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金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷  作者: 河野美姫
お品書き 五 【上生菓子】
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神様からの贈り物④

「目標がないことは、別に悪いことではない」



 きっぱりと言い切られて、少しだけ戸惑った。

 共感できないせいで、微妙な顔になっていたと思う。

 だって、現実問題、私は来年に就活を控えた身。夢や目標とまではいかなくても、自分自身のやりたいことくらいはわかっていなければ、就活にも影響するだろうから。



「だいたい、大きなものだけを目標と決めつけるのは、いささか浅はかだ。大きくたって小さくたって、自分が頑張るきっかけになるのなら目標であろう」



 それでも、雨天様の声には素直に耳を傾けたくなる。

 明確な理由を説明することはできないけれど、今日までの日々が自然とそうさせていたのかもしれない。



「たとえば、今日の仕事を頑張ろうと思うことだって、立派な目標だ。それを達成すれば、褒美に大福のひとつでも食えばよかろう」


「でも……普段はそれでよくても、夢とかちゃんとした目標がないとやっぱりダメだと思う。だって、そういうものがないと、将来のことなんて決められない気がするもん……」



 日々の目標は簡単なものでもいいのかもしれないけれど、自分の将来を決めるにはあまりにも心許ない。

 納得できなくてため息を漏らすと、雨天様がフッと瞳を細めた。



「夢なんて、案外そこかしこに転がっている石から見つかることもあるものだぞ」


「え? 石……?」


「石というのは〝ものの例え〟だが、別に大きなきっかけばかりが夢に繋がるというわけではない、ということだ」



 怪訝な顔をした私を見て、雨天様がおかしそうにクスリと笑った。

 からかわれていないのはわかるけれど、子どもを見るような眼差しに思わず唇を尖らせたくなってしまう。



「縁やきっかけがいつどこに転がっているのかなんて、神様ですらわからない。だから、そうして悩むくらいなら、なんでも見て、聞いて、触れて、自分の心と体で感じてみればよい」


「それでも、もし……来年までに見つけられなかったら?」


「ひかりは、随分と心配症だな」



 雨天様の言葉で少しだけ心は軽くなったけれど、不安を拭い切ることができずにいると、困り顔で微笑されてしまった。

 我ながら深く頷けるものの、それが本音なんだから仕方ない。



「よいか、ひかり。夢なんてものは、別にいくつになっても見つけることはできる。退職してから大学へ行ったって、年老いて身体が動かなくなってから恋をしたってよいのだから」



 ずっと未来のことで例えられたから上手く想像できなくて、すべてには共感できなかったけれど……。焦らなくていい、と言ってくれていることはしっかりと伝わってきた。



「もしも、追い詰められるような状況に陥り、心が潰れそうになっているときには、いっそのこと小さな荷物だけを手にして世界中を旅するのもよかろう」


「じゃあ、いつか私もそうしてみようかな」


「ああ、それもよいな」



 冗談のつもりだったのに、雨天様は意外にも本気で頷いてくれているようだった。



 実際にはきっと、簡単なことじゃないけれど……。


「人はみな、人生を楽しむ権利を持っているのだからな」


 雨天様がそんな風に言うのなら、いつかどうしようもなく悩んで身動きが取れなくなったときには、世界中を旅してみるのもいいかもしれない。



 そうすれば、今の私の悩みなんて、ちっぽけなものだと笑えるだろうか。



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