神様からの贈り物⑫
* * *
優しい微睡みの中から、現実に向かっていく感覚。
重い瞼を開ければ、子どもの頃から慣れ親しんだ古い天井が視界に入ってきた。
まだ意識は覚醒し切っていない感じがあるけれど、寝起き特有の気怠さはちっともない。
起き上がってグッと伸びをすると、体がやけに軽いような気がした。
「うーん、よく寝た」
窓を開けて空を見上げれば、どんよりとした曇り空が広がっている。
きっと、今日も雨だろう。
そんなことを考えながら再び天井に向かって手を伸ばしたとき、スマホが鳴り出した。
着信を知らせるそれを手に取ると、ディスプレイに表示されているのは【お父さん】という文字で、珍しく思いながら電話に出た。
「もしもし?」
『ああ、ひかり?』
「うん」
『おはよう。金沢は、どうだった?』
「え?」
『ん? 今日、家に戻るんだろう?』
(え? そうだっけ?)
お父さんの言葉でスマホを耳から離し、急いでスケジュールアプリを起動させると、帰る日だということに気づいた。
『なんだ、寝惚けてるのか?』
無言でいる私を怪訝に思ったようで、お父さんは電話の向こうで『大丈夫か?』と心配そうにしている。
「あ、ごめん。まだ起きたばっかりで」
『そうか。新幹線は午後だったか? 忘れ物するなよ。あと、戸締りはちゃんと確認してくれよ』
「うん、わかってる」
『そういえば、今日までなにをしてたんだ?』
「え?」
『なにかあったら連絡してくるだろうと思ってはいたが、結局なにも言ってこなかったから……』
お父さんが心配してくれていたんだとわかったけれど、質問の答えはすぐに出てこなかった。
そういえば、金沢に来てからなにをしていたんだろう。
考えても、不可解なくらい思い出せない。
『おいおい、大丈夫か? まさか、ずっとおばあちゃん家に引きこもってたのか?』
「ううん、違うよ」
不思議とすぐに否定の言葉が出きたけれど、やっぱりこの二週間のことはあまり記憶にない。
だけど、なぜか不安も恐怖も芽生えなくて、あまつさえ答えがわからなくてもいいように思えて、むしろすっきりとしている心なんて安堵感と幸福感に包まれている。
「とりあえず、すごく楽しかった気がする」
なんだか長い夢を見ていたような感覚と、雨上がりの晴れた空のように清々しい気持ち。
心はここに来たときとは比べものにならないほどに軽く、あんなにも枯れないような気がしていた涙は出てくる気配すらない。
「ここに来てよかったよ」
心の底から漏れていた、本音。
それを口にすると、お父さんが『そうか』としみじみと零した。
『夏休みに余裕があれば、こっちにも帰ってこい。母さんも、兄ちゃんたちもひかりを心配してた』
「うん、わかった」
素直に頷けたのは、なんだかたくさん話がしたくなったから。
実家にいるときは息苦しく思うこともあったのに、今はそのときの記憶が曖昧になっていく感覚さえある。




