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新月の出会い③

「……子狐か。人間にやられたか」



 遠くの方で誰かの声が聞こえた。

 優しくて温かくて、まるで私に初めて話しかけてきた神様のような声だった。



「二匹とも息絶えたか……。もう肉体と魂が離れているな」



 私は助からないとわかっていた。

 せめてギンだけは助かってほしかったのに、もう息がないと誰かが言う。



 母との約束を守れなかった。

 痛い体よりもずっと、心が痛かった。



「子狐、私の声が聞こえるか」



 誰かが私に話しかけた。

 優しくて温かくて、心地好い声だった。



「聞こえ……ます……」


「このまま消えてしまうか、私の神使となって仕えるか、どちらがよい?」


「ふたりで……いっしょでも、いいですか……」



 大切なのは、ギンのこと。

 ふたりで一緒でもいいか、確かめなくてはいけない。

 私はギンの兄なのだから、弟を守らなくてはいけないのだ。



「もちろんだ。双子の子狐の神使とは、毎日が楽しくなりそうだ」



 誰かの嬉しそうな声が聞こえると、霞む視界に大きな手が翳された。

 私の体を撫でる手は温かく、まるで大好きな母に包み込まれているようだった。



「さぁ、お前たちは今夜から私の神使だ。このお茶屋敷のために、しっかりと仕えておくれ」



 柔らかな光に包まれた体からは、みるみるうちに痛みが消えていく。

 程なくして目を開けると、銀色の髪を靡かせる青年が立っていた。



「ギンは……?」



 慌てて隣を見れば、知らない少年がこちらを見ていた。

 けれど、私はこの匂いを知っている。

 懐かしくて嗅ぎ慣れた、ずっとずっと一緒にいた匂い。



「コン……?」


「ギンッ……!」



 着物を着た小さな少年も、すぐに私がコンだと気づいた。

 生まれるずっとずっと前から一緒にいるのだ。

 わからないはずがない。



 ふたりで抱き合って声を上げて泣いた。

 わんわんと叫ぶように泣いた。



「コンに、ギンか。よい名前だ」



 程なくして、優しい声の青年が瞳をたわませた。



「あなたは……?」


「私の名は雨天。ひがし茶屋街のこの屋敷に棲む、雨の神様だよ」



 銀髪の美しい青年が笑う。

 初めて見た神様とは全然違ったけれど、私は一目でこの神様を気に入った。

 母のような、温かくて優しい匂いがしたからに違いない。



「今日からよろしく、コン、ギン。お前たちと私はずっと一緒だ」



 嬉しかった。とても嬉しかった。

 ギンとずっと一緒にいられることも、雨天様にお仕えできることも。



 神様は言った。

 母も言った。

『ふたりで一緒なら大丈夫』と。



 今日から三人になった。

 ふたりで一緒なら大丈夫。

 それなら、三人で一緒ならきっともっと大丈夫だ。

 もうなにも怖くない。



 今宵の空には、月も星も見えない。

 雪が降る凍てつくような夜だけれど、雨天様の銀の髪は月よりもキラキラと輝いていた――。




番外編 一【完】



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