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金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷  作者: 河野美姫
お品書き 五 【上生菓子】
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神様からの贈り物⑭

 ひがし茶屋街は、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。

 ちょうど夏休みシーズンだから、観光客らしき人たちがいつも以上に多い。



 残念ながらゆっくり回れそうになくて、お土産もここで見るのは難しそうだとすぐに悟る。

 仕方なく、金沢駅の構内にあるお土産屋さんで調達することにした。



 何度も見た景色だけれど、今日は一段と懐かしさを感じる。これからしばらくは、ここを訪れる機会はないからなのかもしれない。

 けれど、就活が上手くいけば大学を卒業する頃にはまた来よう。



 将来のことを考えた途端に不安も芽生えたものの、悩むくらいならなんでもいいから行動に移そうと思えた。



(私って、こんなに前向きだったっけ?)



 ネガティブとまでは言わなくても、こんなにポジティブ思考でもなかったはず。

 それなのに今は、なんでもいいから新しいことに挑戦してみたいという気持ちが強かった。



 習い事や新しいバイトを始めてみるのもいいかもしれないし、英会話や留学なら高校生のときから興味があった。

 バイトなら、和菓子屋さんで働いてみたい。



(あれ? どうして和菓子屋さんなんだろう?)



 特に興味があったわけじゃないものが自然と浮かんだことに小首を傾げたとき、頬にぽつりと冷たいものが当たった。



 冷たい雫は、雨粒だと気づく。

 傘を差し始めた周囲の人たちと同じように折り畳み傘を出そうとした瞬間、手に持っていた小さな傘と自分で作ったばかりのスズランの花束が視界に入ってきた。



 一瞬だけ悩んだけれど、お気に入りの折り畳み傘と同じくらい大切な青い傘を広げてみた。

 ひがし茶屋街からバス停までは、そう遠くはない。

 子ども用の傘だけれど、道行く人たちは加賀百万石の美しい城下町に夢中で、私の傘なんてたいして眼中にないはず。



「まぁいっか」



 微かな笑い声と誰にも聞こえないくらいのひとり言を零し、懐かしさを纏った小さな傘を差すことにした。

 曇り空と雨を隠すように頭上で広げた傘は、まるで青空からスズランの花を降らせているみたい。



『ひかりちゃん、金沢を含む北陸地方の一部には〝弁当忘れても傘忘れるな〟って言い伝えがあるくらいなのよ。だから、とびきり可愛い傘を持っておく方がいいと思わない?』



 この傘を買うとき、私よりも真剣に選んでいたおばあちゃんは、確かそんなことを言っていた。

 それを思い出して空を仰げば、おばあちゃんが嬉しそうにしているような気がして、自然と笑みが零れ落ちていた。



『ひかり、幸せであれ』



 誰かがそう囁いたことも、この雨が神様からの贈り物だということも、私は気づいていなかったけれど……。おばあちゃんが大好きだった雨に優しく見送られるように、たくさんの温かい思い出が詰まったひがし茶屋街を後にした――。



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