第1章:見捨てられた
親との言い合いに負けた私は、家族で一番の魔法使いである叔父エンダーのもとに、魔法を学ぶため送られることになった。
父も祖父母も、もう何年も彼に会っていないらしい。
彼が住んでいる村、ヴィラ・ゾーンに手紙を送るところから始めなければならなかった。
そして私は、今、その村に向かう列車に乗っている。
彼のことは何も覚えていないし、顔すら思い出せない。
たぶん、父に似ているんじゃないかな。
それに、きっと偏屈なおじさんだと思う。
長い旅路の果てに、ようやく到着した。
列車の乗り降りをする人はほとんどいない。
まあ当然だ。こんな田舎の村に誰が来るっていうの?
そう思いながら、私は列車を降りた。
持ってきたのは、リュックと荷物バッグだけ。
荷物はできるだけ減らしたかったし、お気に入りの服は汚したくなかった。
…でも、このワンピースを選んだのは、少し失敗だったかも。
さて、叔父さんはどこにいるの?
周りを見渡すけど、父や私と同じ髪色の人は見当たらない。
それが唯一の手がかりだったのに。
数分もしないうちに、駅は誰もいなくなっていた。
「……」
どうやら、遅れてるみたい。
……
夕陽が沈み始め、駅の係員は帰り支度を始めていた。
そして私は――完全に置いてけぼり。
ため息をついて、その場を離れた。
待ってても無駄だと思ったから。
近くの噴水まで歩いて行って、ベンチに腰を下ろした。
「もし暗くなったら、どうしよう……」
考えすぎだとは思うけど、
もし変な人にでも出くわしたら――スリとか、いや、もっと最悪な…変態とか。
考えただけで、ゾッとする。
誰かに道を尋ねた方がいいかも。
でも、もし変な人だったら騙されるかもしれないし、
最悪の場合、誘拐される可能性だってある。
……なんで、よりによって短いスカートなんか選んじゃったんだろう。
ああ、家にいればよかった。
召使いに世話されながら、恋愛小説でも読んでいた方が――絶対マシだったのに!
涙がこぼれた、そのとき――
「ねえ、君、大丈夫?」
誰かが声をかけてきた。
茶色い髪の少年だった。私と同い年くらいに見える。
「え、えっと……はい。ただの迷子です。」
……というか、置き去りですけどね。
「そっか……!」
何かに気づいたように、彼は言った。
「君の髪、あの人と同じだ。」
「えっ、同じ……?」
もしかして、叔父さんのこと?
「もしかして……エンダー先生の姪っ子?」
え? 知ってるの?
ということは――助かった!
「はいっ! 私はミライです。ルイス・ローリングの娘で、エンダー叔父の姪です!」
「僕はミケル。エンダー先生の弟子で、迎えに来たんだ。」
ミケル……いい名前。
それに、すごくかっこいい。声も落ち着いてて、なんだか安心できる。
……って、え? 弟子って言った?
叔父さんに弟子なんているの?
「立てる?」
「えっ?」私はこくりと頷いた。
「よし、荷物は僕が持つよ。」
「ありがとう。」
彼は私を叔父エンダーの家まで案内してくれた。
もし彼が一緒に授業を受ける相手なら……思ってたより悪くないかも。
――そう思っていた。
あの家のドアを開けるまでは。