神様からの贈り物⑬
電話を終えたあと、荷造りをしようとしたけれど、荷物はすべて綺麗に片付いていた。
そういえば、昨日荷物を纏めたような気がしなくもない。
「やっぱり、寝惚けてるのかな」
自嘲混じりに笑って、着替えて顔を洗い、軽くメイクを施してから帰り支度を済ませた。
お父さんに言われた通りにすべての部屋の戸締りを確認し、さっき脱いだばかりの部屋着もキャリーケースに詰める。
荷物を持って玄関に向かう途中、軋む廊下の床板を何度か踏んだ。
静かな廊下に、ギシギシと音が響く。
お父さんたちはこの家を手放す方向で話し合いを進めていたから、これができるのは今日が最後になると思うと、自然と懐かしさとともに寂しさも抱いたけれど……。不思議と、ちっともつらくはなかった。
玄関から見る家の中の風景には、さすがに名残惜しさを感じさせられたけれど、深呼吸をひとつしてから口角をキュッと上げた。
少し悩んで、おもむろに口を開く。
「ばいばい、おばあちゃん」
いつも笑顔で見送ってくれたおばあちゃんは、もういない。
金沢に来たばかりの頃はそれがつらくてたまらなかったのに、今はその頃とは違う気持ちでここに立っている私がいた。
外に出て玄関の鍵を掛け、振り返って足を踏み出そうとしたとき、地面に落ちている白い花が視界に入ってきた。
「スズラン?」
思わずしゃがんで手に取ったけれど、スズランの季節は確か春から初夏だったはず。
おばあちゃんから聞いた知識を思い出して不思議に思いながら辺りを見れば、五メートルほど先の右側に同じような花が落ちていた。
それも手に取ると、さらに先にもう一本。
誰かのいたずらかと思う反面、なにかの道しるべにも思えて、どうしても無視はできなかった。
全部で五本のスズランを見つけたあとで顔を上げると、庭の物置きの前まで来ていた。
私の背丈ほどしかないその扉が、なぜか少しだけ開いている。
きちんと閉じようとしたのに、中でなにかが引っかかっているようで上手く動かせなくて、仕方なく一度扉を開けた。
直後、中から棒のようなものが落ちてきて、私の足元でその身を横たわらせた。
「あれ? この傘って……」
今の私には明らかに小さいけれど、間違いなく見覚えがあった。
自分のものだと確信するまでに、三秒も必要なかったと思う。
青空のような色に、ちりばめられたスズランの花。
広げた小さなキャンバスを空に翳すようにすれば、まるで青空からスズランの花が降ってくるようだった。
「ここにあったんだ」
失くしたと思っていたのに、おばあちゃんが持っていたみたい。
それならそれで言ってくれればよかったのに、もしかしたらおばあちゃんも忘れていたんだろうか。
どちらにしても、帰る前に大切にしていた傘を見つけることができたのは嬉しい。
予想外の出来事に笑みを零し、ひとつ増えた荷物を大事に持ったままバス停に向かった。
新幹線の時間まではまだ余裕があるから、友達にお土産でも買おうかと思ったとき、目の前に停まったのは橋場町の方面に向かうバスだった。
それに構わずに横断歩道を渡って反対側のバス停に行くつもりだったのに、なんとなく足が向いてしまい、その城下町周遊バスに乗っていた。
どうせなら、おばあちゃんとよく行ったひがし茶屋街の景色を見てから帰るのも悪くない。
女子受けのいいお土産なら、あそこには色々とある。
水に浸したティッシュとバス停の手前でもらったチラシでスズランの花を包み、流れていく景色を見ながらおばあちゃんとの思い出を振り返っていた――。




