それから①
夏が終わり、秋が来て、冬を迎えた。
今年の夏はいつもと違い、毎日がとても目まぐるしかった。
振り返ればほんの数日間のことだったのに、何年もの月日を重ねた気さえした日々だった。
ある日突然、嵐のように現れたかと思うと、あっという間にこの屋敷に馴染み、優しい光のような温もりを残して去った人間の少女。
彼女は今日も、どこかでちゃんと笑えているだろうか――。
「雨天様―!」
「どうした、コン」
「今日のお掃除は終わりました。これから猪俣様のところに行ってまいります」
「ご苦労様。今日の甘味はみたらし団子だ。猪俣様によろしく伝えてくれ」
「承知いたしました。それにしても、よい香りですよねぇ。お団子のタレがピカピカのツヤツヤで、とってもおいしそうです」
「あとでみんなで食べよう。ほら、おつかいに行っておいで」
「はい。行ってまいります」
コンは元気よく返事をすると、いつも通りに出かけて行った。
「雨天様、お夕飯はいかがいたしますか」
「そうだな……今夜は鮭を焼こうか。確か、ちょうどよいものがあっただろう」
「では、私がお味噌汁を」
「ああ、頼む。ギンはすっかり出汁を取るのが上手くなったからな。安心して任せられる」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑うギンに、瞳を緩める。
修業の成果が表れていることが自信に繋がっているのだろう。
ギンはコンよりも引っ込み思案なところがあったが、最近は以前にも増してよく笑顔を見せるようになった。
コンとギンが屋敷の前で息絶えたあの夜から、もう二百年。
先代であるこの屋敷の主を失った私は、いつか主と私のような別離の悲しさを味わうのなら、神使など必要はないと思っていた。
けれど、私ひとりで屋敷のすべてを担うには限界がある。
そんなときだった。
傷ついたコンとギンが現れたのは……。
双子の子狐の神使なんて、おもしろそうだと思った。
なによりも、ふたりが互いを想う絆の糸が私の心を動かした。
そうして、ひとりだった私の元に、賑やかで可愛い二匹の子狐が住み着いた。
三人でお客様をお迎えし、お見送りする。
そんな日々は、とても穏やかで、春の陽だまりのように優しくて。ときには予想外のことも起きたが、ひとりだったときよりもずっと楽しく、たくさんの幸せを知った。
コンとギンが現れてから二百年。
あの日から、私が笑わなかった日はないだろう。
ふたりは『雨天様に救っていただいた』とよく口にしているが、本当に救われていたのはきっと私の方だ。
主を失った私に、コンとギンはまた誰かと過ごすことの楽しさや幸福を教えてくれたのだから……。




