分で来なかったのよ……ちゃんと理由があるといいけど)
ミケルはポケットから鍵を取り出しながら答えた。
「そうです。弟子として学ぶには、店の管理や雑務も必要です。それも修行の一環なんです。」
魔法を学ぶために働くなんて……かなり努力してるのね。私とは大違い。
「わあ、それってすごいね、ミケルさん!」
「たいしたことじゃありませんよ。それに、お給料も出ますし、そのおかげで母を助けることもできてます。」
……なんて立派なの。お母さんのためにも働いてるんだ。
うぅ……私は家の手伝いなんてしたことない。まあ、召使いがいるし、しょうがないよね……それでも、ちょっと反省。
そんなことを考えていると、ミケルは鍵を鍵穴に差し込んだ。
そして、開ける直前——ふと手を止めた。
「……」
「どうかしたの?」
「……いえ、なんでもないです。」
(今の、絶対なにかあったでしょ……)
一瞬の間の後、ミケルは扉を開けた。
「ミケルさーん!!」
扉が開いた瞬間、何かがミケルに飛びかかった。
一瞬、大きな犬かと思ったけど——正体は女の子だった。
彼女はミケルのお腹に顔をこすりつけている。
「もうっ、よく帰ってきたわね!こんな時間に出歩くなんて心配したのよ!エンダー先生のバカ!」
「大丈夫だよ、ダリア……そろそろ離れてくれる?」
どうやらこの元気な子は、ダリアというらしい。
私の存在に気づいた彼女は、ミケルから離れて立ち上がった。
そして、俯いたまま冷たい声で言う。
「あなたがエンダー先生の姪……?」
びくっとして、私は慌てて答えた。
「えっ、えっと……はい。ミライ・ローリングです。よろしくお願いします。」
(……なんか、まずいこと言った?)
「……なるほど。ってことは——新しい友達ね!」
(え、ターゲットロックオンされた?)
彼女は勢いよく私に抱きついて、頬をすりすりしてきた。
「うわぁ〜、柔らかくて可愛い〜!しかも私と同い年〜!」
(人形か何かと勘違いしてる?この赤髪で細身の子、めっちゃ元気なんだけど……)
「今日から私たちは友達よ!いいわね?」
「は、はい……で、でも、あなたのお名前は……?」
私がそう尋ねると、彼女は腕を離して、少し下がってからスカートの裾をつまんでお辞儀をした。
「ご無礼をお許しください。私はパン屋の娘で、エンダー先生の弟子でもあるダリアです。これから短い間ですが、ご一緒できることを光栄に思います。」
そのお辞儀はちょっと不格好だったけど、私も礼儀作法の授業でよく寝てたし、文句は言えない。
言葉遣いだけはちゃんとしてるし……私が貴族出身だって、もう知ってるのかも。
でも、今の発言——ちょっと気になる。
「えっと、エンダーおじさんの弟子って言ってた?」
「もちろん!もう二年間、先生に師事しています!」
ダリアは胸を張って、誇らしげに続けた。
「あなたって本当に羨ましいわ〜。親戚が先生なんて、それに魔法一家の出身だなんて!」
「え、えぇ……ありがとう。たぶん。」
……うん、これで確定。
私の知らない間に、叔父は弟子を二人も抱えて店を経営していた。
(……まだ何か隠してたりしないよね?)
私たちのやり取りを見ていたミケルが、立ち上がって埃を払った。
「友達ができて、よかったですね」
と、私の荷物を拾いながら言った。
「でも、そろそろ中に入りましょう。もう暗くなってきましたし。」
ダリアはしゃきっと姿勢を正して、私の手を取った。
「そうだね!さあ入って!他の子たちも紹介したいの!」
(……え、他にもいるの?)
ダリアに手を引かれながら、私はエンダーおじさんの家兼お店へと足を踏み入れた。
……さて、この叔父さんと、彼の弟子たちは一体どんな人たちなんだろう?