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金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷  作者: 河野美姫
お品書き 五 【上生菓子】
53/68

神様からの贈り物⑧

「あのとき、私に道を教えてくれたのは雨天様だったんだね」


「どうやら、そのようだな」



 もう確認する必要を感じていなかった私に、雨天様がふわりと破顔した。

 懐かしそうな表情で、口が開かれる。



「あのときのことはずっと覚えていたが、まさかひかりだとは思いもしなかったよ」


「私も、ここに失くした傘があるなんて思いもしなかった」



 十五年もの時間を、ずっとここで待ってくれていた。

 神様と、可愛いふたりの神使のもとで。



 それはまるで、私たちの縁を結んでくれようとしていたかのように思えた。



「雨天様と一度会っていたから、私はここに来られたんだね」


「ああ、そのようだ」



 大きく頷いて肯定した雨天様は、私が手にしている傘に視線を遣ったあと、そのまま続けた。



「子どもの目に神様や神使の姿が見えるのはそれほど珍しいことではないが、声が聞こえる者はそれよりも遥かに少ない。だが、ひかりには私の声が聞こえた」


「うん。雨天様のおかげで、おばあちゃんに会えたよ。でも、どうしておばあちゃんの居場所までわかったの?」


「家族や縁がある者同士は、我々には結びついて見えるのだ。簡単に言えば、ひかりとおばあ様のそれぞれの魂が微かな光の糸のようなもので繋がっているように見え、それはお互いへの愛情が深ければ深いほど明確になる」



 微笑む雨天様が、「それでも、とても淡く微かなものだがな」と補足し、私を見つめた。



「だから、おばあ様の姿が見えなくても、近くにいる気配を感じたのだ。まさか、ひかりが傘を放り出していくとは思ってもみなかったが」


「きっと、おばあちゃんを探すことに必死だったから……。でも、そのおかげでおばあちゃんに会えたし、十五年も経ったけど雨天様にもまた会えたんだよね」


「そのようだな」



 共感の言葉とともに笑みが零され、綺麗な双眸が優しく細められる。

 私も相槌を打つように首を振り、懐かしさでいっぱいになりながら再び傘を見つめた。



「この傘には、ひかりとおばあ様の想いが詰まっているのだろう。だからこそ、ひかりにはコンの声が聞こえ、私の姿も見えた」


「うん……」


「もしかしたら、ひかりのことを心配したおばあ様の魂が、この傘とともにひかりを呼び寄せたのかもしれないな」



 もしそうだったとしたら、おばあちゃんは最期に最高のプレゼントを残してくれた。

 そう考える方が幸せだから、雨天様の言う通りだと思うことにしよう。



「私も永くここを守っているが、こんなことは初めてだ。だが、この縁を幸福に思うよ」



 仰いだ空は高く青く、雨模様とは程遠いけれど……。おばあちゃんは大好きな雨の日のように、嬉しそうに笑っているような気がした。



「この傘を買ってもらったときにおばあちゃんから聞いたんだけど、スズランの花言葉は〝幸福が訪れる〟なんだって」


「それはまた、奇遇だな」


「うん。本当にその通りだったみたい」



 ここに訪れたのは私の方だったけれど、私には確かに幸福が訪れた。

 あんなにも悲しみに暮れて心細かった私を迎えてくれた雨天様たちのおかげで、今はもう金沢に足を踏み入れたときの気持ちとは全然違う。



 晴れ晴れとしている、とまでは言えなくても、心から笑顔になれたから。

 だから、きっともう、大丈夫なんだと思う――。



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